エピソード 57
「で?結局何だったんですか?」
ムグムグと口にパスタっぽい麺を詰め込みながらナイトが聞いてきた。
ここは前回門兵さんに話を聞いた酒場。
ランチもやってるって聞いたから、もっかい来たかったんだよね。
夜の荒っぽい感じと違って、お昼は明るい雰囲気。全開の窓からはお日様の光と外の規則的な金属音が入ってきてBGMになってる。
目の前には大きな鉄なべに入った、みんなで取り分けて食べるタイプの食欲をそそるスモーク風味な麺料理。赤いソースに乾燥野菜とベーコンみたいなお肉が入ってて、ちょっとボロネーゼっぽい?
ヘブンにはお肉を取り除いたのをあげたけど、お皿からこぼしながら夢中で食べてるし気に入ったみたい。
「なんか豆粒くらいの火薬だったみたいよ。擦って数分後に爆発するやつで、私が穴に入る時に岩の隙間にいくつか詰め込んでたんだって」
この麺パスタっぽいけど、何から出来てるんだろ。よく見ると色が黒いんだけど。
あの後、観念したのか執事さんは爆発で駆け付けた警備隊?警官?兵隊?だか何だかに捕まり、抵抗も黙秘もせず捜査に協力しているらしい。
神の使徒を監禁しようとした事や国の重要な文化財である神殿を壊した罪は重いけど、新たな部屋が発見された事や私が嫌がった事から死刑にはならないみたい。
閉じ込めようとしたのも結局無駄だったんだし、色々教えてくれたのも確かだしね。
執事さんが耳打ちした門兵もモルガミサマの信者だったらしく、モルガミ信者の執事さんが緑の使徒の私と一緒にいるのを見て何か察し、あんな態度になったのだそう。ただ、こちらは特に悪い事はしていないので、単に監視付きになっただけなのだとか。
「もう執事の話はいいっすよ。大体あの部屋見つけたのもキトル様なのに、いつの間にかアイツの手柄になってるし・・・。そっちじゃなくて、王妃様の話っす。聞き忘れてたんで」
口の中身を一気に飲み込んだナイトがまた質問する。ってか口の周りきったな!
「あ~そっちね。ん~と・・・ドワーフって女の子が生まれにくいって言ってたでしょ?そういう生き物だって言ってしまえばそれまでだけど、執事さんは大昔はそんな事なかったって言ってたし、たまに女の子が沢山生まれる家庭もあるって聞いたから、何か条件があるのかなって思ったのよ」
また口に詰め込みながらナイトがうんうんと首を振る。少しずつ口に入れなさいよ。
「で、何かきっかけがあったんじゃないかっていうのと、男性主体の社会だから女性は好きな相手とは結婚できないわけじゃん?そこら辺に鍵があるんじゃないかと思って。で、王妃様に歴史上でその転換期になった時期の記録と、既婚女性に色々聞いてもらったの」
「何て聞いたんすか?」
「まず『元々好きな相手だったのか』で『その人と子作りしたいと思っていたか』とか、あとは・・・」
ブホッ!ナイトが麺を噴き出した。
「うわ!何してんの」
「げほっ、ごほっ・・・。すんません、え、そんなこと聞いてたんすかっ?!」
そんな事とは何よ、そんな事とは。
「人間の場合だと男性の染色体で性別は決まるけど、女性の気持ちや体調、感じ方によっても変わってくるらしいって聞いた事があってさ。で、ドワーフはほとんど男の子ばっかり生まれる訳じゃん?じゃあ女性の体の方に女の子になる条件があるんじゃないのかなって思っただけだよ」
「は、え・・・せんしょ?」
「染色体!・・・まぁそれは置いといて、ドワーフの女性がこの人が好き!とかこの人と子作りしたい!と思った男性との間に生まれた子と、好きでもない決められた相手との間に生まれた子の性別を比べてみればどうかな、って思ったのよ。まさか、さぁ今から子作りしてください!って実験するわけにはいかないからさ」
「は、へ、へい」
「で、アンケート取ったら、女の子が生まれてる家庭は元々女性が好意を寄せてた相手と結婚してて、男の子ばっかりの所は決められた相手と結婚してたってわけ」
「はぁ・・・」
「歴史上では大砂嵐と大飢饉が重なった時期に女性や子供が多く亡くなって、その頃に種族を守る為に男性主体の法律が出来て、女性が結婚相手を選べなくなったらしいんだよね。これまでも男女比に対する研究はされてたらしいけど、調べるのも男性だから女性軸での視点では見てなかったんだって~。そりゃ体質が変わるほど嫌だよねぇ、好きでもない相手と子作りなんてさっ!」
「えっ・・・と、キトル様?」
「まぁね、そういうデータが出たからって確実にそうとは言えないし?結局それが正しかったのかどうかっていうのは、私が死んだ後になるとは思うんだけどさ」
「・・・すんませんキトル様、こんなとこで聞いた俺が悪いんすけど・・・」
「ん?何?」
ナイトが顔を前に出して小声になる。
「あんまり大声で、その、子作りとか言わないでもらえませんかね・・・」
はっ!
爽やかな日差しの店内で・・・お客さんの視線が私に集まっちゃってる!
ひぇぇぇぇぇ・・・!!
「キトルさまっ!お代わりありますかっ?!」
お口の周りにソースをたっぷり付けた、空気を読まないヘブンの声が響き渡った。
「ここですっ!!この部屋ですぅ!そうですそうです、ここに、子供の時来たんですぅ!」
ドワーフ王の計らいで、研究者さん達が入る前にグリンベルダさん達を連れてまた日本が描かれた部屋に来た。
「こりゃあ・・・何とも素晴らしいぞい・・・これが神の国なのか・・・?」
「そこに描かれてるのは何だ?ありゃ機械じゃねぇのか?」
「あ、ほらあの上の!アレですよぅ!私が言ってた、人が飛んでるように見えません?!」
・・・ワタシハナニモハナセマセン。
下手な事言って、神様が怒ったらヤダもん。
口の前に指でバッテン作って、無言の意思表示。
私の様子を見た三人は、何とも言えない三者三様の顔をしてたけど納得したみたい。
「しかし、非常に繊細な技術で描かれてるぞう。まるで本物のようだの」
一緒に付いてきたドワーフ王も壁を見ながら感心している。
そうなんだよね、改めて見てみても写真のように綺麗に描かれてる。絵が得意だったのかな?
「しかしグリンベルダよ、あの絵だけじゃあ人口飛行機械の手掛かりにはならんぞい。発想のアイディアにはなったんだろうがの」
「・・・そうですよねぇ。けどもうすぐ使う合成金属も出来そうですし!初心に帰るって意味でも、また見に来れてよかったですぅ」
「そうだな、これを見りゃあ飛べる訳がねぇなんて俺も言えねえなぁ」
あら、タルゴさんも仲良くなってる。グリンベルダさんと、というより二人共と、だけど。
しかし、なんでこの部屋に子供の頃のグリンベルダさんは入れたんだ?
「グリンベルダさんは神殿の奥からこの部屋に入ったんですよね?」
「えぇ、確かに携光珠を持って神殿の中を回ってて、気付いた時にはこの部屋にいたんですぅ。どうやって戻ったのかは覚えてませんけど・・・」
「アンタの子供時代なら五十年は前だろ?その頃の携光珠なら性能も悪かったんだろうし、薄暗くて迷って辿り着いたんじゃねえの?」
あ~あ、タルゴさんまた悪態ついて。
「んまっ!五十年も前じゃないですよっ!さんじゅ・・・四十年弱ですぅ!!」
長寿のドワーフでも女性はやっぱり年齢気にするのね。
でも確かに変なんだよね。迷ったって言っても、私たちはこの部屋に入る時壁を壊してやっと入れたんだから。
どんなに迷ってても入れないはず・・・。う~ん。謎が謎を呼ぶ的な感じとも言えなくはないような気がしなくもないようなそんな事もあるような・・・。
わっふわっふとミニパクちゃんたちと遊ぶミニヘブン、とその傍にいるナイトをチラ見。
うん、やっぱり私はこういうの向いてないや。
考えるのは探偵さんにお任せしようじゃないのっ!




