「幽炎」
(浮き上がった..交差していたアイツの一撃が、俺の熾天白霞を掬い上げて無効化した)
分かれる胴体、節々から漏れ出る融けた腸。
何方も滑り落ちてしまう前に、ハバルは両手で押さえて形を保ち、魔力を灯して回復に当たる。
(剣技にも、組み合った相手の剣を自分の剣と絡ませ払いのける技があるが、意図したのか、狙っていたのか....分からねぇが)
「どうだぁ!!」
「けっ..良い気になりやがって。一度上回ったくらいで....いや、ちげぇな。これで本当なら終わりだったって事だな」
激しい炎はもう僅かにしか使えない。
損傷的に、注ぐに足る器からハバルは大幅に欠けた存在に、残蔵する魔力量も底を突きかけており、身を燃やしながら肉体を治癒し、その状態を保たなくてはいけない火焔燃燿は選択肢には入れられない..その筈であった。
「運はこっちにある」
其れでも、一介の騎士として涼やかに縮まっていく事をハバルは望まず、先手を打つと同時に、吹かれずに済んだ種火を時間を掛けて再熱させていった。
「ふんっ!」
重量を期待しての大剣の落振。
その経過に重ねる様に業平は、身を引きながら横斜めに剣を振るう事で、打ち合いに至らせないだけでなく、自身の刃だけを通す攻撃に仕立て上げる。
「小賢しい」
首を傾け、ハバルは肩との間に剣身を挟み込み、引き抜けない様、筋肉で更に固めると、腹に膝を付き入れ、反撃の機会も熟さぬ内に炎を纏わせた拳で殴りかかった。
「なっ」
「ファイヤー!!」
驚く事に業平は、拳を受け止めるのではなく、風に包まれた手で炎をかき混ぜ汲み取ると、ハバルに向け横一文字に照射した。
「ふぅぅぅっっ..!!」
圧されながらも、両手を突き出して対抗するハバルであるが、指先から塵々と燃え朽ちていき、モノにされた自身の火焔の波に飲み込まれていく。
何とか主導権を取り返し、炎を霧散させた束の間、駆け抜ける音に気付く事は出来ても反応する事は間に合わず、熱された王剣が、咄嗟に繰り出した太い腕に刺しこまれ、蒸発した血が昇った。
「がっ」
同時に向けられたお互いの拳は、一挙遅かったハバルの顎だけを打ち抜く。
「おおっ!!?」
足をかけ、転ばせている間に刺さった剣を抜いた業平は、喉元に向け切っ先を振るうも、顔を掴まれ、路面に押し込まれる。
「虫けらがっ..それも煽りか!!?」
「俺は虫なんかじゃない!」
もう一度持ち上げて押し込もうとしたハバルであったが、みぞうちに柄頭をねじ込まれ手を放してしまう。
(始まりは同じで良いっ..何でも基本だ、そこから独創性で覆すっ..!!)
鞘に剣を戻し、業平は、左腕、左足を前に突き出し、右足を後ろに腰を少し落として現身となる。
力の所在譲らぬ、真ねて映るフルックヌーの立ち姿が其処にはあった。
「はぁっ!」
すり足で懐に入り込んでからの肘打ち、腕を上げ、業平はハバルの頭部に拳をめり込ませる。
左右から掴まれそうになるも、内側から抑え込んで押さえると、回す様に払い、両掌を心の音に向け突き出した。
「どうだ、これでっ..!?」
足首を蹴り上げられた業平は、こん棒を扱う様に足を握られると、力任せにお粗末に振りかざされる。
「..しつこいっ!!」
関節が大いに曲がり、痛めつけられ続ける業平であったが、幾度目掲げられると、なけなしの風力を込めて、足底をハバルの顔に打ち込む。
其れでも掴まれたまま離されず、足を前に引っ張って振りほどき、踵を突き刺して蹴り飛ばした。
「ん?....あれ、これって..腕っ!!?」
「ヴァルバドス!!!」
感触そのままに、千切れていた腕が残っていた事から愕然としてしまう業平。
恐る恐ると言った様子で目をやると、其れが運のツキとなり、残った左腕を介して放出された炎の渦に飲み込まれ、影が中で膨らんで萎んだ。
「熾天っ....白霞ぁぁっっ!!!」
形取った炎が右腕の代わりを果たし、最後の大業を築く。
(恐らく..いや、正真正銘、これが俺が生涯で最後に放てる絶死の極み。もう、治りはしないこの体、戦士としての力と引き換えの一撃。お前の死と引き換えであれば、俺も全て誇りに変えられる....だが、なんだろうな)
「未熟だが、てめぇは最大の脅威だ。そう成った、この短期間で、そうだよなっ!!!芋虫ぃぃっっ!!!」
「俺は芋虫じゃなああいっっっ!!!」
燃えた灰の中から現れた業平は、飛び出した勢いを乗せて、膝を突き入れた。
「でやぁぁぁぁぁっっ!!!」
集約された魔力の軌跡が、王剣に溶け込むように第二の刃を形成する。
当たっても、裂傷と共にすり抜けるそれは正に追撃式の二枚刃になっていて、光を反射し虹色に輝いていた。
(銀髪のいけ好かない野郎..狐女..そして、お前....続々と、今になって集いやがって)
流れる汗は熱さでも恐怖でも無く、身震いする程臨善な、勝ちを望む勝負心。
「戦士として、黄の王国の騎士として、ここで倒せなかった事を実に後悔する」
「断ち斬りぃぃぃぃっっ!!!」
剣を振るって業平は、ハバルの胴体を斜め上に斬り上げた。
ゆうきと打って勇気じゃなく幽鬼が先にくるのは絶対に可笑しい..
どう考えても多用される言葉じゃないのに何故優先されるのか、不思議だ。




