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もうすぐ近所で夏祭りがある。
そんなに大きなお祭りじゃないけど、商店街には屋台が並ぶし、当日はいつも聞いてるラジオの人も来るらしい。
何だかちょっととぼけた感じの声だから、ぽやっとした人なのかなと勝手に思ってるけど、ホントはどんな人なんだろう。
声しか知らない人だから、どんな人なのか楽しみだなあ。
和己と日和も、金魚すくいして綿飴食べるんだって張り切ってる。
俺はやっぱりたこ焼き派だなあ。
あの丸いフォルムを見てると、無性に爪楊枝にソース付けて顔描きたくなる。
青海苔ってちょっと髪の毛に似てるし。
あー、早く祭りの日にならないかな。
日記はそこで終わっていた。
大したことは書いてないけど、微笑ましい日記だ。
お兄ちゃんのちょっと変わったところは、きっとお父さんに似たのだろう。
私は日付を遡って、他にもいくつか日記を読んでみたけど、不倫を窺わせるようなことは特に書かれていなかった。
お兄ちゃんと私がケンカしたとか、お母さんに頼まれた買い物を忘れて怒られたとか、そんな他愛無い日常の出来事ばかりだ。
覚えていないことばかりで、あまりピンと来なかったけど、お父さんが綴った言葉に直接触れていると、おばあちゃん達から話を聞くよりずっとお父さんをはっきりと感じることができた。
お父さんの世界はお母さんとお兄ちゃんと私と友達でいっぱいで、そこに不倫なんて悪いことが入り込む余地はないように思える。
もしかしたら、もっと前の日記には不倫のことが書かれているのかも知れないけど、とても一日では読み切れそうにはないし、私は少しずつ読んでいくことにした。
友達の一覧に女の人らしい名前は見当たらないから、どこまで遡っても不倫のことは書かれていないのかも知れないし、できればそうであって欲しいけど。




