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クローゼットやシングルベッドが並ぶ部屋の中、明るい茶色の勉強机の奥にエレクトーンが置かれている。
ほっそりした体をTシャツとスウェットに包んだお兄ちゃんは、エレクトーンを弾いている最中で、私は勉強机の前の椅子に腰を下ろした。
私とお兄ちゃんは一時期エレクトーンを習っていたことがあって、私はつまらなくてすぐにやめてしまったけど、お兄ちゃんは向いていたようで、今でも時々こうして弾いている。
でもクラシックみたいな弾き方の決まっている曲は弾けないから、弾いているのはいつもオリジナルの曲だ。
私には音楽の才能が全然ないから、曲の良し悪しはさっぱりわからないけど、曲のテーマが何故か「昔ある国で起こった虐殺事件」だったり、「風」だったりするから、ちょっと変わった曲が多い気はする。
自分で作曲する方が、譜面通りに弾くより難しいだろうに、お兄ちゃんに言わせれば譜面通りに弾く方がよっぽど難しいらしい。
昔ピアノを習っていたというお母さんは、お兄ちゃんとは逆にクラシックは弾けるけど、作曲はできなくて、才能以上に性格の違いが大きいのかなと思う。
お母さんは真面目で几帳面な人だけど、お兄ちゃんはマイペースで自由人な感じだし。
「何か用?」
新作らしく、聞いたことのないどこか物悲しい曲を弾きながら訊いてきたお兄ちゃんに、私は切り出す。
「あのさ、お兄ちゃんってお父さんの事件のことどれくらい覚えてる?」
キーボードの上で、軽やかに踊っていたお兄ちゃんの指が止まった。




