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灰色の境界  作者: 宵時
第五章
139/141

5-29 神亡きこの現世で

 モニターに映し出された映像の中で武装した守備隊が列をなし、左右に並んで道を作っている。晴れ渡る空には雲一つない。

 そびえたつ城の巨大な門が開かれ、道化じみた派手な衣装をまとう先導役が現れ歩を進めていく。踊るようにくるくる回転しながら進み、進んだかと思えば一歩戻ってまた三歩ほど進み立ち止まって跳びはね、着地してゆるりと歩き出す。

 儀式的な動きであり、その速度は緩慢で羽虫が止まって脚の毛繕いを念入りに行い、飛び立ってもなお時間が余るものだった。

 欠伸(あくび)を誘うような(のろ)さだが、守備隊は正規装備の長槍と盾を構えたまま微動だにしない。表情にも全く変化がない。削り出した(いわお)のように物々しく、緊張感を与える相貌だ。

 高貴なる存在を前に緊張しているのか、(ある)いはその存在そのものに(おそ)れを抱いているのか。会議室内のあちこちで先導役の道化の珍妙な動きを指摘し、笑う声が聞こえる。

 誰も注意することなく、ささやかな笑声はひっそりと小さくなって消えた。

 先導役に続いて歩むのは頭の上に宝石を散りばめた冠を頂く者達。

 多くが年月による深い皺の刻まれた老齢の男性であり、その誰もが歴戦の勇士たる風格を備えている。俺達から見れば〝霊能力を持つ者〟として強大な霊力を持つことが分かる。

 冠に散りばめられた宝石は炎や氷、風といった不定形の属性を意匠化している。岩の意匠は地を表しているのだろう。

「イズガルトの議決機関は三聖霊と四精霊を合わせた七王にあります。

先に進む四名が四大精霊と最初に契約したとされる家長達であり――」

 クレスが映像の解説をする間に四人の精霊王が進む。

 続くのは守備隊とは別に銀甲冑をまとった者達を引き連れた者達だった。

 先の四名と同じく冠に意匠化した属性を頂くのは同じだが、歩む者の顔は銀色の仮面に覆われており年齢はおろか性別すら分からない。

 後に続く二人も同じく顔を隠している。秘められた素顔とは裏腹に放たれる圧力は先の四人にも増して強く、より上位の存在であることを感じさせた。

「火、水、風、地……四大属性を束ねる空。存在する間を刻み込む時、そして在るべき場所を切り拓く光の三家のうち、光を統べる者達が異国へと足を踏み入れた」 

 クレスの言葉が続く。先頭の者が身に着けた銀仮面には流れ渦巻く風が表現され、続く者には放射状に輝きを振りまく意匠が面に刻まれている。

 最後尾をゆるりと歩く者は短針に長針、古時計に砂時計とあらゆる時を刻むものを織り交ぜて司るものを表現していた。

 七人が進んだ先には広大な空間が広がっている。高く壁が築き上げられ、世界から切り取られたのは演習場のようだった。緩衝材の巻かれた壁面へ向かって数名の少年少女が手のひらを向けて何事か呪文を唱えている。

 一瞬だけ、少年少女達の肩に小人が座っていた。

 赤い肌の小鬼のようで、大きな目と可愛らしい唇を持つ妖精にも見える。

 小鬼だか炎妖精だかが肩の上で跳びはねる。少年少女の手から火種が生まれた。生まれた熱い息吹は大気を捉える前に練りだした当人の力を糧に大きくなり、小さな炎となる。五指を広げて手首を捻り、空気をかき回す。炎が球体となっていく。何回転かして払うように手を振ると作り出された火球が放たれた。

 大気を引き裂き、酸素を吸収してさらに大きくなって壁際に設置された標的へと命中。炎上させる。間髪入れず水球が飛来して燃え上がる標的を鎮火させた。

 近くで別派の少年少女達が水の球を手のひらに生み出ている。

 別の者は体の各部に透明な、水を用いた鎧を着込んでいた。また別の者は水柱を立てて空へ伸ばしている。彼らの肩には水色の小鬼だか妖精だかがいた。

 けたたましい崩落音が響き渡る。

 また別の一派が魔術を用いて実践演習を行っている。

 肩に黒茶色の小人を座らせている少年が手を地面につけて何事かを呟く。

 軽い振動が生まれ、地面が隆起し土の壁が生み出された。

 直後、左方から空気を裂いてきた刃が壁に着弾。出現した壁は空間へと固定される前に形状を維持する枠を破壊されたようで柔らかい砂へと還る。

 別の少年が鈍い輝きを宿す右拳を地面へ叩き付けた。

 地面が振動し土が隆起する。

 が、壁を生み出すのではなく水面を叩いたように波立って地を耕していく。

 両腕を前方に突き出し、今まさに風刃を放ったと思われる少女が立ったまま硬直している。少女の前に翡翠色の体を持つ愛らしい姿の小人が現れた。遅れて少年が対峙する少年と少女の間に割り込む。同派の少女を背にし、風の少女を伴った少年が神に祈るかのように両手を合わせる。続いてそろりと合わせた手を離すと右手と左手の間に()じれ渦巻く球が生まれていた。

 少年は捕まえた蝶を放すように、優しく球を投げて術式の文言を告げる。

 ばぐん、と一際大きく破裂音が鳴った。続いて轟音が響き、突風が巻き起こる。

 砂を拾って視界を隠し、吹き荒ぶ衝撃に土を操った少年が口元を腕で隠す。

 風が流れていき、ゆっくりと視界が晴れてきた。

 地を掘り返し(えぐ)って進撃していた土の波は消えてる。

 否、進行していた空間ごと半円状に削り取られていた。

 風の加護を受けた少年と少女の手には新たな球が生み出されている。

 恐らくは、瞬間的に周囲の大気を巻き込んだことで急速に圧縮された空気が行き場を失い、解放された方向へ殺到し吐かれた空気が突風となったのだろうか。

 原理は定かではないが、実際に映像の中で起きている。

 火の担い手と水の使い手が魔術をぶつけ合い、風の申し子と土の魔人が実戦さながらの動きを見せる。これが、届かなかったはずの場所に届かないことを認めず足掻(あが)いてもがいて手を伸ばし続けてもぎ取った〝結果〟なのだろう。

 火に水、風と土が下位四大属性と位置付けられ上位に時・空・光があるのならばより強大な力を操るものと考えるべきか。

 映像が切り替わる。軍勢と軍勢が対峙する光景が映し出された。

「イズガルトの民は届かぬ場所へ至ったからこそ、持つ者が増えすぎることを嫌いました。血脈と家柄で受け継がれ、極々少数にだけ受け継がれる秘術であるが故に他と交わることを拒んだ。同時に特異な力を持つ者を管理すべく魔滅者(マギバスター)を選出していきました」

 棍棒や斧を手に革鎧を着込んだゴブリンやコボルドが叫びながら突貫していく。

 対峙する魔滅者達は耳を(つんざ)く亜人の殺意に怯えることなく、整然と隊列を組んでいた。先頭にいる者達が手のひらを前方にかざし、各々の唇が文言を告げる。

 一斉に氷球が斉射され、亜人連合の前衛へ殺到。ゴブリンの頭部を撃ち抜いて勢いのまま脳漿(のうしょう)が後方へ飛び散っていく。同朋が撒き散らした血や脳片に怯むことなく、むしろ後押しされるように怒号と共に亜人はひたすら前に突き進む。

 人間側は前列にいた者達が後方へ退避、代わりに最前線へ出てきた者達が手のひらを掲げて術式を紡ぐ。風が巻き起こり、刃となってコボルドの群れを襲う。

 頬を裂き、腕を切断し足を断ち割って一角を崩す。列を乱すも、亜人達は止まることなく倒れた同朋の背を踏み越えて進む。傷を負った者が無事な者へと飛来する風刃を防ぐべく跳躍し自身を犠牲にして盾となる。鮮血を流し倒れて事切れてゆく屍を乗り越えて亜人の軍勢は振り返らず突き進む。

 届かぬ境地へ、それでも手を伸ばした人間達のように届かないとしても到達して憎き敵へと手にした凶器を叩き込むためだけに死の行軍を続けている。

「ゴブリンやコボルドに魔法なんか使えるのか?」

「いや、文献によるとどちらも魔術的素養はなかったはず……」

「まるで竹やりで戦闘機に立ち向かうようなもんだ」

「そりゃいつの時代の例えだよ」

「なら鉄パイプ握って機関銃の前に飛び出るようなものか」

「まさに死にに行ってるようなものだ。届くはずがない」

「…………これじゃあ、一方的な虐殺じゃねぇか」

 映像を見ている者達が口々に囁きだす。

 例えが正しいかどうか置いておくとして、一般に小柄な体躯による敏捷性を生かした集団戦法を得意とするゴブリンやコボルドに対して魔術による砲撃は非常に効率のいい戦術だろう。いや〝戦術〟ですらないか。

 隊員達が口にしているように、戦闘にすらなっていない。

 魔滅者からすれば自殺志願者共を掃討しているだけに過ぎないのだ。

 体力に底があるように霊力や魔力も無尽蔵というわけではない。限りがある以上、撃たせ続ければいつかは限界が見えてくるだろうが、消耗を狙った捨て駒にしても扱われるゴブリンやコボルドからすれば余りに残酷な特攻命令だ。

 死の絶叫が鳴り響く中、魔術攻撃は続き亜人側の軍勢は次々と倒れて戦場に血の川を流す。先頭をひた走るゴブリンやコボルドの目には鋭い意志の光が宿る。この手に握る武具に怒りや憎しみや死者の怨嗟諸々の全てを込めて人間の頭蓋骨を叩き割り、脳漿をブチ撒いて歓喜の雄叫びをあげるのだと瞳で訴えていた。

 氷弾に続き風の刃を放ち終えた魔滅者達が後方へ退いていく。

 もう少し、後少しで接敵する。

 同朋の亡骸を踏み越えて突き進んできた亜人達に一縷(いちる)の希望が見えてきた。

 それも一瞬だけ。隊列の三番目に控えていた者達の登場で希望は絶望の黒に塗り潰されてしまった。水の使い手、風の担い手に続いて戦場の最前線へ出てきたのは全身に黒々とした蟲の甲殻にも似た鎧を着込んだ兵士だった。

 突撃してくるゴブリンやコボルドへ向かって、黒鎧の兵士達が大きく一歩を踏み出し前へと進む。携える武具はなく、鎧だけを着込んだ突進だった。

 何か意図があるのか。別の目的があるのだろうか。

 ひたすら進む亜人達は考えることを辞めた。

 相手の思考を読み解くことに意味はない。

 仮に分かったとしても、やることは変わらない。

 この手で憎き人間を討ち滅ぼす。

 そのために仲間を犠牲にし屍を踏み越えて突き進む。

 黒鎧の兵士と斧を高く掲げたゴブリンが激突する。

 同朋の血で戦化粧を施したゴブリンが先頭の人間の頭目がけて斧を振り下ろし、腕だけを残して一瞬で無数の肉片へと変えられ飛び散って逝った。

 驚愕する暇などなく、接敵していたゴブリンやゴボルドは次々と破砕されて肉片と化し、戦場に新たな血と破片を足していく。

 連続して爆発音が響いていた。亜人を破砕して吹き飛ばした人間達は鬱陶しそうに肉片や脳片を拭って振り落とす。それぞれの鎧の形状が変わっていた。

 ある者は肩口から槍のような突起物を生やしている。別の者は腕に鋸のような刃を生やしていた。また別の者は胸郭辺りから尖塔を生み出していた。

 彼らは武具を持たないわけではなかった。

 各々が作り出した部分がゆっくりと崩壊し、元の黒鎧を形成し直す。

 土を操る地精霊の加護を受けた者達なのだろう。

 黒い鎧が明々と照らされる。

 道中で息絶えた者も含めて、亜人の死体に火が放たれていた。

 火勢を増して燃え広がっていく。肉の一片血の一滴すら残してやらぬ強く固い意志が見て取れる。亜異なるものの存在そのものを失わせる浄化の焔が巻き上がる。

 炎上する紅の世界を黒鎧の兵士が大地を踏みしめて帰還していく。

 終わってみれば映像はただ魔滅者が亜人の軍勢を虐殺しただけのものだった。

 映像が切れるのを待ってクレスが小さく咳払いをする。

「……今のは魔術的対抗手段を持たないゴブリンやコボルドでしたが、彼らが殲滅を目指す最大の目標は〈渇血の魔女(ワルクシード)〉でした。尤も、精鋭も彼女らには苦戦し、また多くの亜人が住まうエリス連合国圏内への逃亡を許したことで力押しだけでなく、より自身の力を高めることに注力するようになりました」

 再び映像が流される。映ったのは旧日本の古い町並みだった。

「アルメリア……いえ、まだこの国が日本と呼ばれていた頃から各地に信仰があり、英霊を奉る祠や悪しきものを封じた洞窟、霊験を積む修練山など良い意味でも悪い意味でも人々は自身に在らざるものに触れ、信仰という形で関わりを持った」

 アルメリア、旧日本には明確な宗教の形は決められていない。

 何を信奉することも、何をも信奉しないことも認められ自身で新たな宗派を切り拓いて信者を集めることすら許されている。他国からすれば在り得ない状態がまかり通り、だからこそ他国より来た光を従える者は苦慮したのだろう。

 俺の想像を補足するようにクレスが言葉を重ねる。

「イズガルトから旧日本の霊地を監督する任を受けた光を統べる者達はその名を〝聖〟と改めて活動を始め、ゆっくりと勢力を広げていった。ただ――」

 クレスの蒼い瞳がある方向へ向く。全員の視線が向かう先を追いかける。

 一斉に視線を浴びた千影は(わずら)わしそうに鼻を鳴らすも、自身の席で堂々と足を組んで座っていた。片目を閉じて悪戯っぽい茶目っ気を見せた千影が口を開く。

「そうだな。私がまだ父の下で牙を()いでいた頃からきな臭い噂が立っていた。外部の者が霊地や霊脈を探って荒らし回っている、と。それに賛同する者がいる一方で、古来より頂く神の名の下で頑なに守護し続ける者もいたな」

「慣れない地というのもあり、一旦は様子見で地盤固めを優先したようです」

「アルメリア……いや、日本人は何にでも(すが)るからな。(わら)にも縋るという言葉もあるし、外部からの侵略者だろうが害虫共を根こそぎ潰した上で、自らの身辺や生活に影響しないのであれば執行者集団ですら平気で都市伝説上のものと崇めだす……実に愚鈍で、平和なものだな」

 千影の言葉は自虐のようでもあったが、顔は(たの)し気な笑みを浮かべている。

 戦いを避けることはできないだろう。なりふり構わず、自身の血に連なる者だけでなく多方面から戦力をかき集めている〈聖十二戒団(ホーリー・ツイスター)〉との衝突は必然。

 かつて、人の到達し得ぬ場所へ手を伸ばし届かないはずの場所へ至ったイズガルトの民は神に縋るのではなく、自分自身を特別な存在として類似した力を持つ者達を抹消しに動いた。

 (まご)うことなく自分だけの世界を構築する行為であり、悪と断じざるを得ない。

 届かないはずの場所へ届いてしまったが故に、特別な存在となった自分達の地位が失われることを恐れて他を害し〝守り〟に入ってしまった。

「さて、俺達はどうなんでしょうかねぇ」

 囁く声。聞こえない、聞きたくない。それでも耳に入ってしまった。

 拒絶しても深層意識に侵入してくる。自己問答を強制される。

「俺達の中にも、自分だけは特別だと思う奴がいるんじゃないですかねぇ」

 お構いなしに声は俺の内側に響いてくる。

 何をもって〝特別〟とするかで意味合いが変わってくる。

 特異性でいえば俺達は等しく、生まれながらにして常人より短命である呪いをかけられた存在だ。だが、それも解呪を目指せば特別ではなくなる。環境によって差別を受けたり苦難を背負っても当人が普通であることを目指せば関係ない。

「違う」

「誰もが抱いていないと断言できるかなぁ」

「当たり前だ。でないと――」

「じゃないと、人間の癖に罪の執行者なんてやってられないですからねぇ」

 ずくり、と言葉が刃となって胸に沈み込む。

 特別だと思わないのであれば人を殺すことなんて出来やしない。

 殺人は立派な罪だ。自らの意思で殺そうが、誰かに唆されようが等しく同じ罪だ。例え親が殺されたからと殺した相手を殺せば同じ人殺し同士になる。

「応報できず、意味を失い〝言葉〟に縋っているのでしょう?」

「違う! 俺は――」

 机を叩いて立ち上がる。俺の奇行に全員の視線が集まる。

 千影が出来の悪い子供を(たしな)めるような眼で俺を睨んでいた。

「連中に大義はない。霊脈や霊地を狙い、邪魔になる我々を消したいだけの小悪党だ。アーク小隊の境遇からも分かっただろう。何を信仰しようが、実際にこの現世(うつつよ)に神なんぞいない。在るのは世界の裏側で蠢く、我らのような闇の執行者だけだ」

「いえ……分かってます。連中が私利私欲のために虐殺を繰り返してる、と」

「いい殺しも悪い殺しもあるか。殺人は罪でしかない。

我々は罪によって罪に罰を与える。あれほどの目に遭いながらもまだ拒絶するのか」

「…………それでも、俺は」

 神なんて偶像。都合のいい存在。そんなことは分かってる。

 自分が不幸な目に遭ったから神はいない、というのも勝手な話だ。

 単純に全てが都合よくいくなんてことはないと理解しているだけ。どこにも障害がない道などあり得ないし、乗り越える壁や打ち砕く敵があるからこそ人は足りない部分を補って成長できる。そうやって、ここまで歩いてきたはずなんだ。

 千影の言葉は自身の罪を否定しているのではない。徹頭徹尾、殺人は更生できぬ存在を世界から取り除く手段でしかないと告げているだけ。

 分かっている。自分達の利益を守るためだけに多くの犠牲を生み出した常倉一派は滅ぶ応報を受けて当然のクズだった。

「自分が生き残るために、息子を手にかけようとした父親もな」

 まただ。抉られる。削られていく。

 どこまでもどこまでもついてきて、すり寄って食らいついてくる。

 逃げ場を次々と潰して追い込んでいく。

 〝もう、それしかないのだ〟と思い込ませる。

「――以上が、〈聖十二戒団〉の動向です」

「ふむ。あくまで防衛戦を装いつつ、各個撃破を狙うわけだな」

「連中は少数精鋭で外側。こちらは拠点で霊地脈の後押しもあり、数でも勝る。

力を伸ばしてくる前に打って出るのが得策だと思いますがねぇ」

「よし、各自情報を共有せよ。連中の力が覚醒する前に滅ぼす。

これより対〈聖十二戒団〉作戦〝聖呪(セイントドグマ)〟を発動する!」

 千影の宣言で会議室内が沸き立つ。熱気の中、一人だけ取り残されている。

「来々(くるるぎ)隊長、大丈夫ですか」

 肩を叩かれる。首を動かすと、灰羽(はいば)の顔があった。

 心配そうな言葉とは裏腹に、顔には陰湿な笑みが貼り付いている。

「対話によって解決を図る時期はとっくに過ぎてます。()るしかないですよ」

 既に決まったことだ、と灰羽が言外に告げていた。

 話し合いで終わらないことは俺自身が一番よく分かっている。

 躊躇なく亜人を滅する魔滅者達を止めるには武を用いるしかないだろう。

 接敵した聖三兄弟は殺意を剥き出しにしていた。叩かれる前に叩くという方針は分かる。連中を放置できないというのも分かる。

 対峙し止めることに反対するわけではない。

 それでも、俺は灰羽の笑みに言葉にできない不安を覚えていた。

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