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対面を取り繕うだけの結婚と断言した女王様が、本気で俺を攻略しようとしているのだが。 The Clumsy Queen  作者: 霜月立冬


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第一話 不遇な王子

 俺、マティス・エルスは、エルス王国国王マーエル・エルスの第四子として生を受けた。俺の上には二人の兄と、姉がいる。名前はギーレル、ドゥエル、ケティリア。 

 兄王子達は、それぞれ父の家業(国政)に従事している。王族ということも有って、それぞれ財務、国防、尚書(しょうしょ)といった重要な役職の長官を任されている。

 それに引き換え、俺は無役同然。三十近くなっても殆ど何もせず、茫洋と日々を過ごしている。その事実に、父王は頭を痛めていた。


「お前は、いつになったら真面(まとも)に働いてくれるのか?」


 父王と顔を合わせる度、俺の耳に胼胝(たこ)ができるほど小言を言われた。それに対して、俺は「いつかやります」と苦笑を浮かべるだけ。俺のおざなりな態度に、父王は蟀谷(こめかみ)を抑えて盛大な溜息を吐いた。しかし、呆れている者は父王ばかりではない。俺の怠惰な態度は、王宮だけでなく、王都民にも知れ渡っている。

 世間では、俺のことを「放蕩王子」と揶揄している。その事実は、俺も知っていた。その呼称が耳に入る度、俺は「仕方がない」と苦笑するだけ。他人から見れば馬耳東風だろう。尤も、俺の心中は余り穏やかではない。世評を全く気にしていないと言えば嘘になる。

 俺の心底には、今も「国や父王の役に立ちたい」という想いが燻っている。しかし、それを実現する機会は、現況では得られなかった。


 嘗て、俺も国政にかかわる仕事に従事していた。兄王子達の下に就いて働いていた。それぞれの元で、より良い国政の為に何度か議案を提出したことも有った。しかし、俺のアイデアがが実行された例は無い。


 俺が意見する度、必ず横槍が入る。その槍の担い手は、俺の上にいる三人の兄姉達だ。


 兄王子達は、俺のアイデアを悉(ことごと)く却下した。それぞれの言い分は、俺には理不尽と思えるものばかり。

 画期的なアイデアを出せば「前例が無い」と却下される。

 故事に倣ったアイデアは「現代とは違う」と却下される。

 過去の資料を参考にしたアイデアは「今年は状況が違う」と却下される。

 今年の資料を参考にしたアイデアは「お前は現場を知らない」と却下される。

 現場の意見を参考にしたアイデアは「下々の者は国政を知らぬ」と却下される。

 他の廷臣達が評価しようとも、兄姉達は頑なに俺の意見を受け入れない。何故なのか?


 兄王子達が俺の考えを受け入れない理由は、端的に言えば「嫉妬」だ。


 俺は、兄姉達が誰も叶わなかった世界最高峰の大学、ウガリット大学に入学し、そこで主席を争う好成績を収めた。その事実が兄達の不興を買った。

 大学を卒業して国に戻ったときに、既に俺の居場所は無くなっていた。

 俺に任された王族の仕事は、全て兄王子達が関与している。彼らにかかわりの無い仕事であろうとも、それぞれから全力で邪魔をされた。その度に、俺の口から愚痴が零れた。


「もう少し早く生まれていれば」


 エルス王国に留まり続けている以上、俺が日の目を見ることは無い。何事か成すには、国を出る以外ない。だからと言って、旅に出ることは躊躇(ためら)われた。


 王族として育った俺に、外で生きていくノウハウは無い。王族が生きていける場所は、王宮以外にない。


 より良い国政を行う為に、俺は勉強に励んできた。その為に半生を費やしている。脳内では様々な国策が積み上がっている。しかしながら、それらを活かす機会は現況では不可能だろう。


 俺は、どうすれば良い?


 第四子という立場では、独力での解決は不可能。その事実は身に染みて理解している。俺が現況から逃れる術は無い。周りから疎まれながら茫洋と日々を過ごす他ない。そう思っていた。

 ところが、全く予想外のところから現況を打破する救いの手が差し伸べられた。その事実を俺に伝えた者は、俺のことで一番頭と胸を痛めている父王だった。


「マティス。お前は他国の婿(むこ)に成る気は有るか?」


 父王は、俺に縁談の話を持ち掛けた。俺の不遇を思ってか、或いは役立たずの厄介払いか。何れにせよ、俺にとっては国を出る絶好の機会。


「有ります」


 俺は相手を確認しないまま縁談の申し入れを即応で受けてしまった。その選択に後悔は無い。

 しかし、後から結婚相手のことを知ったとき、俺の額に嫌な汗が滴った。


 俺の結婚相手は北方の小国イェマの女王、イルメリ・イェマ。


 イルメリは、世間から「氷の女王」と呼ばれている。その異名通り、氷像と錯覚するほど無表情で、誰に対しても冷淡に対応している。正直、面倒極まりない女性だ。その事実を思うと、俺の少しだけ頭が重くなる。だからと言って、拒否する気は全く無い。それに、周囲の人々も支援している。兄王子達に至っては――


「これで役立たずを放逐することができる」


 悪意を込めて、俺を追い出そうと躍起になっている。そのお陰と言うべきか否か、考えるほどに俺の首が傾ぐ。まあ、それはそれとして。

 かくして、俺とイルメリの婚姻は誰の反対も無く爆速で成立した。


読んでいただきありがとうございます。よろしければブックマーク、評価いただけるとありがたいです。

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