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週末限定、異世界ソロキャンプ! ~残業疲れのOLが現代のキャンプギアとスーパーの食材でまったり飯テロ極めます~  作者: RIU


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第28話:オーク肉の挑戦状

木々の葉がすっかり色づき、時折吹き抜ける風に冬の足音が混じり始めた頃。

異世界ファルマ大陸の深い森の奥で、千秋ちあきは愛用のローチェアに深く腰掛け、大きく伸びをしていた。

金曜日の夜に現実世界のアパートの勝手口からこちら側へと渡ってきて、手慣れた様子でワンポールテントとヘキサタープを設営し、一夜を明かした土曜日の昼下がり。

最近はすっかり気温も下がり、防寒着を着込んでいても肌寒さを感じる季節になってきた。しかし、キャンパーである千秋にとって、この澄み切った冷たい空気こそが最高のご馳走である。

千秋は焚き火台に組んだ薪に火をおこし、チロチロと揺れる炎を眺めながら、チタン製のマグカップに入れた温かいコーヒーをゆっくりとすすった。


「はぁ……落ち着く。今週も仕事でめちゃくちゃストレス溜まったけど、この焚き火の匂いを嗅ぐと全部リセットされる気がするなぁ」


平日の五日間、理不尽な要求ばかり突きつけてくる上司や、一向に減らない書類の山と格闘し、すり減った精神を癒やすための週末ソロキャンプ。

とはいえ、最近の千秋のキャンプは「ソロ」とは名ばかりの、非常に賑やかなものになりつつあった。

薪割り係の槍使いジンツ、洗い物係の魔法使いサリサ、食材調達係の女騎士リネット、スイーツ目当ての重戦士バルガス、そして現代ギアの構造に狂喜するエルフの植物学者ロイド。

彼ら異世界の住人たちが、千秋の作る日本のキャンプ飯の虜となり、週末になると当たり前のようにこの結界の中へと集まってくるのだ。


「そろそろ、みんな来る時間かな。今日のお昼は何を作ろう……」


千秋がクーラーボックスの中身を思い出しながらメニューを考えていた、その時だった。


――ズシン、ズシン、バキィッ!!


森の奥から、まるで大型の魔獣が木々をなぎ倒して進んでくるかのような、凄まじく重い足音と枝の折れる音が響いてきた。

普段ならランタンの結界があるため魔獣が近づいてくることはないが、千秋は念のため身構えた。

しかし、茂みを掻き分けて現れたのは、見慣れた二人の男たちの姿だった。


「チアキ!! いるか!! 今日はとんでもねえ大物を手に入れたぜ!!」

「魔女殿! 本日は我らの期待に応えてもらうべく、極上の品を持参したぞ!」


大声で叫びながら姿を現したのは、槍使いのジンツと、顔に巨大な刀傷を持つ重戦士のバルガスだった。

二人は、信じられないほど巨大な『何か』を、太い木の枝の両端を肩に担ぐようにして運んできたのだ。

その『何か』は、丸太のように太く、赤身と白い脂身が美しい層を描いている、生々しい巨大な肉の塊だった。


「えっ……なにそれ!? すっごいデカい肉!」


千秋は驚いてローチェアから立ち上がった。

二人が「どっこいしょ」と重そうにアルミロールテーブルの上にその肉の塊を下ろすと、ズシンという音と共にテーブルが悲鳴を上げた。

重さは優に十キロ近くあるだろうか。スーパーマーケットの精肉コーナーでは絶対に売られていない、野生味あふれる完全なる「ブロック肉」である。


「へへっ、驚いたかチアキ! こいつはな、今朝ギルドの討伐クエストで俺とバルガスの旦那が仕留めた、巨大な『オーク』の肉だ!」

「オーク肉……?」


ファンタジーRPGなどでお馴染みの、豚の頭を持った亜人のようなモンスター、オーク。

しかし、このファルマ大陸におけるオークは、亜人ではなく「極めて凶暴で巨大な野生の豚の魔獣」として認知されているらしい。


「そうだ。オークの肉は、普通の豚肉なんかとは比べ物にならないほど旨味が強く、脂には独特の甘みがある。まさに豚肉の上位互換とも言える極上の食材なのだ」


バルガスが腕を組み、誇らしげに鼻を鳴らした。

確かに、テーブルの上に鎮座するオーク肉のブロックは、赤身の鮮やかさといい、脂身の厚さといい、見るからに美味しそうだ。

しかし、千秋は一つ疑問に思った。


「そんなに美味しいお肉なら、どうしてギルドで売ってお金にしなかったの? これだけ大きければ、けっこうな値段になるんじゃない?」


千秋の問いに対し、ジンツとバルガスは顔を見合わせ、少しだけ気まずそうに視線を逸らした。

ジンツが後頭部をボリボリと掻きながら、口を開く。


「いやぁ……確かにオーク肉は美味いんだけどよ。実はこいつ、一つだけすっげえ厄介な問題があってな」

「厄介な問題?」

「ああ。オークの肉は、旨味が強い分、筋繊維がめちゃくちゃ太くて強靭なんだ。要するに……このブロックのままじゃ、硬すぎて絶対に噛み切れないんだよ」


ジンツの言葉に、バルガスも深く頷いた。


「左様。我々のような屈強な戦士の顎をもってしても、このサイズのオーク肉をそのまま焼いて食おうものなら、まるでゴムの塊か、硬い靴底を噛んでいるような有様になる。異世界(この世界)の常識では、オーク肉を食うなら、紙のように薄く切り刻んでスープに入れるか、それこそ三日三晩、鍋でドロドロになるまで煮込み続けるしかないのだ」


バルガスの顔の刀傷が、過去の硬いオーク肉との格闘を思い出したのか、ピクッと引き攣った。

旨味は最高だが、硬すぎて塊のままでは食べられない。

それが、異世界ファルマ大陸におけるオーク肉の絶対的な評価であり、常識だった。だからこそ、市場でも細切れにされたものしか出回らず、このような巨大なブロック肉のままでは買い手がつきにくいのだという。


「なるほどね……。硬くて噛み切れない、か」


千秋は腕を組み、テーブルの上の巨大な肉塊をじっと見つめた。

そんな千秋に対し、ジンツが期待に満ちた、キラキラとした瞳を向けてきた。


「でもよ! 俺たちは考えたんだ。チアキなら……数々の常識外れの魔法みたいな料理を作ってきたチアキなら、このデカい塊肉を、最高に美味く、しかも柔らかく食わせてくれるんじゃないかってな!」

「うむ。男たるもの、やはり肉は『巨大な塊のまま』豪快に喰らいたいというロマンがある。魔女殿のその神秘の調理技術カガクをもってすれば、このオークの肉塊を、我らの顎でも噛み切れる極上の逸品に昇華できるのではないかと思ってな」


ジンツとバルガス。

この二人の、純粋で、無謀で、しかし圧倒的な「食に対する執念とロマン」。

普通なら「無理だよ、そんな硬いお肉」と断るところだろう。しかし、彼らが持ち込んできたこの挑戦状は、千秋の奥底に眠っていた『キャンパーとしての本能』を強烈に刺激してしまったのだ。


「巨大な塊肉のまま、豪快に喰らいたい、ね……」


千秋の口角が、ニヤリと悪魔的に吊り上がった。


「男たちのロマン……か。ふふっ、キャンパーにとってもね、『でっかい塊肉をワイルドに調理する』っていうのは、絶対に外せないロマンの一つなんだよ」

「おっ!? チアキ、ってことは……!」

「その挑戦状、受けて立つよ! この十キロの極上オーク肉、私が責任を持って、歯がなくても噛み切れるくらいホロホロでトロトロの、最強の塊肉料理にしてあげる!」


千秋が力強く宣言すると、ジンツとバルガスは「うおおおぉぉぉっ!!」と歓喜の雄叫びを上げてハイタッチを交わした。

男たちの胃袋とロマンを満たすため、千秋の頭の中ではすでに完璧な調理工程が組み上がっていた。


「とはいえ、ただ焼いただけじゃゴム底みたいになるのは目に見えてる。三日三晩煮込む時間なんてないし、今日の夕方までには完成させたい……。となると、やっぱり『アレ』の出番だね」


千秋はテントの奥、キャンプギアを収納している頑丈なコンテナボックスへと向かった。

そして、その中から、両手でしっかりと抱え込まなければ持ち上がらないほどの『重い黒鉄の塊』を取り出してきた。


ドスンッ!!


テーブルの上にそれが置かれた瞬間、ずっしりとした金属の重みが周囲の空気を震わせた。

それは、真っ黒な鋳鉄ちゅうてつで作られた、分厚くて重厚な蓋つきの深い鍋だった。

現代のキャンパーたちが「魔法の鍋」と呼び、これ一つあれば焼く、煮る、蒸す、揚げる、すべての調理を究極の次元でこなすことができる最強の調理器具。


「チ、チアキ……なんだ、その恐ろしく無骨で重そうな鉄の箱は……?」

「ただの鍋ではないな。その分厚さと黒光りする表面……並の鍛冶屋では到底打てない代物だ。まさか、またしても伝説の拷問器具か何かか……?」


ジンツが恐る恐る尋ね、バルガスが警戒の目を向ける。

千秋はその黒鉄の鍋の蓋をポンポンと叩き、自信満々に笑った。


「これはね、『ダッチオーブン』っていうの。キャンパーのロマンが詰まった、最強の万能鍋だよ。この分厚い鉄が食材に均一に熱を伝えて、さらに重い蓋が圧力をかけて密閉状態を作るから、どんなに硬いお肉でも、短時間で中まで柔らかく煮込むことができるの!」

「だっち・おーぶん……! 圧力をかけて密閉する……だと!?」

「そう! でも、ただお水で煮込むだけじゃ面白くないでしょ? 今回は、このオーク肉の旨味を最大限に引き出して、しかもお肉の繊維を極限まで柔らかくするための『とっておきの秘薬』を使うからね」


千秋はダッチオーブンを傍らに置き、今度はクーラーボックスの中へと手を伸ばした。

そして、中から取り出したのは、一本のペットボトルだった。

透明なプラスチックの容器の中に満たされているのは、光を通さないほどに真っ黒で、少し振るとシュワシュワと不気味な泡を立てる謎の液体。


「よし、準備完了。今日のメニューは……『ダッチオーブンで作る、極上オーク肉の特製コーラ煮』だよ!」


千秋がペットボトルを掲げた瞬間。

ジンツとバルガスは、その黒くて泡立つ毒々しい液体を見て、一斉に顔面を蒼白にして後ずさった。


「ヒィッ!? チ、チアキ!! なんだその、毒沼の泥をすくってきたような真っ黒な液体は!?」

「ま、魔女殿……! いくらなんでも、そんなスライムの体液のような毒薬で肉を煮込むなど……我々を毒殺する気か!?」

「違う違う! 毒薬じゃないから! これは『コーラ』っていう、現代のカガクが生み出した最強の調味料兼、美味しい飲み物なの!」


千秋がいくら否定しても、異世界の戦士たちの目には、その黒くて炭酸の泡が弾ける液体が、極悪非道な魔女の秘薬にしか見えていなかった。


しかし、千秋の決意は揺るがない。

硬いブロック肉を短時間で柔らかく煮込むための、キャンパー御用達の最強の裏技。コーラに含まれる炭酸と酸味がお肉のタンパク質を分解して極限まで柔らかくし、さらに大量の糖分が煮詰まることで完璧なテリヤキソースのような照りと旨味を生み出すのだ。

コーラ煮を知らない異世界人にとっては恐怖でしかないだろうが、完成すれば必ず彼らは涙を流して喜ぶはずだ。


「いいから見てて。絶対に『俺たちの知ってるオーク肉じゃない!』って言わせてみせるから」


千秋はダッチオーブンの蓋を開け、巨大なオーク肉のブロックを睨みつけた。

男たちのロマン肉と、現代のキャンパーの叡智が激突する、最強の時短煮込み術の幕が、今ここに切って落とされた。

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