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10/10

10 読みすぎてスランプになってしまった私。ダレカタスケテ。




 私は今、緊張している。

 すっごい緊張している。

 

 何故ならこれをクリックすれば、私の初作品が世界に放たれるのだから。


 「小説家になってやれ!」

 

 ネット小説投稿サイト界隈では最大手であるこの大海に、いざ征かん!


 ……そう覚悟を決めて早くも5分が経過した。いや、自信が無い訳ではない。ビビっている訳ではないのよ?ちょっとあっちを直し、こっちを見直ししていたら、どんどん時間が経ってしまい………あぁ、どうしよう、また時間が進んでいる!こんな事なら「最初位自分の手で」とか考えずに「時間指定投稿」にしておけば良かった!


 しかし、しかしだ。


 私が5年かけて妄想……いや構想を練り上げた処女作にしてこの大作、発表と同時にドカーンと読まれたら、メディアミックスなんか打診されたらどうしよう?


 フ………フハハハハハ………!

 いやー、そんなぁ天才だなんて?




 ぽち。

 


 って、しまった押しちゃったよ!

 うわー!うっわー! 


 でも、これで私も小説家の端くれかぁ。 

 フフ………じゃあ1日でどれくらい読まれるか、明日の朝を楽しみにしとこうっと。


 

 そして翌朝。目の前に表示された数字は、厳しい現実を「目を覚ませボケ」とばかりに突きつけてきた。




 『閲覧数 8pv』




「えっ、8…ですって?」


 一瞬我が目を疑った、貫禄の一ケタ。「もしや投稿時間が夜10時をまわっていたせい?」なんて考えてみたものの、その後も棒グラフは一向に成長する気配を見せない。まるでゴルフのグリーンに生える芝生のように短いまま。私の夢も希望も自信も将来計画も木っ端微塵になったのだった。




 しかし私は諦めなかった。


「ならば私が書きたいものではなく、読者ウケするものを書いてやるー!」


 まずは読んでもらうことを最優先であることと考え直し、私はサイトの「表紙」を飾るランカーたちの作品を読みまくり、分析を試みた。その結果は…


・異世界に転生した一般庶民が

・悪役令嬢として、もしくはおっさんが

・偶然与えられたチートスキルをもってして

・ざまぁ(復讐)するかスローライフに勤しむか婚約破棄する(またはされる)

・その結果、辺境伯や薄幸の女性とくっつけば尚良し


 ……こんな感じ?あくまでも(個人調べ)だけど。


 よし、それでは私もこの条件に従って物語を書こうじゃないか!




 ✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・゜


 毎日毎日残業続きのブラック企業に務めていた私は、帰り道に過労で倒れてしまった。でも目を覚ますとそこはお城の中。


「え?ここは私がさっきまでスマホでしていたゲームの世界にそっくり…?」


 鏡を見れば、そこに写っていたのは「婚約破棄」で悲惨な目にあって退場するはずのキャラクターが。どうやら私はそのキャラクター【アイカ】に転生してしまったらしい。…この世界でも悲惨な目にあってたまるもんですか!「婚約破棄」ですっと?上等よ!ブラック企業で培った忍耐力と体力と知力で乗り切ってやる!


 ✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・゜




 つ……つまんねぇぇぇ!

 で?どんなスキルよ?そんなの思いつかないし!

 あっちもこっちも舞踏会の場とかでなんでイキナリ「婚約破棄する!」とか宣言されてるのよ!そんなの名誉毀損になるのではなくて?


 そんでもって書こうとすればするほど、読み込んできた物語が頭の中をぐーるぐーると回るのよ!あっちで婚約破棄、こっちでも婚約破棄、こっちはオッサンが活躍してラブして…いやどーしろと?


 一応粘ってみた。みたけれど、文章もキャラクターも全然1mmも動きはしない。

 ああ、せめてあんなに山程読まなければこんなに煩わされることもなかっただろうに。どうにかして記憶を消したいー!





 そんな私の部屋に、ある日1通に手紙が届いた。送り主の名前も書かれていないその手紙を、裏返したりライトで透かしたりして、しばらくこねくり回していたのだが、意を決して開封してみると中には1枚のカードが入っていた。


 『あなたの記憶、買い取らせていただきます』


 …え?マジで?

 マジでそんなコトできんの?ぜひしてもらいたいっ!

 まさに渡りに船。私はソッコーで書かれている連絡をとったのだった。



 ✎______________


「こんにちは。ご依頼がありましたのでお伺いしました」

「すみません、よろしくお願いします」


 やだイケメン。

 もう少しメイクちゃんとして部屋片付けとけばよかった〜。


「では、ご依頼通り今まで読まれた『読書の記憶』を買い取らせていただきます。それと、こちらのイラストも、ですね?」

「あ、そうです」


 私は色んな物語を読む傍ら、お気入りの作品や作者さんにファンアートを贈っていた。イラストを書くのは昔から得意だったので、結構評判は良く、皆さん快く受け取っていただけた。でも私の本命はあくまでも小説。このイラストを残していては、創作活動の妨げに……


「実は『読書の記憶』自体はあまり値がつかないのですよ。何しろ誰でもいつでも読めるので、記憶の再生は簡単にできてしまいますからね。でも、このイラストは素晴らしい。実に高値で売れそうです」


 ……え?なんですって?


「はい、それでは一気に買い取り進めますのでこの水晶球に手をおいて下さいね」


 ちょっとお待ちになって?

 それはどーいうことでございますか?

 ちょ…ちょっとぉー?





✎______________



 あれから5年が経った。

 私は新進気鋭のイラストレーターとして忙しい日々を送っている。

 あの日のことがなければ、私の今の生活はなかったかもしれない。


 でも、少し悔しい気持ちがあるので、名前を変えて小説の投稿は続けている。

 ……こっちは全然売れてないけどね!






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