一話 夢の終わりは出会いの始まり? ⑦
そんなこともありつつ、夕方になった頃、なんと夕食もご馳走になってしまった。
夕食はなんと、うなぎの蒲焼きだった。慶子さんの好物らしく、俺へのもてなしも兼ねてだそうだ。何年ぶりかに食べたうなぎの蒲焼きは、それはそれはとてもおいしかった。ただ、一緒に食卓を囲んでいた神井さんには、終始睨まれっぱなしだったが……。
日も沈んだ21時過ぎ、俺は帰り支度をしていた。
「浅羽、そろそろ帰ろう。慶子さん、また来るね」
「あ、うん。慶子さん、お邪魔しました」
そう言って、玄関で靴を履いている時。
「あ、浅羽さん。ちょっと待って下さい。美桜、あれを」
「はい。慶子様」
後ろに遣えていた美桜ちゃんに慶子さんが声をかけると、美桜ちゃんは何処かへと行き、すぐに何かを持って現れた。
「これをお持ちください」
慶子さんが細長い紫色の袋状の物を俺に渡してきた。
俺は徐にその袋の中身を開けてみる。
「木刀?」
袋から全て取り出し、かざしてみる。何の変哲もないただの木刀だ。
「それに力を込めてみてください」
「えっと、こう、かな?」
慶子さんに言われた通りに力を込める。
すると、全体が弱く発光し、木刀の柄と剣先には何やら文字が刻み込まれていた。
「これは?」
文字の部分を触りながら尋ねる。力を込めなければ分からないが、どうやら掘られているようだ。
「これは退魔の文字です。ここに力を込めると、悪霊を追い払える……かもしれません」
「かもしれない!?」
「ツキビトを倒せるかは浅羽さんの力量次第ですから」
「も、もし、倒せなかったら?」
俺はひきつった顔でごくっと息を飲み込んだ。
「死にます」
慶子さんは間髪入れず、容赦なく言った。
「大丈夫だ、浅羽。私もまだ死んだことはない」
それって何の励ましにもならないヤツ! 巻き込まれてしまった宿命なのかな……トホホ。
門の所から慶子さんに見送られ、地獄の階段を下る途中、俺は幸宮さんに聞いた。
「それで、帰りはどうするの? 今から車で帰ったら、もう23時近くなっちゃうなぁ」
「大丈夫だ。三十分で着く」
「へ?」
階段を下り終えると俺の目の前にいたのは──
「でかっ!」
目の前にいたのは、金色の毛並みをした馬鹿でかい狐だった。
〖わしの背に特別に乗せてやる。光栄に思え〗
「その声……、まさかヨウコ先生?」
〖こんな美しい毛並みを持つ狐が、わしの他に誰が居るというんだ?〗
「いや、知らないし……。まさか、コレに乗るの?」
〖コレとはなんだコレとは!〗
「意外にふわふわで気持ちいいぞ」
幸宮さんに促され、妖狐の背中に乗る。
あれ、意外に乗り心地が……。そのふわふわの毛並みに、思わず顔をうずめた。
〖ふふ~ん。どうだ? 毎日ブラッシングをかかさずやっているからふわふわだろ?〗
「え? この巨体を自分で?」
〖では行くぞ〗
妖狐は俺の話を無視し、地中を強く蹴った。次の瞬間。
ふわっ
空の月に照らされて、妖狐の体は天に浮かぶ雲のように宙に舞い、トップスピードで空を駆ける。
え? ちょっと待って!
「早い早い早い!」
「そうか?」
「ていうかこわ!」
空中に投げ出されないように必死に毛を掴む。これがあと、三十分も続くの!?
顔にかかる強風がそのスピードを物語っていた。特急列車並みにスピードが出てるんじゃないか?
しかし、慣れというのは恐ろしいもので、乗っているうちにだんだんと下を見る余裕が少し生まれた。空を飛ぶ雲の隙間から点々と光が覗いている。
「わあぁ」
下を見ると、街の明かりが星空のように点在していて、自分が宇宙に投げ出されたような錯覚に陥る。でも嫌な気分じゃない。夏に吹く乾いた風が、髪をバサバサと気持ち良く逆立たせてくる。
「綺麗だろ?」
俺の後ろに座っている幸宮さんが、たなびく髪を耳にかけながら笑う。
「嫌なことがあった時、たまにヨウコに乗せてもらうんだ。この景色を見れば、自分が世界から愛されている感じがするんだ」
〖美耶子はしょっちゅうわしの背中に乗りたがりおっての。それはそれは苦労したわ〗
「うるさいぞヨウコ」
恥ずかしそうに頬を赤らめ、幸宮さんは妖狐の毛並みを引っ張った。
「ありがとうございました。ヨウコ先生」
「うむ、よきにはからえ」
家の真ん前に下ろしてもらった後、妖狐は人の姿に戻っていた。
本当に三十分で着いちゃった。
それにしても誰にも見られてないよな? 俺は周りを見回した。外は夏の静けさに静まり返り、住宅街には初夏に鳴く虫の声だけ辺りに響いていた。その様子に安堵しつつ、俺は改めて幸宮さんとヨウコ先生に挨拶をし、家に入りシャワーを浴びて床につく。
あ、優希に電話するの忘れちまった。もう22時半過ぎか……。流石に優希の奴寝てるだろうな……アイツ委員長だし……。
スマホ……は、やべ充電切れてる……。まあ、明日学校で会えるし……いいか。
俺は今日色々ありすぎて、自分に言い訳をし、いつの間にか眠っていた。
この行動が後になって後悔を生むとも知らずに。




