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国立大学法人東京魔術大学 ─血継魔術科─  作者: おめがじょん


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前科79:童貞が語るオープンマリッジほど切ないものはない


 本来なら、龍頭が押し切っているはずだった。

 銀泉会の魔剣部隊は黒龍によって半数以上が殺され、敵の主力は散り散りになって団地のどこかへ身を隠した。数だけ見れば、もう勝ちだ。なのに、現場の空気は勝利から程遠かった。


「白龍さんはどこいったんだ?」


 白龍側のホスト崩れの男が、血のついた顎を拭いながら吐き捨てた。

 黒龍が場を任せて別の場所に戦いに行ったので、それぞれ休憩や手当をしているところだ。返事はない。誰もが困惑しながら思い思いの言葉を吐いていた。


「夏目さんのチームもいねぇしよ」


「ガキどもも、逃げ出す奴らが多くてもう殆ど残ってねぇんだぞ」


「上の指示は!?」


「来てねぇよ! つーかさっきから、執行部の奴らと全然連絡とれねぇんだ」


 苛立ちと不安が、同時に場を支配していた。

 銀泉会は崩れている。それでも、誰も勝っている気がしなかった。遠くで、建物が引き裂かれるような轟音がする。黒龍と相馬道征の激突だ。そう理解しているのに、別の場所からも悲鳴が上がっている。


「勝ってんだよな、俺ら……?」


 その問いに答えられる者はいなかった。その時、廊下の奥から龍頭の男が転がるように逃げてきた。顔面は蒼白で、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。


「来るなッ! あれ、やべぇ、あれ――」


 龍頭の男たちが反応するより早く、逃げてきた男の首が消えた。頭部だけが吹き飛び、首から上を失った身体が血を噴き上げながら二歩進んで倒れる。


「敵襲――!」


 叫んだ龍頭の男の胸が、次の瞬間には陥没していた。旧式魔導アーマーの拳が胸骨ごと胸郭を叩き潰し、背中から砕けた肋骨を突き出させる。男は声も出せずに口から血泡を吹き、そのまま壁に貼りついた。


「な、なんだこいつ――味方だろ!?」


 別の男が叫ぶ。


 叫んだ直後、その顔面に銀色の膝がめり込んだ。鼻梁が潰れ、眼球が片方飛び出し、頭蓋が後ろへひしゃげる。男はそのまま廊下を滑っていき、柱にぶつかってようやく止まった。アイラは、一言も喋らない。龍頭も銀泉会も区別していなかった。目の前に立っているものを、ただ壊していく。


「止めろアイラ! こっちは龍頭だぞ!」


 ホストの男が半狂乱で叫ぶ。

 銀の光が閃いた。次の瞬間、その男の両脚が膝から下ごと消えていた。遅れて、上半身だけになった身体が前のめりに倒れる。床に叩きつけられた口から悲鳴が漏れたが、次の踏みつけで頭ごと床にめり込み、音が潰れた。


「ふ、ふざけんな……!」


 もう一人が後ずさる。

 後ろにいた龍頭の下っ端と肩がぶつかり、二人でもつれた。

 その一瞬で十分だった。無慈悲にアイラの腕が振るわれる。殺すための殴打ですらない。ただ振っただけの一撃で、二人の身体がまとめて吹き飛んだ。一人は腰から折れて、上半身と下半身が千切れかけたまま瓦礫に引っかかる。もう一人は壁を突き破って隣室に叩き込まれ、崩れた天井の下で手だけが痙攣していた。


「た、助けて…………」


 恐怖から絞り出されたそれは、幾度となく彼らが無視し続けた言葉だった。皮肉にもそれが合図となり、人を殺すだけの機械となり果てたアイラの凄惨な暴力が場に吹き荒れた。










 


 最初に戻ってきたのは、痛みだった。

 肺の奥が焼けるように痛い。肋骨の一本一本が、呼吸のたびに軋んでいる気がした。


「……っ、ぁ……」


 美晴は、薄く目を開けた。視界は粉塵が漂っていて、輪郭がぼやけている。

 耳鳴りもひどい。どこかまだ夢見心地な気分だ。


「……起きた」


 冷たい声がした。

 顔だけ動かすと、すぐ傍に明珠(リーファ)がしゃがんでいた。額に血が滲んでいる。服も埃まみれで、あちこちが裂けていた。


「お姉ちゃん、こっちの人も!」


 反対側では(ヤオ)が、美鈴の肩を揺すっている。とても辛そうに、咳き込みながら目を開けたのが見えた。どうやら彼女達が見つけて介抱してくれたらしい。


「げほっ……ぅ……っ……」


 声を出したつもりだったが、うまく音にならない。

 瑤がぱっと顔を上げる。


「よかった! 二人とも死んでない!」


 その言葉に、美晴がドキっとした。

 今回ばかりは本当に死ぬと思った。あの魔剣使いの前に立った恐怖が今さら喉を締めてくる。意味が無い事はわかっていた。ただ、体が勝手に動いてしまったのだ。助かったのは奇跡に近い。頭をブンブンと振って雑念を取り払う。戦いはまだ続いているようだ。遠くで、何かが砕ける音がしている。壁が崩れるような、鉄骨が引きちぎられるような嫌な音。全員が音に耳を傾けていたが、沈黙を破ったのは明珠だった。


「アイラさんは一緒じゃないの?」


 誰も答えなかった。美鈴が何かを言おうとしたが、明珠が立ち上がった。


「……探しに行く」


「お姉ちゃん……」


「このまま待ってたって、何も変わらないでしょ」


 美鈴も壁に手をついて立ち上がった。全身が軋む。右腕は戻っているが、感覚は鈍い。だが、全身に滞留しているかのような熱が酷かった。体が熱い。今にも煙が噴き出しそうな勢いだ。それでも、行くしかない。美晴も歯を食いしばって立ち上がった。今さら止める言葉なんて出てこなかった。全部終わったら、きちんと話そう。お互いその認識で、目を合わせて頷いた。

 

「じゃあ、しゅっぱーつ!」


「静かにしなさい」


 明珠が瑤に窘められしゅんとした。四人は崩れた団地を進む。血の臭いは濃くなる一方だ。あちこちに死体が転がっている。角を曲がった瞬間、美鈴が顔を顰めた。


 そこは地獄だった。

 銀泉会の男が、壁に半分埋まっている。

 龍頭の構成員が、脚を潰されたまま痙攣していた。

 もう一人は、胸を陥没させたまま動かない。そこに、敵も味方もない。ただ壊された人間の残骸が転がっているだけだった。美晴はなるべく視界に入らないように視点を上に固定させ、後の三人は平気そうに歩いていく。


「二人とも逃げなかったんだね」


「アイラさんを置いていくわけないでしょ」


 美晴の問いに明珠が淡々と返す。

 ──その時だった。遠くで、短い悲鳴が上がった。

 四人の足が止まる。子供の声ではない。大人の、喉の奥から無理やり絞り出したような声だった。ゴンゴンと鈍い衝突音が響く。骨ごと壁に叩きつけられたみたいな、嫌な音だった。瑤が不安そうに明珠の服の裾を掴む。美鈴が先頭で迎撃態勢を構えをとった。


「……なに?」


 返事はない。今度は、助けを求める声が聞こえた。


「や、やめ――」


 そこまでだった。言葉は最後まで続かなかった。

 何かが潰れる音だけがして、また静かになる。美鈴はもう何も言わない。ただ、前だけを見ている。四人は壊れた廊下を、今度はさっきよりずっと遅く進んだ。

 すると、壁の向こうから、低い駆動音が聞こえた。美晴の背中に冷たいものが走る。次の瞬間、目の前の壁が内側から吹き飛んだ。


「――ッ!?」


 コンクリート片が弾け、粉塵が一気に廊下へ広がり反射で全員が身を低くした。

 何かが転がっているのが見える。人だった。龍頭の構成員らしい若い男。全身が潰されていて、四肢があり得ない方向へ折れている。その背後、粉塵の向こうで銀色の光が灯った。──アイラだった。魔導アーマーが銀色の髪を揺らしながら、ゆっくりと瓦礫を踏み越えてくる。返り血に濡れた姿が薄気味悪い。こちらを視認しても何も反応しなかった。その異質さに明珠ですらも息を呑んだ。


「……アイラさん?」


 明珠が近づいていく。アイラがその場で立ち止まった。恐る恐る手を伸ばした。その時だった──。


「──ッ!」


 アイラが拳を振り上げた。同時、美鈴が狂化を発動させてアイラへと飛びつく。

 全身に痛みが走る。だが、動いてなければ明珠は確実に殴打されていた。

 

「アイラ! どうして──!?」


 訳が分からない。さっきまで一緒に戦っていたのに──。

 明珠はショックでその場でへたりこんでしまった。美鈴がアイラを力で抑え込もうとするが、アイラの力も凄まじい。このまま組みついていては振り回される。そう判断し、一度腕を離し、体勢が崩れたところへ助走の短い跳び蹴りを叩き込む。

 それでも強化された攻撃だ。アイラが人形のように吹き飛んで建物の外へと転がっていく。美鈴は「近づかないで」と短く三人に言い放つと、アイラに慎重に近づいていく。


「あれは……」


 明珠を引きずりながら、美晴の脳裏にかつて読んだ資料の記録が蘇った。

 魔導アーマー。歩兵戦力を根本から変えるとまで言われながら、人的被害の多さゆえに廃れた失敗兵器。高魔力状態が続いた結果、装着者保護より戦闘継続を優先し、周囲の全てを脅威判定していく。そんな事故報告が、確か残っていた。

 それを証明するかのように人形じみた動作でアイラが立ち上がった。美鈴の完全に敵と見なしたのか、駆動系が獣のように吼え超過駆動している。


「ねぇ、返事してよ」


 美鈴の悲しそうな声が漏れる。返事の代わりは、暴力だった。銀色の光が一直線に走る。美鈴が辛うじて腕を交差させて受ける。だが衝撃を殺しきれない。狂化した身体ごと数メートル吹き飛ばされ、背中から団地の壁に叩きつけられた。アイラは止まらない。着地の反動ごと次の一歩へ繋ぎ、美鈴へ追撃を仕掛ける。嵐みたいな拳打が降り注ぐ。美鈴は防ぐので精一杯だった。


「アイラさん!」


 瑤が泣きながら、一歩前へ出かけた。明珠が慌ててその腕を引く。


「瑤! やめろ!」


「だって、あんなの……アイラさんじゃないもん……!」


 瑤の声は、もう完全に泣いていた。明珠の目にも涙が浮かんでいる。美晴も泣きたくなった。

 彼女がどれ程の思いで戦ってきたかの一端を見たから。こんな旧時代の兵器にすがってでも守りたいものを知ってしまったから。

 美晴はそこで、ようやく覚悟を決めた。


「明珠ちゃん。瑤ちゃんを連れてここから逃げて」


「……は?」


「お願い。アイラさんに貴女達を傷つけさせたくないの──」


 失敗しても自分達が死ぬだけだ。だが、この子達は巻き込みたくない。アイラがこの子達を手にかけてしまう未来なんかあっていいわけがない。明珠の目つきが変わった。状況を理解しきってはいない。けれど、美晴の声色が本気だということだけは伝わったようだ。


「……何するつもり」


 美晴は、建物の外で戦う二人を見た。

 美鈴は押されている。だがまだ、止めようとしている。殺そうとはしていない。

 だったら、自分もやるしかない。


「魔導アーマーの制御を奪う」


 旧式の魔導アーマーはセキュリティの面で現代の水準においては脆弱だ。魔術と工学の過渡期に作られたせいで、回路の癖も、制御系の甘さも、ある程度パターンが残っている。しかも今のアイラは、暴走状態にある。こじ開けるなら、今しかない。頭の中でやる事を整理しながら、リュックからパソコンと鳥型のデバイスを取り出して準備を始め、美鈴に向かって大きな声で叫んだ。


「美鈴ちゃん! 10分時間を稼いで──ッ! 魔導アーマーの制御を奪って、強制排出まで持っていくから!」 


 美鈴がアイラの腹を蹴飛ばして距離をとり、親指を立てた。ぐずる瑤を抱きかかえて、明珠が「お願い」と短く言葉を残して去っていく。

 

「絶対に助けるから……ッ!」


 辻本美晴という魔導力の担い手の矜持が、いま試されようとしていた。

 















 団地を捨てて逃げる子供達が居た。

 十代後半の子供が先頭に立ち、小さな子らをいくつかの塊に分けて走らせている。泣く子の手を引き、転んだ子を抱え、誰もが必死だった。

 そのしんがりを務めているのは、龍頭の中でも別枠。大陸系戦災孤児の手練れたちだ。数年前にこの街にやってきた龍頭の直系から、団地の子供達や自分たちの同胞の子を守っていた。鈴々と飛鈴の兄妹はその最後尾で、一人でも多くの子供を逃がそうと戦っていた。


「イヤー。強いネ。やっぱ裏切らなきゃよかったカ」


 この騒動に際し、龍頭直系から下された指示は特攻。

 仲間が無理矢理前線に送られ、殺されてしまった鈴々飯店は龍頭に反旗を翻した。これだけの騒ぎだ。この団地も長くない。だったらいっその事──。とやってみたが状況はよくない。こちらは戦えない子供が多い。実際に互角以上に渡り合えるのは鈴々と飛鈴の二人だけ。半分詰んでいる。だったらせめて、同胞が無駄死にするのを黙って見ているよりはマシだ――そう腹を括った。

 

「だが。納得はできタ」


 寡黙な兄が短くそう呟きながら魔術の攻撃を弾き返した。

 鈴々は返事をしない。薄く笑みを作っただけだ。すると──


「よぉ。あの白いヤツってまだ中に居るの?」


 背後から声が聞こえ、虹色の光が駆け抜けていく。

 直後、地面が持ち上がった。敵のいた一帯だけが、根こそぎひっくり返る。

 木々が吹き飛び、コンクリート片が舞い、悲鳴ごと魔術の弾幕が消し飛んだ。

 一切の容赦がない。あまりに雑で、あまりに強い破壊だった。それに唖然としながら背後を見ると、伊庭八代が居た。サンダルにTシャツ。汚れたスラックス。ちぐはぐな格好だ。無数の魔剣を周囲に浮かべ、何時ものようにヘラヘラしたしまりのない表情だが──恐怖を感じた。


「アンタ、生きてたのネ……。白龍は団地の中に居るヨ。アンタの仲間の銀泉会と戦ってル。多分もう、全員殺されたと思うけド」


「ふぅん。そっちはどうでもいいけど」


 八代は一度だけ団地の方へ視線を向けた。


「急がなきゃね」


 兄妹を一瞥し、そのまま走り出す。

 瓦礫や死体を踏み越え、団地内へと入る。目に見えない範囲で轟音が止まらない。団地内ではまだ激しい戦闘が行われているようだった。

 次の瞬間、巨大な魔術の矢が八代を貫こうと飛来した。八代は身体を捻るだけでそれをかわす。矢は背後の壁を抉り、団地の外壁を大きく吹き飛ばす。避けた先に、白服の集団がいた。白龍とその側近たちだ。その横には運搬用トラックが停まり、拘束された銀泉会の人間が荷物みたいに積み込まれている。


「またお前か……!」


 矢を展開した白龍が憎悪を込めた目で八代を睨む。

 その周囲には、生気のない側近たちが陣形を組んでいる。守るためというより、命令を待つ兵器みたいな立ち方だった。

 

「私は忙しい。──仕上げがあるんでな」


 白龍が手を挙げるとトラックが猛スピードで走り出す。

 同時、側近達がカプセルを口に含んだ。魔力が膨れ上がる。それだけじゃない。男たちの肉体が、服の上から分かるほど歪み始めた。骨格が軋み、筋肉が膨れ、皮膚の下で何かが蠢いている。

 

「可哀そうだなぁ。もうその人達、戻れないでしょ?」


「新製品だ。側近に置くにはこれぐらいで丁度いい」


 白龍の口調はあくまで平坦だった。

 敗北した銀泉会も、歌舞伎町反社連合も、彼にとってはただの資産でしかない。運営役も、死んでもいい手駒も、今回の勝利でまとめて手に入ったということだ。話は終わりとばかりに、白龍は八代へ背を向けた

「それなりに強いぞ。生き残ったなら、代わりの側近にしてやる」


 その言葉に、八代も支配の魔剣を構えて臨戦態勢をとる。──最初から本気だ。支配の魔剣が溶けるように八代の手から侵食していく。右半身までが黒く染まり、支配の魔剣が激しく震える。白龍の側近達は動じない。白龍が翼を広げて飛び立つと同時、八代が虹の魔剣による攻撃を仕掛けさせたが、赤い防御魔術によって阻まれた。


「――チッ」


 八代の舌打ちが短く響く。

 追おうとした八代の前へ、異形の側近たちが一斉に踏み込んだ。

 赤黒くひび割れた皮膚。歪んだ骨格。左右で長さの違う腕。刃物みたいに伸びた指。濁った目だけが、八代を確実に殺す為だけに視界から離さない。敵は五体。白龍の退路を稼ぐためだけに残された、文字通り捨て駒だった。


「邪魔だッ!」


 八代が吼え、支配の魔剣を振り抜く。

 黒い斬線が正面の一体を裂く。――だが浅い。異形は自ら肉をずらすように身体を捻り、致命傷を免れていた。左右の二体が飛び込む。八代が爪をかわす。──早い。頬が裂け、血が散る。返しで虹の魔剣を至近距離で撃ち込む。一体の肩と首が吹き飛んでいった。だが、その隙に別の一体の膝が八代の腹へめり込んだ。


「っ、は……!」


 動きがが乱れる。

 そこへ、最初に斬った異形がまた来た。


「クソッ!」


 首を狙って支配の魔剣を走らせる。だが、それすら読まれていた。八代の剣筋は、焦りのせいで真っ直ぐすぎたのだ。


「……ッ!」


 呼吸が上手くできない。何時ものようにステップが踏めない。

 その瞬間。地面が、凍った。白い霜が戦場全体を一気に走り抜ける。床。壁。瓦礫。異形たちの足元。まとめて凍りつく。遅れて、巨大な氷柱が何本も突き上がった。異形の側近たちが串刺しになり、悲鳴を上げる間もなく宙へ持ち上げられる。


「清春――?」


 氷の魔術を使える人間なんて一人しか知らない。八代が周囲を見渡すと、水商売風の女の子が一人歩いてきた。また女体化したのかと認識する。

 

「焦ってんじゃねぇよ、バカ」


 言葉と共に、氷柱が飛んできた。紙一重でそれを八代は避ける。

 八代の姿をジっと見る。戦いも途中から見ていたが、何時もの八代と全く違った。このバカにそれをどう伝えてやろうか。そう考えながら、八代の金髪と途中まで黒く染まった髪に目をつけた。


「大体なんだその髪型は。オープンマリッジでも宣言するつもりか? お前童貞なのに」


「……そんな事言ってる場合──」

 

 そこまで言いかけて、八代はふっと一息ついた。久々に軽口を叩かれた気がする。清春が無言で煙草を差し出してきた。それを受け取り、先っぽに魔術印を展開。紫煙を思い切り吸い込み、吐き出すと久々の感覚にクラっときた。

 

(この程度の奴らに使うまでもなかったな……)


 支配の魔剣との接続を解除する。

 黒の部分が引いて、魔剣へと色が戻っていく。白龍を仕留めようと気を張り過ぎていた。美鈴と美晴の事が心配だった。久しぶりに使った魔剣の力に呑まれていたようにも思える。清春がバカにしたようにニヤけている。腹立たしいが可愛い。だから八代は意地悪く笑って言い返す。


「偉そうに言ってるけど、なんでまた女体化してんだよ。しかも、どっちかといえば旬なのはお前の方じゃねーか!」


 もしかしてそういう趣味なんですか?と付け加えてせせら笑う。清春が怒りと共に氷柱を再展開。八代が避けた先、氷柱は回復していた異形達へと突き刺さった。


「やるじゃん」


 その避けた勢いのまま八代が走って加速した。視認できる速度ではなかった。すれ違いざまに一人の首を切断。八代が居た地点に異形達の魔術印が展開されるも、既にそこに八代の姿は無かった。


「ほれ、お礼だ」


 八代の軽口が聞こえた。それでやっと異形達は八代の位置を認識。清春目掛けて虹の魔剣を投げつけ、それをキャッチ。七つの光に氷結魔術が収束されていく。


「オレばっか魔力使ってンじゃねェかよ!」


 清春の言葉と共に威力が強化された氷結魔術が発動。氷結地獄のような冷気の嵐が巻き起こり、異形達が氷漬けになって粒子と化して消えていった。


「遊んでねェでとっとと美鈴達を助けに行くぞ。既読はついてるから多分死んではいねェよ」


「ん。わかった。──煙草ごっそさん。助かったよ」


 清春と八代は並んで軽口を叩きながらまだ轟音の響く団地の一角へと足を向けた。

 




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