結び
靴下会社の夏は今年も暑い。
今年は、開発部からの冷感ソックスに期待、というところだろう。去年発売したうちのシースルーソックスと冷感タイツは、転けてしまっていたので、本当に期待している。
そして、綺麗に片付けられてしまったデスクを眺める。
もう、あのかわいい付箋も、写真立てもなにもない。
長野さんは、失踪者として登録されたらしい。会社としてもそういう扱いになるのだろう。だから、そのデスクは、真っ新のように何もなくなっていた。
段ボールに詰めたのは私。
実家の叔母さんに送り届けたのは梁坂係長だ。
ただ、人員欠のまま2年が経っていることは、納得いかない。
「おぉ、広崎」
「なんですか?」
相変わらず、変な距離感の梁坂係長の声に答えると、なんだか苦笑いを浮かべている。
こういう時は、頼まれ事だ。
「なんかな、この秋に新人さんが入ってくるそうでな、その教育係お願いしたいねん」
「……えっ、私ですか?」
「あぁ、そろそろお前も下を育てなあかんやろ……といっても第二新卒みたいやから、多少社会経験あるし、大丈夫や」
……その多少がややこしいんじゃ……。
そんな心の声が聞こえてしまったのか、梁坂係長が空笑いをしながら、その新人さんの履歴書と経歴書を私に手渡す。
年齢は私より10個ほど若い。
仲良く出来ると良いのだけど……と、今は空席のデスクに座るだろう新人を思い浮かべる。
――にゃぁ
「えっ」
長野さんのデスクから猫の声が聞こえたような気がして、慌てて視線を係長に戻した。
「まぁ、よろしくな」
係長が私の肩をぽんと叩いた。
「係長、それセクハラで訴えられますよ、今時」
「なんでや?」
もう、猫の声などどこにもなかったように、いつもの光景が流れ始めていた。
※ ※ ※
小学生の間、花柳市だけで流行る都市伝説がある。それは『猫は不吉』というもの。ベースには『花柳化け猫伝説』があるようで、猫に魅入られるとその猫に喰われるという結末である。
この伝説を聞いた後、もし、通り道、猫の視線を感じて、その猫と目が合ってしまったら発生する呪いであり、子ども達は好奇心いっぱいで、恐怖を楽しむのだ。
回避方法は一週間の間、猫に呼びかけられても決して振り返らないこと。最近ではブームに則り、飼い猫は含まないなんてご都合主義も加えられ、素性の分からない猫限定になっている。
そして、諦めずに続けること。小学生の中には振り返ってしまってからも、諦めずに続け、呪いを回避している者も多くいる。猫は好奇心旺盛なもの。面白そうな獲物がいれば、動かなくなったそれよりもそちらに移る。
だから、決して諦めないで欲しい。
1週間後に花柳村伝説の全文を載せて完結とします。




