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何かがおかしい。きっと自分がおかしいからそう思うのだ。

 視点――――主人公



 ドアから入ってきたのは十人目の子であった。それはさっき言ったな。

 俺と空見ちゃんによる永遠に終わらない(気がするほどカードが多い)神経衰弱(その名の通り神経が衰弱する、いやまじで)の邪魔をするつもりなのかっと背中に隠し持っているナイフに力を入れる。のは嘘で、この子がどういう人なのかが分からない今、警戒するしかないからだ。

「何かご用件がおありで?」

 十人目の女の子は俺の問いに特に身構えるわけでもなく普通に答えた。

「声が聞こえたので、入っただけです」

 丁寧語で言っているのに、少しも媚びている感じがない喋り方に、少し違和感を感じる。けど、気のせいのレベルの違和感なので気にせずにいこうと思う。細かい事は気にするな、男は大きなことを気にしろ。だから俺は宝くじを買うのを止めない。は、田中か中田先生の言葉である。

 そうしようと決意したのに問題を一つ思い出した。背中に隠したこの血のついたナイフをどうしよう。なんか、気まずくなるよね、これ。見つからないようにできるかな?

 そう考え俺は背中に手を入れ、ナイフを隠そうとした。ふっ簡単だ。なにせ俺はベルトを付けているのだからな。腰に差せばいいんだ。

「どうぞ、一緒に神経衰弱で神経衰弱しませんか?」

 活字だと分かりにくい表現だ。

「え? 私はいいです」

「そういわずに、ね? ほら?」

 何かの悪徳商法のセールスマンの口調で言ってしまった。しまった。怪しまれてしまうではないか。と心配した直後「……わかりました」というものだから驚いた。セールスマンすげぇ。悪徳商法すげぇ。

二つあるソファーの空見ちゃんの隣に十人目の女の子は座る。俺はさっき座っていたソファーに座る。そして。背中に違和感。いや、異物感。ついでに強烈な痛み。

 背中に隠したナイフが座った拍子に刺さったようだ。

「hgfぃうわghf;うおwんbc;うhbclgvw;c」

 痛いどころではない、少しやばい。俺は気づかれないように叫ぶのは抑えた。けど、込み上げてくる痛みや寒気が尋常じゃない。おそらく俺の顔は今最高の変顔になっているだろう。

「次、私の番?」

 いや、僕の番です。と言おうと思い体のどこかにある話すときに用いる筋肉を動かす。動かない。気が付いたら視界がぼやけてきてる。十人目の女の子の声が頭にごおんと響いている。大丈夫ですか? て言われているのか? 分からない。分からない。分からない。

 そして俺は死んだ。

「カタッ」音が鳴る。おそらくナイフが落ちる音だ。

 同時に俺の瞳孔が開く。瞳に光が戻る。生き返る。生き返る? 

「あ! 生き返りました。大丈夫ですか?」

 活気のない、そして感情もない平坦な声で驚く十人目。いや、驚いてねえだろ。

そういえば、名前なんて言うんだろう。この俺をもってしてもあだ名をつけることが難しいくらいの没個性だからな。

「ああ、うん、俺は死んだのか……」

 背中の傷がない。血も出ていない。出血の跡すらない。おそらく、座った拍子にナイフが深く脊髄にでも刺さったのだろう。そして、死んだ。自殺としてカウントされたのか……あんなに間抜けな事故死が。生きているときにしなくて良かった。

「五分くらい動かなかったので死んだと思っていましたよ。どうしようかと思いました」

 そう言い神経衰弱を続ける十人目。え? まさか、いやまさか、五分間俺を放置して神経衰弱を続けていたのか? おい、俺を救うことよりカードゲームのが大事なのか? 勧めたのは俺だけど。その事実がとても悲しい。例え初対面であっても少しくらいは助けてくれたって。と言いそうになったけど、元を辿れば俺がただアホだっただけなので言及することはかなわない。あと、そんなことで俺の堪忍袋の緒は切れたりはしない。頑丈なのだ。もの凄く。

 俺が死んでいるとき、いや、死ぬまでの時? に神経衰弱を継続していたと十人目が言ったけど、手札の数に差をつけられてしまった。空見ちゃんとは勝負にならないほど、十人目には追い付き追い越されてもう、手も足も出ないほど。やばい、勝てる気がしない。

 閑話休題。

 本題は何だったのだろうか? 思い出すために頭をフル回転させる。十人目が怪しい人物かどうかだ。おそらく大丈夫だろう、と言いたいがあまり俺の予想は当たらないので余計心配だ。……名前くらい聞いてみるか。

「あの、名前、何ていうの?」

 人様に名前を聞く機会が生前訪れることが少なかったために、失礼な日本語になってしまった。日本語って難しいですね。

「名前ですか、鈴村愛です」

 鈴村愛……ね、やべぇ。昔から人の名前を覚えるのが苦手な俺だけど、もう忘れそうだ。失礼だということは自覚しているが、苦手なことはしょうがない。鈴村愛。鈴村愛。

「…………」

 そしてあなた様はどうして俺の名前を聞くことをしないんだ? どうしてだよ? 死んでから一度も自分の名前を名乗っていないぞ俺! 大丈夫か俺!

 しかし、自分の名前を言うタイミングを完全に逃してしまった。自分から名乗り出るべきだった。じゃないと空気が重くて言いづらい。名乗るときは自分からっていう礼儀は、本来そっちの方が都合がいいからできたものなのかもしれない。

 名前はね、付けられたものの全てなんだ。by田中か中田。先生! 助けてください。

 またもや閑話休題。どうやら神経衰弱をしながらぺらぺらと話し続けるキャパシティは俺には内容だ。そして、キャパシティって何? 知らず知らず使っていた。俺は脳内辞書で検索するがこの辞書には載っていない単語が多すぎて使い物にならない。その辞書を作っている会社、つぶれればいいのに。まあ、自分自身の事なんだが。

「この世界の情報交換でもする?」

 十人目だったんだ。俺より知らないことは多いだろう。まあ親切の押し付けだが、悪い事ではない。

「あ、はい。助かります」

「うんと、この世界って自殺した人が集まっているのって知ってる?」

「そうなんですか」

「うん、そうなの。みんな自殺した人、または自殺っぽく死んだ人。もろもろ集まってるね」

「そうなんですか」

「……あと、見ての通り空は中学生の写生会で銅メダルくらいのレベルで描かれてるし、家もみんな一緒な形で一緒な色、しかも均等に並んでいる。異彩を放ってるあの赤いドームでさえ色以外はただの建物にすぎない」

「そうなんですか」

「でも、一番の謎はどうして自殺ができなくて」

 他殺ができるのか。

「そうなんですか」

「…………」

 張り合いがねえええええ。何言ってもこの子、名前なんだっけ? まあいいや。十人目は何を言ってもそうなんですか。しか言わないんだよ! シリアスへ無理矢理持っていこうとした俺が恥ずかしい思いしたじゃねえか。と突っ込みを入れたかったが、その突っ込みを入れたら最後、二度とシリアスな雰囲気に戻れない気がするので、よしておいた。

 自殺ができなくて、他殺ができるのは何故か? 自分なりに考えたら結論がでた。できれば心の中でじゃなくて、口に出して、まるで探偵のように言いたかったけど、自信もなければ空気もそんな感じじゃない。言えるわけがないので、心の中で言うことにする。

まあ、大したことはないんだけど。

自殺してこの世界に入ってきたんだ。自殺はいわばこの世界に入るためにある鍵と言っても過言ではない。だからおそらく、同じことをしても多分もう一度入り直すだけで、意味はないことのように思える。

 この道理があっているのなら、自殺ではこの世界から出ることは不可能だと思う。

 変な世界だ。しみじみ思う。そもそも、最初にホワイトの声で言っていた、ゴミ箱の考え方。あれにのっとると、殺されることは要するに空にする。と同じことなのかもしれない。でも、ゴミ箱には元に戻すという機能もあったはず。もしかして生き返ることができるのか?

 いやない。すぐに否定する。

だって、この世界はそんな易しくできているはずが無い。後戻りなんてできるはずが無い。だって世界は残酷で、冷たいものだから。

 神経筋弱に少し飽きてきた。そんなことを考えながら、一人増えたこの小さな家で、時間を潰すことに必死になっていた。

 何もしなくて本当にいいのか? そう心で呟きながら。


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