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【新改訂版】T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第3章 混沌 T-DAYプラス1日〜5日

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203Y年2月9日 尖閣諸島

2月9日

日本 沖縄県石垣市 尖閣諸島

中国による台湾の海上・航空封鎖の開始から6日目。

高度25000フィート。

那覇基地に拠点を置く航空宇宙自衛隊南西航空方面隊、第9航空団第204飛行隊のパイロット、新田1等空尉は、F-15JSIのコクピットで旋回Gを感じながら、右にバンクさせたキャノピー越しに眼下を見下ろしていた。

東シナ海の海面は、濃い藍色から島に近づくにつれて緑色へと変化し、海面から突き出た魚釣島の岩肌が灰色の稜線を描いていた。最高峰である標高362メートルの奈良原岳から北側へ切り立った崖が落ち込み、かつて鰹節工場が置かれていた平坦地や入植者の集落跡は、野生化したヤギの生息域となって緑の植生に覆われている。

これまで数え切れないほど防空識別圏(J A D I Z)での――主に中国機に対する――対領空侵犯措置任務をこなしてきた新田にとって、この空域は見慣れた光景だった。しかし現在、グラスコックピットの大型液晶ディスプレイの隅に表示されている作戦ステータスは平時とは異なっていた。


「治安出動命令発出」


自衛官の多くは、既に中国とは戦争状態にあると意識していたが、法的に出動自衛官へ認められているのは、警察官職務執行法第7条を準用した武器使用権限にとどまる。正当防衛や緊急避難、重大凶悪犯罪の制止といった警察比例の原則の範囲内での実力行使であり、防衛出動下における自衛権行使としての武力行使とは異なる。

それでも、部隊の運用実態は平時の警戒監視の枠組みを越えていた。新田のF-15JSIは、スクランブルで標準的な短距離空対空誘導弾2発と機関砲弾という軽武装ではなく、99式空対空誘導弾(A A M- 4B)(B)8発、05式空対空誘導弾(A A M - 5)4発、20ミリ機関砲弾940発を満載したフル装備で哨戒飛行についていた。

現在、陸上総隊司令官を指揮官とする治安出動統合任務部隊(J T F)が編成され、陸上総隊直轄部隊、西部方面隊ならびに各方面隊からJTF隷下へ臨時編入された陸自部隊、海上自衛隊自衛艦隊および航空自衛隊航空総隊の一部部隊が内閣総理大臣からの治安出動命令を受けていた。それ以外の全部隊に対しても防衛大臣から治安出動待機命令が下達され、隊員への実弾配布が完了し、各自の基地や駐屯地で待機についている。

防衛警備計画に基づき、先島諸島への部隊展開も進められていた。石垣島、宮古島、沖縄本島、奄美大島には、各島を担任する全国の即応機動連隊や普通科連隊から、中隊規模から場所によっては連隊主力に近い実戦部隊が空輸や海路で順次到着していた。

しかし、兵力配分は限界に達していた。陸上自衛隊が保持する10個師団・5個旅団のうち、北海道を担任する北部方面隊の2個師団・2個旅団、東北地方を担任する東北方面隊の2個師団は、宗谷海峡でのロシア軍の不穏な動向に備えて、地元警備区域に留置された。南西方面に展開する予定だったこれらの穴埋めに加え、西日本を中心に電力、交通、通信などインフラに対する破壊工作が相次いでいることから、全国の原子力発電所、自衛隊・在日米軍基地、特定利用港湾・特定利用空港などの重要防護施設に(警察と連携しながらとは言え)一定の要員を割く必要が生じ、統合作戦司令部は展開部隊のやりくりに苦慮していた。


「ウィザード01より那覇SOC。ポイント・アルファでの空中警戒待機を継続する。目標機、依然として北緯26度線を越えず」


無線交信を入れつつ、新田はヘッドアップディスプレイの表示を確認した。

眼下の海域には、複数の勢力が境界線を挟んで展開している。

魚釣島の至近距離、領海線の内側には、白色の船体に青いストライプを入れた海上保安庁第11管区の大型巡視船が配置されている。

その外側、接続水域では、日頃からこの海域で航行を続けている中国海警局の巡視船4隻が隊列を組み、これに併走して進路を監視する海保の巡視船が併走を続ける。

さらに接続水域の外縁、魚釣島南方の排他的経済水域内には、佐世保を母港とする海上自衛隊第2水上戦群所属の汎用護衛艦「あさひ」とイージス護衛艦「はぐろ」が待機し、SPY-1Dレーダーで東シナ海上空と水上目標の追尾を継続していた。島寄りの海域には、哨戒防備群のもがみ型護衛艦「みくま」「のしろ」が位置し、海保と連携して不審船の接近を警戒している。海中には海自の潜水艦が静粛潜航で哨戒線を維持しているはずだった。

対する魚釣島北方、接続水域の外側には、中国海軍東海艦隊の052D型駆逐艦4隻が遊弋し、進路を刻々と変えながら圧力をかけていた。さらに西方の台湾沖では、台湾島を囲む隔離任務に就く中国艦艇や海警船の影が連なっている。

尖閣諸島は、石垣島の北方約130から150キロ、台湾北東約170キロに位置し、魚釣島、大正島、久場島など5つの島と3つの岩礁からなる。総面積は5.56平方キロメートルに過ぎない。1895年に日本領へ編入されたが、1970年代以降、台湾および中国が領有権を主張し、摩擦が継続してきた。

台湾有事において尖閣諸島が連動して奪取されるという見方は従来から強かった。中国共産党の論理において尖閣は「台湾省宜蘭県」の一部であり、台湾制圧する作戦の一環として島を占領する動機は存在する。


しかし現在、この海域では膠着が続いていた。

与那国島では住民やインフラが存在したことで内部からの工作や偽装勢力の潜入が成立したが、尖閣諸島には住民がおらず、港湾施設もない。海保巡視船が領海線を常時塞いでいる以上、民間船を装った工作員が上陸を試みても法執行活動によって阻止される。

海保の阻止線を排除するには、中国側が海警船や海軍艦艇による直接的な実力行使に踏み切る必要がある。それは非正規戦の枠組みを外れ、国家間の武力衝突を公然と開始することを意味した。中国側の意図が米軍の介入を躊躇させるための段階的圧力にある以上、国籍標識を隠せないこの無人島での正規軍投入は望ましくない。更に、真水の得られない小規模な島嶼の性質上、本格的な海空戦下で地上部隊を長期間維持することは兵站上成立しにくく、双方とも部隊の上陸は見送っている。結果として、海上自衛隊と中国海軍の艦隊が一定の間隔を保ったまま対峙する奇妙な均衡が生じていた。


『Warning、Warning』


コックピット内のレーダー警戒受信機が、短く断続的な警告音を発した。

北西から接近してきた中国空軍のJ-16戦闘機が、火器管制レーダーの追尾ビームを瞬間的に照射してきたのだ。


「ウィザード01より那覇SOC。目標機より単発のレーダー照射を確認。追尾は継続せず。威嚇と判断」


新田は操縦桿を握り直した。

新田はキャノピーの左後方、暗雲に覆われた台湾本島の方角へ視線を移した。海空の補給路を断たれた島国が――屈服するにせよ徹底抗戦を選ぶにせよ――耐えられなくなった時、この尖閣をめぐる均衡もまた別の段階へと移行せざるを得ないことを、計器の数字を見つめながら認識していた。

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