90. オーブ作りと休日
次の日から魔力をオーブに注ぐ作業が本格的に始まった。
午前中ならいつ来てもいいですよ、と言われていたが、朝食をとって9時前に小部屋に入る。
今日は底に少しでも魔力をためるところまでは行きたいな。『今日もまだ魔力はたまっていませんね』とウェンティアに言われたら、永遠にたまらない気がする…。
砂時計を動かす。今日も30分にセット。途中で一度休憩しよう。美味しいお茶とお菓子があると思えば頑張れる! やっぱりご褒美って大事だよね。そう思いながら、オーブに手を当てて魔力を注ぎ込む。ゆっくりと、静かに、少しずつ…するとオーブも魔力を欲しがっているかのように魔力が流れ出す。
ふと、小学校のころの教科書に載っていた物語の一部が頭に浮かんできた。
…雪が降ってきた。綿のような風にふわふわと漂うような小さくて真っ白な雪が空から落ちてくる。地面に落ちるけど、雪はすぐに吸い込まれてなくなってしまう。どんどん雪は空から降ってくるけれど、どれも地面にたどり着くとすーっと消えてしまう。でもそのうち雪の一つが地面の上で踏ん張る。次も、その次も、踏ん張る雪が現れだす。だんだん、うっすらと白い雪が積もりだすのだ…。
その物語では、その踏ん張る最初の雪になりたいとか、そんなお話だったと思ったけど違ったかな。
なんか突然そのお話を思い出した。魔力がオーブに吸い込まれるけど、そのうち底に留まる魔力が現れる。すると次も、その次もとたまり始めるのだ。
そんなことを思いながら魔力を注いでいると、砂時計が時を知らせた。
「ふー、最初は集中するってできるかなと思ったけど、オーブに手を置き始めると頭の中がすっきりし始めて、周りのことが気にならなくなるね」
『それは気持ちがオーブと一緒になっているからですわ』
「一体化するってこと? タイマーがないと、時間も忘れてずっと注いでしまいそうだね」
『たいまーって砂時計のことですか? そうですわね。そのうち魔力切れで大変なことになってしまいますわ。やはり砂時計は必要です』
「確かに! さて、ちょっと休憩させてもらうね。ウェンティアもお菓子をどうぞ」
『ありがとう、ルイ。ではお茶タイムですわね』
「ねぇ、少しは魔力がたまってきた?」
『…まだですけど、ほら、もう少しだと思いますわ。休憩してまた頑張れば、終わるころにはたまり始めそう…と思われますわ』
「その焦り具合…まだまだなのね…でもそう信じて頑張ろう」
休憩を終えて後半戦も頑張って集中する。たまれ、たまれ、と思いながら魔力を注いでいく。
集中すると30分はあっという間だ。砂時計のアラーム音にびっくりする。
『ルイ! オーブのそこにうっすらと魔力がたまり始めていますよ。やりましたね!』
「ほんと?! うれしい! 私には魔力が見えないから、実感がなくてちょっと残念だけど。明日からちょっと希望が見えてきたね!」
『そうですわね。たまり始めると早いと思いますよ』
「ねぇ、他の属性の魔力も色はついていないんだよね。見えないのは光属性だけじゃないよね」
『魔力自体は精霊にしか見えません。それはどの属性でも当てはまります。属性になる前の魔力ですから、他の方の魔力も透明ですよ』
「じゃあ、みんなも魔力がたまったかどうかよくわからずにやっているんだね。それを聞いてちょっと安心した」
『なぜですの?』
「だって、ためているのに見えないっていうのはやっぱりつまらないものだもの」
『実感がないってことですね。ではこれからはどのくらい魔力がたまっているのかちゃんと言いますわね』
「うん、よろしくね!」
それからは、午前中は魔力ためる作業。集中するせいか、結構精神的にも消耗するので、そのあとお昼まで眠ってしまう。
昼食をとって、午後は自由に過ごすという規則正しい生活になった。
昼食は食堂でいただくけど、自由参加。時間も決まった時間ではないので、誰かはいるけど5人みんな揃うことはほとんどなかった。
会えば、オーブの魔力のたまり具合の進捗状況の報告会となる。フランとリュカはかなり苦戦しているよう。細かい魔力操作があまり得意ではないようだし、レベルも関係しているのか、なかなかたまっていかないようだ。
あと、5日間オーブにためて、1日休日という、5勤1休のサラリーマンになった。休みの日を設けてくれるなんて、ホワイト企業だね。
最初の休みの日は近くの森へ行った。侍女のイアナさんに聞いてもらって、王都から一番近い森なら危険な魔獣もいないのでお許しが出たのだ。
私は転移魔方陣を使うのがちょっと不安だったので、馬車を出してくれた。2時間位かかって着いた森は、夏の季節らしく緑が輝いている綺麗なところだった。
ミカヅキはいつものように森を駆け回り、ウェンティアは美味しそうな花を探し、私は薬草採りに精を出した。森は日常を忘れさせてくれる、いい気分転換になった。ミカヅキは大きな魔獣が全然いないとちょっと不満そうだったけど、初めての森はやっぱり楽しいねと言ってくれた。
3回目の休日は、私が森へ行ったということを聞いたジークが一緒に行くと言ってくれたので、2人で行った。ジークがいると転移魔方陣を使えるので、もう少し遠い森へ連れて行ってくれた。久しぶりの転移魔方陣で、ジークにしがみつくのは恥ずかしかった。失礼します、とジークの腕にそっとしがみついたけれど、ジークがギュッと私の体を守ってくれるように腕を回してくれた。恥ずかしい反面、嬉しかったことは言えない。
4回目の休日は、私とジークが森へ行ったことを聞きつけたアル様が一緒に行きたいと言い出し、ジークが(なぜか)渋々と了承して、3人で行った。
アル様がお勧めの森があるというので、また別の森へ行った。ミカヅキは毎回違う森へ行けるので、大喜びだった。精霊たちは3人でどれがおいしそうな花なのか競い合っていた。精霊ってとりあえず食べ物に関心があるみたい。ルキティアも楽しそうにどれが食べられるか探していたから、多分精霊みんなそういうものなのかもしれない。
私たちは薬草採りだ。
「アル、ほら、これは回復草ではないだろう。ここだけギザギザしているものを見つけるんだ」
「ジーク、意外と細かいのね。これでもいいじゃない」
「それ、薬草ではないから採ってもしょうがない」
「なかなか大変ね。もっとどっさり採れると思ったわ」
「そんなに簡単には採れないものだ」
ジークとアル様の会話に私は笑ってしまった。ジークの意外な一面を見たような…。でも確かに違う植物を採っても使えないからちゃんとした回復草を採ってほしいわね。
そんな日々を過ごし、ついにその日がやってきた。
その日もオーブに魔力を注いでいると、魔力の流れが止まった。あれ? と思って目を開けた。
「ウェンティア、魔力が流れなくなったんだけど…」
『ほら! 見て下さい。素敵だわ!』
「え、うわ~、綺麗! スノーボール見たい」
ウェンティアに言われるままオーブを見ると、透明だったオーブがだんだん光りだして、中がキラキラと光の粒が舞っていた。
そのうち光が止んで真っ白な球体のオーブが出来上がった。
「ねぇ、これって、完了なの? 私、ちゃんとできたの?」
『ええ! 大成功です。素晴らしいですわ。ルイ、よく頑張りましたね』
「うん、やったよ! ウェンティアも毎日お付き合いしてくれてありがとう。ちゃんとできてよかった~」
私はオーブに魔力を注ぎ始めてから約1か月、真っ白な光属性のオーブを完成させた。
そして、私がこの世界に来てから1年が経とうとしていた。
読んでくださり、ありがとうございます。
投稿を週に3日、載せてきましたが、次回より週に2日、土日の投稿に変更します。
毎回読んで頂いている皆様には申し訳ないですが、なかなか作成が追いつけません。
ご理解の程、今後ともよろしくお願いいたします。
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