85. 私について
選ばれし者が5人そろってから、契約の儀式、舞踏会、そしてお披露目のパレードと、大きなイベントを何とか無事に?終えた。
怒涛の日々が過ぎ、一息ついて落ち着いた今日はみんなでスキルについて話し合う日だ。そして、私についてみんなに伝える日でもある。
私は朝から気が重かった。いつかはこの日を迎えることになるのは、わかっていた。でもいざその日になると、何とも言い難い気分だ。
みんなに『私は異世界人です』ということを伝えるのはしょうがないと思う。それを言わないとなぜ私のスキルは入れ替え可能なのかということが言えなくなってしまう。そういう魔道具がある、ではいくら何でも信じてはくれないだろう。
スキルが入れ替え可能だと伝えないと、みんなが選ぶスキルが私と重複してしまう。だから伝えなくてはいけないのだ。それはわかっている。
なぜ気が重いのかというと『私は異世界人です』と伝えることによって、今までと私を見る目が違ってしまうのが怖いから。せっかく今までいい雰囲気でやってこれたのに、その言葉一つで変わってしまうかもしれないと思うのは辛かった。
昨日までは仲良くしていたのに、今日になったら突然無視されている、ということはよくあることだと私は知っている。そんな人たちを何人か見てきた。
私がそうならなかったのは、私には昨日までもそして今日からも特別話すような友達はいなかったから。いつも一人でいた私には関係がなかった。
でも今は違う。特別な、関係を壊したくない仲間ができた。さっきまで楽しく話をしていたのに、突然態度が変わってしまったなんて、考えたくもなかった。
それに、もっと特別な人もできた。もし彼から冷たい視線を向けられたら…そんなの、とても耐えられそうにもない。
それでも、ウェンティアと約束をしたし、その方がいいと私も判断したんだ。みんなを信じて話すしかない。
重苦しいため息をついてから、私はウェンティアと共に、みんなが待つ部屋へと重い足枷が付いているような足を、引きずるようにゆっくりと向かった。
『みんな集まったな。今日は5人そろっての、それぞれのスキルを決める日だ。これが最後の決定になるからちゃんと決めるようにな』
アクティオの言葉で始まる。
部屋に入る前に深呼吸して笑顔を作って入ったけど、隣に座ったジークに『顔色が悪い。何かあったのか』と心配をかけてしまった。すぐに見抜いてしまうジークには敵わない。『大丈夫だよ』とは伝えたけど、この部屋を出るころにも同じように心配してくれるジークでありますようにと祈った。
私はウェンティアの顔見て、覚悟を決める。ウェンティアも頷いて『大丈夫ですよ』と言ってくれた。
「すみません、スキルを決める前に皆さんにお伝えしておくことがあります」
私は椅子から立ち上がり、みんなを見る。手をギュッと握っていないと震えてしまいそうだ。
「ルイ、改まってどうしたの?」
「あの、私、森の奥の村から出てきたってみんなには言ったんですけど…本当は違うんです」
「違うってどういうことっすか?」
「私、本当は、異世界人なんです。今まで隠していてごめんなさい!」
私は深々と頭を下げた。目を瞑ってみんなの反応を待った。
「・・・」
「???」
えー、まさかの無反応?! こういう展開は予想していなかった。そう思いながら頭をあげると、みんなの呆気にとられた顔が私を見ていた。
かなりの間があったと思う。ようやくアル様が声を出した。
「えーと、それは、異国人ってことかしら」
「いえ、異国ではありません。異世界です」
「えーと、それは、違う国ってことではなくて?」
そうか、異世界人という言葉がわからないみたいだ。精霊たちも異世界人は初めてだと言っていたし。でも精霊たちはすんなり異世界人だと私のことを認めたってことは、精霊たちはそういう考えも持っているということになるのかな。
「違う国ではなくて、違う世界ということです」
「違う世界? ごめんなさい、全然わからないわ」
「私は、この世界ではない、全く別の世界から来ました。私が生まれた国は日本と言います。私はそこで学生をしていました」
「ルイは、そこからどうやってここへ来たのだ?」
私は、ここへ来た経緯をざっくりと伝えた。私もよくわからないので、穴に落ちたらここにいたとしか言いようがないんだけど。
みんなは黙って私の話を聞いてくれた。というか、聞こえているけど頭では理解が追い付かないというような顔をしている。そこへジークが声を出した。
「じゃあ、ルイが持っている不思議な物が、異世界の物、ということか?」
「そう、そうです。こういうものって、この世界にはないですよね」
私はそう言うとリュックから折り畳み自転車を出した。ちょっと便利な物では魔道具と思われても困る。こっちの世界では見たことがなくて、魔道具にもなさそうな物、と考えて自転車を思いついたのだ。
折り畳み自転車を広げて少し乗ってみる。フランの開いた口が塞がらないっていう顔が面白い。
「これは自転車と言って、自分の足でこのペダルを踏んで走るのですが、こう見えてもとても軽いです。タイヤは弾力がありクッション性があります。座るところはサスペンション…ばねもついていますから振動が少ないです」
「…確かに見たことはないな」
「ええ、初めて見る物だわ。それに…ねぇ、そのバッグってマジックバッグではないの?」
「あ! これはマジックバッグではあるのですが、向こうの世界の私の家ともつながっているようでして…私の家にあるもので、このリュックから取り出せる大きさのものなら出せるようになっていますね」
「ただのマジックバッグじゃないってことね…」
「マジックバッグだけでもすごいのに…混乱するっす!」
『ルイ、スマホについても説明したらどうかしら』
「そうだね。どうせスマホは見せなくてはいけないから、ちゃんと言っておこう」
スマホをみんなに見せる。
「あ、それはこの前の時計の魔道具っすね」
「そうです。これは魔道具だと先日は説明しましたけど、これも実は異世界の物です。うそをついてごめんなさい。あの時は魔道具だと説明して使ってもらうのがいいと思ったので、そう言ったのですが…これは時計だけじゃなくていろいろなことができるんです」
私はみんなにスマホを見せた。
「あ、ミカヅキがいるっすよ」
「すごい! こんな素敵な絵は初めて見たわ」
「アル様、これは実際には絵ではないんです。筆で描いているわけではないんですけど、すみません、説明は私にはできなくて」
写真の仕組みなんてよくわからないし、この世界にはない言葉で説明しても全く通じないだろう。説明は適当に濁して、まずは写真をみんなに見てもらう。
「えーと、これが私のいた世界です」
景色ばかりだけど、こことは違うことは感じてもらえるかな。都会の高層ビル群、修学旅行で行った日本の古都を思わせる街並み、電車から撮った夕日に染まる家々の屋根。
「ここが、ルイの、故郷ってこと?」
「そうだよ、リュカ。私がいた国の様子だよ。あとね、スマホで音楽も聴けるの」
ちょっと曲調を抑えたバラード系の歌を聞かせる。もっとノリのいい曲もあるけど、初めて聞くみんなには刺激が強すぎるからね。ちなみにウェンティアのお気に入りは女の子アイドルが歌うポップな曲。声が可愛いから好きと言っていたよ。
みんなは聞いているけど、戸惑いも多い感じ。
しっとりした曲が流れる中、アル様が聞いてきた。
「ルイ、わかったわ。確かに私たちが知らない物をルイは持っているのね。まだ理解が追い付かないところがあるけれど、ルイがこの世界の人ではないということを、とりあえず信じましょう。それで、なぜ今、そのことを私たちに伝えたのかしら。スキルを決める話とは関係がないわよね」
「そう思われるのは当然ですが、実は大有りで…。このスマホの中の、スキルというアプリ…えーと項目っていうのかしら、それを操作すると、私のスキルがいつでも入れ替え可能なんです」
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