75. 舞踏会 1
拍手が沸き起こり、歓声が聞こえる。私たちの前を行くアル様とその両側に寄り添って歩くジークとフランが、舞踏会の会場へと続く階段を下り始めた。
アル様の整った横顔が見える。観客の貴族の方々に振りまく素敵な笑顔。まるでモデルのようだ。できれば観客の一人となってこの3人を見てみたい。
そんな私の願いは届かず、いよいよ私も階段を下りる時がきた。隣で尻尾をビリビリと震わせているリュカと顔を見合わせ、頷いて覚悟を決め、私は歓声の渦の中に下りて行く…。
◇
ついに舞踏会本番の日が来てしまった。舞踏会の支度は今朝から、というか昨日の夜から始まった。昨夜はイアナさんとセリカさんに有無も言わさぬ勢いでお風呂に連行され、たっぷりオイルを体に流し込まれマッサージを受けた。
『睡眠不足はお肌の敵なので絶対に!たっぷり!寝てください』と忠告を受けたけど、そう言われると眠れない。おまけに緊張と踊りへの不安が追い打ちをかけ、ますます目が冴える。しょうがないので必殺技、眠り薬の香りをかいでベッドに入った。
程よい体の温かさとふわふわの布団のせいか、羊が頭の中を285頭駆け回り、脳内きゅうきゅう詰めになったところから記憶がない。
おかげで今朝は目覚めは爽快! お肌はもっちもち! だったけど、気分は下降まっしぐら。
舞踏会は夕方からだけど時間はいくらでも欲しい。朝食を部屋でささっと済ませ、支度もパパっと済ませ、髪も手櫛でシュっと済ませるとノックの音。挨拶もそこそこにイアナさんに連れられ着付けの部屋まで行くと、そこからは私の意思はない。侍女さんたちがあれやこれやと整えてくれて、いざ出陣である。
イアナさんの案内で舞踏会会場の控室へと向かう。控室に入ると、うお~、キラキラしている!男性3人に迎えられた。
3人ともジャケット、スラックスはネイビー色。袖とスラックスの脇に金色のラインが入っていて、高級感が漂う。ジャケットはテイルコートで背中側が長くなっている。
中に着ているベストとクラバットタイがそれぞれのカラーになっていて、ジークはスカイブルー、フランはスカーレット、リュカはアンバー。少し派手目な色だけどスーツが抑えた色なので嫌味にならない。
リュカも衣装を着こなしているし、明るいアンバー色が若々しさを添えている。他の2人は前回同様、着こなし抜群、カッコよすぎて直視できない。
私はというと、やっぱり前回より派手というか明るい色で、ペパーミントグリーンのドレスだ。スカートがグラデーションになっていて、裾にいくほど色が濃くなっている。胸元が少し開き過ぎているようにも思えるが重めのネックレスでカバー、フリフリの肘までの袖で可愛らしさをアピール。
うーん、こんな服、縁がないどころか着てる人なんて見たことなかったのに、自分が着ているのが不思議デス。
「お疲れ、ルイ。ドレスを着るのは大変だったっすか。似合っていていいっすよ」
「ありがと、フラン。そういうフランも服に負けてないよ」
「ふふ~ん、そうだろ?」 ポーズを決めるのは止めてね。
「ジークは今日もカッコいいですね!」
「え、そ、そうか? ルイもとても綺麗だ。見惚れるな」
「ありがとうございます」 ジークに言われるとなぜかすごく照れちゃう。
「ルイ、お前見違えたな。お前もやればできるじゃん」
「だから、何でいつも上から目線なの? リュカは!」
「言えるのがお前しかいないから」
そこへ我らがアル姫登場。うぅ、輝き過ぎて目がチカチカする!
アップにした金色の髪の後れ毛が色気を誘う。淡い藤色のドレスで、やはりスカートがグラデーションになっていて高貴なオーラがドレスからもアル様からも放たれ圧倒される。胸元のボリュームがすごい。私と本当に同じ形のドレスなんだろうか…。いまさら落ち込んでもしょうがないけど。
「ルイ! 今日もとっても素敵だわ。あなたとお揃いで本当に嬉しいわ。今日はがんばりましょうね」
「アル様。お揃いだなんて…私と同じドレスとは思えない着こなしです。素敵ですっ! 一生ついて行きますっ!」
「むっ、ルイ、アルについて行ってはダメだ」
「そういう意味ではないんですけど…」
「ジーク、今の言葉は聞き逃せないわね。ルイが私と一緒に行きたいというんだから、それでいいじゃない」
「ほらほら、3人でじゃれないっすよ。カールが困っているっす」
「いえ、私は大丈夫ですが、もうすぐ扉を開けますので、その…」
「静かにしろってさ!」
一番年下のリュカに言われると、ちょっと恥ずかしい。護衛でたまたまここに配属されたカールさん、ごめんなさい。
「では扉を開けます。いってらっしゃいませ」
◇◆◇
私たちは来てくれる人たちに笑顔を振りまく。誰が誰なのかよくわからない。マナーの講義で主な貴族の名前を覚えたつもりだったけど、すっかり頭から飛んで行ってしまった。
おまけに今日はご夫婦が基本、プラスご令息、ご令嬢も一緒に来ていると、とんでもない数になる。
特にジークに対するアピールがすごい。次いでフラン。娘がいる貴族はたっぷり時間をかけて紹介をしている。それからなぜか私。『これが次男で、これが三男で…』とあわよくば婿入りさせたい気持ちが手に取るようにわかるよ。
アル様は早々に姿を消してしまった。『今日は私のアルフォンセを独り占めにさせてもらうよ』と言って、クレイグさんが攫って行ってしまったからだ。というか、最初は王族がダンスをするので、アル様は踊りに行ったのだ。
アル様とクレイグさんは、それは見事なダンスを披露した。アル様のダンスも素敵だったけど、アル様の存在に負けていないクレイグさんの踊りもそれはすごかった。会場中の目を2人に釘付けにしてしまった。やっぱりアル様の隣にはクレイグさんしかいないように思う。
一通り群がる貴族をさばいたところで、ジークが私の前に来て手を差し出した。
「ルイ嬢、私と踊ってはくれないだろうか」
ひょえ~、ジーク、突然そんなこと…。まぁ前から一緒に踊りたいとは言ってくれていたけど、本気だったとは。でも差し出された手を取らない理由はない。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。でも、一つお願いしてもよろしいでしょうか」
「え、な、なんだ」
「どんなに足を踏んでも文句は言わないでください…ごめんなさい、最初に謝っておきます!」
「はは、ルイになら何度でも踏んでもらって構わない」
「あとでちゃんと治療は致しますので…」
ジークに手を取ってもらい、曲が変わるところでダンスの姿勢を取る。周りがざわめく。あれだけ娘を紹介されていたんだ、ジークが誰と踊るのか、みんな注目するだろう。そんな私は無様な踊りしか見せられず…ジークが笑われないようにできるだけ頑張ろう。
曲が始まりジークと手を取り踊り始める。腰に当てられたジークの手の辺りが熱い。とにかく間違わないようにと集中する。
「ルイ、そんな顔をするな。もっと楽しめ。魔法と同じように」
「魔法と同じ…」
顔を上げるとそこには、ジークのふんわりとほほ笑んだ優しい顔が…。そうだね、踊ることよりもジークと楽しむことをしなくちゃだね。
「ありがとう、ジーク」
「それでいい」
それからはステップは間違えちゃったけど、ジークとのダンスを楽しむことができた。ジークのリードは踊りやすかった。私のペースをすぐにわかってくれて踊りやすいように少しアレンジしてくれた。ジークはこんな時まで私のことを気にかけてくれる。それが嬉しかった。
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