72. 儀式の途中で
観客の貴族の人たちが見守る中、私たちはゆっくりとした歩調で歩いて行き、この前と同じ、石で円を描いてあるところで止まる。
ステージ上の左側には、椅子に座った陛下と皇后と、その横に立つ皇太子殿下夫妻と第2皇子、第4皇女、そして数歩下がってベイグ宰相の姿が見える。
右側には白いローブを身に纏った男性が6人も並んで立っていた。前回の儀式より少しずつ人が多いのは、今回が選ばれし者5人そろった最後の儀式ということもあるだろう。
「ここにお集まりし皆様、お待たせいたしました。やっと選ばれし者様、5人がそろいました。今日この日を迎えられることにこの国の民として嬉しく思います。私は精霊守護庁長官のメイディオ・カスクと申します」
カスク長官は笑顔も時折見せ、本当に嬉しそうだ。今まで5人そろわずに気を揉んだのだろう。相当のストレスだったのかもしれない。う~ん、どこの世も、仕事にはストレスはつきものだね。
「まずはこの国の5人目の選ばれし者様をご紹介いたします。土の精霊に導かれし、風属性のリュカ・ミルズ様でございます。そしてここに、この国ローモンド王国の選ばれし者様たち5人が集い、精霊たちと共に契約の儀式を取り行います」
メイディオさんの掛け声で私たちは手を取り円を作る。ラッパ隊の奏でる音楽が鳴り響いた。
周りから歓声が起きたので上を向くと、ルキティアを先頭に5人の精霊たちが一定の間隔をあけながら、天井から螺旋を描きながら舞い降りてきた。前回とは違う演出が憎いよ。
今回の精霊たちは全員、白いローブにマントを付けている。私たちの衣装と合わせたようだ。降りてくるときにマントがはためき、なかなかカッコいい。
5人が降りて来て、私たちが作る円の中心のちょうど真上に集まった。ブツブツと何かを唱えているみたい。それが終わると5人の精霊は私たちの頭の上方に広がった。5人は金色の円でつながっている。全員そろった時の儀式は特別みたいだ。
金色の円がだんだんと太くなり、そこから光が放たれ、上に向かって光の柱ができた。精霊たちは両手を上に上げ、声を高らかに上げた。
「ローモンド王国の選ばれし者たちよ、今ここに集い、我ら精霊と契約をする。汝ら、いかなる時も我らを助け、我ら、いかなる時も汝らを助けよう。この世の創造神イニティラウタスと精霊の始まりスピリウスに誓う…」
「「光の精霊 ルキティア、土属性 アルフォンセ・オリゴ・ローモンド」」
「「水の精霊 アクティオ、水属性 ジークフロイド・ノービ・ファイネスト」」
「「火の精霊 イグニティオ、火属性 フラン・ボウ」」
「「風の精霊 ウェンティア、光属性 ルイ・オウカ」」
「「土の精霊 テラティオ、風属性 リュカ・ミルズ」」
「ローモンド王国に新しい結界を張らんために 我らに力を 我らに希望を 互いに敬愛を そして」
「「「「絆をここに結ばん」」」」
光の柱が5つに分かれ、精霊たちが上げた手に吸い込まれていく。そして精霊たちの小さな手の上でクルクル回りながら球状を形作る。光の球は精霊たちの手の上でふわふわと浮きながら少しずつ大きくなっていった。
その後、精霊たちは顔を見合わせて頷くと、光の球を前方に差し出した。するとそこから光が溢れ出した。光のベールとなって私たちに降り注いだ。
その光に反応するかのように、私の体の中の魔力も反応している。
『え、何これ? この前と違う。え、体中をすごい速さで巡ってる感じ…どうしよう…どうしたらいいの…』
私の体の中で魔力がうごめき始めた。他のみんなも同じなのかと思って見渡すけれど、誰もそんな風には見えない。上を見て溢れ出す光のベールを見ている。
『ウェンティア…何か…おかしいよ…』
私はウェンティアに向かって話しかけたけど、他の精霊たちにも伝わったようだ。
『これは! ルイ! 開放するのじゃ!』
『え?! 開放…』
と思った瞬間、私の体の中の魔力が体を突き抜けてどわ~と外へ出て行った。
『はは、キラキラしているよ。やっぱり私の魔力はキラキラしていたね…』
ぐゎん
めまいがした。この感覚は…あの時と同じだ。急激に大量の魔力を使った後の感じがした。
「ルイ! おい、ルイーーー」
隣にいるジークの声が遠くに聞こえる。体に力が入らず、立っていられない。フランと繋がっていた手が離れて体が傾く。
ジークが私の手を引っ張り、両手で体を支えてくれた。いつもジークは優しいね。だから安心していられるよ。
ジークの腕の温かさを感じて安堵を覚えると、会場中にキラキラと落ちてくる輝きを見ながら私は襲い掛かる睡魔に抗えず、目を閉じて眠りの海に身を投じた。
◇◆◇
『う、う~ん、なんか、すっごい眠った感じがする!』
私は明るい日差しを感じながら目を開けて伸びをした。目覚めはスッキリ! 日差しはいつもより明るく感じるのはなぜだろう。そして、ベッドで寝ているのはわかるけど、いつものTシャツとももパンのパジャマじゃなくて、ナイトドレスを着ているのはなぜだろう。
部屋を見渡すと誰もいないので、ウェンティアを呼んでみる。
『ルイ! 起きましたのね。良かったわ~。すぐ行きますけど、まずはみんなに連絡しましょう』
「良かったってどうしたの? あれ、私、何をしていたっけ?」
ウェンティアの会話に違和感を感じ、昨日までのことを思い出してみる。えーと、えーと、あ! 私、契約の儀式をしていたんだ…と、そこから記憶がない! えー、何が起こったの?? とパニックになっているとウェンティアが現れた。
『ルイ、気分はどうですか?』
「ウェンティア、気分は絶好調だけど、記憶が途絶えているのよ! 私、どうしたの?」
『体調が良ければ問題ないですわ。ルイは、契約の儀式の途中で気を失ったのよ』
ウェンティアが言うには、契約の儀式で魔力を開放した私は、気を失ってこんこんと眠りについたらしい。スマホで日にちを見てみると、一日飛んでいる。今もお昼近いのでほぼ2日ほど眠っていたらしい。
『テラティオによると、たまにいるらしいですわ、こういう人! 5人そろった儀式で、まだ眠っていた魔力が覚醒して体から一度放出されるんですって。ルイの魔力はまた上がってしまった様よ。底なしですわ!』
「底なしって…。みんな、心配したよね」
『でも、守護庁長官もこういったことは文献にも載っていたそうで知っていましたわ。みんなに説明してくれていたから大丈夫ですけど、いつ起きるかは人それぞれのようなので、その辺りを心配しているかしら。でも先ほどみんなには連絡しましたから大丈夫でしょう』
「ウェンティア、ありがとう。いろいろ心配かけてごめんね」
『私はいいのですわ。ルイが目覚めたら一番に私に声をかけてくれると思っていましたから。でもジークはすごく心配していて、昨日は何回も私に念話してきてちょっと鬱陶しい程でしたから、あとで声をかけてあげた方がいいかしら』
「鬱陶しいって…。ジークが…そうするよ」
『まずは侍女さんがやってきましたね』
すると、イアナさんとセリカさんが部屋に来てくれた。イアナさんはかなり心配してくれたようで抱きつかれてしまった。こういうのってうれしいね。セリカさんは侍女長に報告に行ってくれた。
イアナさんが昼食を用意してくれている間に、私は着替えを済ませた。持ってきてくれた昼食を部屋で頂く。2日ぶりの食事なので体に優しいスープだったけど、こういう時はおかゆが恋しいよ。
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