47. 私とスマホとスキル
ジークと庭園散策を楽しんだ後、一緒に昼食をいただいだ。そのあとは、ジークは用事があると言って名残惜しそうに王都の自宅へ戻っていった。
私はというと、特にすることもなく、部屋へ戻って座り心地の良いソファに寝そべってスマホをいじっていた。こんな姿は見られたくないし、こんな豪華な部屋でするような姿でもないけれど、このソファ、寝心地もめちゃいいのよ。
まずは目覚ましの時間を変更。いつもの習慣で同じ時間に起きちゃうかもしれないけれどもう少し遅くても大丈夫だから、アラームの時間を30分遅らせる。
スマホの充電はソーラー発電の充電器でできていた。ウェンティアが『このすまほは、時々日向ぼっこするのね』と言うように、1週間に一度くらい発電機を太陽に当てる。普通、ソーラー充電って時間がかかるものなんだけど、この充電器は1時間くらいで満タンになる。それは異世界の特権か、それともこの世界の太陽の光線の成分が違うのか…。充電には困っていないので、考えても答えが出ないものは考えないようにしている。
時々、スマホに入っている写真を見返す。前の世界のことが遠い昔のようで、本当にあったのか記憶もあいまいになりがち。写真を見ることで、確かに私はあの世界に存在していたと思える。
今は日本に帰りたいという気持ちは薄らいできた気がする。だけど、日本で使っていたものをここの生活でも使えるように、細い糸でつながっていると思うとあの世界のことは忘れてはいけないとも思う。
自分で撮った写真はほとんどが景色。一人キャンプをするようになってから自撮り棒を購入してみた。それからは私も写っている写真がちらほら。
一人でいることが多かったけど、写真を撮るのは嫌いじゃなかった。きれいな物や楽しい物の他に、変な物や珍しい物なども見つけては撮っていた。
こっちの世界に来てからも写真を撮っている。主に植物が多い。見たことのない花や草が結構あって後で見返すと面白い。
待ち受け画面はもちろんミカヅキ! 私に向かって走ってきているところを撮ったので、結構迫力のある写真だ。
ウェンティアも撮ったけど、なぜかぼわーっとした光の玉にしか写らなかった。精霊は元々光の玉って言っていたから、写真ってかなり本質を映し出しているみたい。
ただ、ウェンティアはものすごく落ち込んでいた。かなり期待して写真を撮ったのに、自分は光の玉にしか写らないとわかった時の絶望感はすさまじく、その時はミカヅキもウェンティアに話しかけるのを止めたくらいだ。
次に、マップを開いてみると、スゴイ! 地図の範囲が広がっている。転移魔法陣で移動してきた空間はマップに認識されるようだ。王都はディングルの街から北東に位置しているみたい。距離にして東京―大阪間位あるようだ。この距離を一瞬で転移できるんだから、異世界半端ないな。
この世界ってすごく不便なこともあれば、反対にすごく便利なこともあり、その差が大きすぎる気がする。魔法が便利過ぎて、それに満足してしまうのかも。
王都の地図も載っていた。街の北側にあるお城から真っ直ぐ南に伸びる大通りがあるみたい。その大通りを中心に左右対称に通りがある。地図で見る街並みは整っていてとてもきれい。街に行ってみたいけど、ゆっくり行けるのは結界を張った後だろうか。まぁいつかは行ってみよう。
そういえば、明日は5番目の選ばれし者についてと、スキルのことを話し合うって言っていたような。スキルはみんなで話し合って何を持つのか決めるらしい。私の場合は他の人とはちょっと違うけど、もう一度確認しておこう。
スキルのアプリを開いてみると…。えっ?! なんか、増えてる!
「ウェンティア、ウェンティア、ちょっと見て~」
「どうしたのかしら、ルイが慌てるなんて珍しいですこと」
「ね、ね、スキルが増えているんですけど!」
「はー、またおかしなことを言っておりますわ」
全然私のことを信用していないウェンティアにスマホのスキル欄を見せると、画面に食いついた。
「こ、これは一体…」
「ね、増えているでしょ。それにこの “×4+1” ってまさか、選ばれし者4人に対してってこと? この “+1” って何?」
「ちょっと黙って! これは…こんなこと…どうしたら…」
ほら、ウェンティアだって驚きすぎて言葉を失っているし! でも精霊もこんなに驚いていることをどうやってみんなに伝えればいいんだろう。
スマホを見せても、何とかごまかすことに成功するかもしれない。だけど、スキルの入れ替えが可能ってことは、精霊のウェンティアも驚くぐらいだから、言い訳はできないだろう。それにみんなで共有した方がいい情報だとも思う。思うけど、それってもう、私が別の世界から来た人間だということを言わなくてはならない。それはまだハードルが高いな。つい先日知り合ったばかりなのに、異世界人だって言ったらドン引かれるのも想像がつく。
いい人たちとめぐり会えたのに、白い目で見られるのは耐えられない。
「ルイの能力は未知数ですね。全く、私にも仕組みがよくわかりません。ですが私たちにとって良いことということだけはわかりますわ」
「ははは、私も全然わからないです…」
「ルイが言うように多分、×4は、選ばれし者の4人にかけられる、ということだと思います。それとこの+1は、多分ミカヅキのことではないかしら」
4人まとめてかけられるスキルは、魔力増加や物理攻撃力強化、魔法攻撃力強化。相手の攻撃を軽減するスキルもある。これらは補助魔法だし、4人にかけられるのはかなり使えると思う。おまけにミカヅキまで! 従魔のことも忘れていないところが憎いね。
私個人に使用するスキルは、拡大・縮小、視覚強化、聴覚強化。戦闘向けというよりは生活や調合がより便利になるスキルのような気がする。
「この入れ替え可能なスキルについては、皆さんにはお伝えしますか?」
「そのことなんだけど、今回はスルーでお願いします」
「するー?とは何ですの」
「えーと、皆さんにはまだ言わないで欲しいです…」
「やっぱり…ルイのことだから、そう言うと思っていました。入れ替え可能を説明するにはこのスマホの説明から必要ですもの。そうなると、このスマホは一体どこから、なぜ入れ替え可能か、という話になりますからね」
「さすが、ウェンティア様! 私のこと、よくお分かりで」
「もう! でも皆さんにはお伝えした方がいいことだと思いますけど」
「そうだよね。それはわかってる。でもあの3人と会ったばかりの今はまだ…。5人そろったらその時はちゃんと言わなくちゃいけないかなって思ってる。いつまでも隠しておくのもよくないとは私も思うよ」
「では、そうしましょう。その方が説明の話が1回で済みますしね」
「スキル入れ替え可能の説明って、私が異世界人だからということで、みんな納得してもらえることかな?」
「ルイが持っている不思議な道具と、精霊たちの後押しで納得すると思いますわよ」
「そうだね、精霊たちはもう、私が異世界人だとわかっているのよね」
ウェンティアは私のことをよく理解してくれている。そして私を良い方向へと導いてくれる。本当に頼りになる精霊ね。私の良いお姉さん的な存在になっているよ。
他の精霊たちも私のことを異質だとわかっていても、普通に接してくれる。これは私にとって、とてもありがたいことだった。
精霊は、最初は私のことを何でも見透かしてしまうようであまり気に入らなかったけど、今では私の良き理解者と思っている。味方がいると嬉しいし、相談もできる。そんな精霊たちには感謝しているよ。
自分のスキルを確かめながらスマホをいじり、その日の午後はまったりとした時間を過ごした。
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