38. ご対面
朝食の後、別の部屋に移ってミカヅキのお披露目となった。
今日は時間がないので後にして欲しいというアル様の侍女さんを説得してまでミカヅキに会いたいと言ってくれたのは嬉しいけれど『手短にお願いします』と侍女さんはため息をついていた。
部屋には、私たち3人と、侍従さん、護衛騎士さんが入った。そこでミカヅキを呼ぶ。
「ミカヅキ、出てきて。友達を紹介するよ」
『僕、ここに出ていいの? また騒がれない?』
「さっきはごめんね。今は大丈夫。ミカヅキに会いたいんだって」
イアナさんを驚かせてしまったことを悪かったと思っているのか、ミカヅキが気にしていた。ここは大丈夫だと伝えると、シュタッと陰から姿を現した。2人の歓声と、他の2人の息をのむ音が聞こえた。
「うわー、本当にブラックウルフだわ。素敵な毛並みね。初めまして。私はアルフォンセと言います。これからよろしくね」
「近くで見るとホントに大きいっすね。俺はフラン。よろしくな」
『ルイのお友達? ジークとはまた別の人?』
「そうだよ。私の友達だからミカヅキも仲良くしてあげてね」
『うん、わかった! 上にいるのはウェンティアのお友達?』
「そうね。ウェンティアと同じ精霊だよ。ルキティアとイグニティオ」
『人じゃなくて犬だよ。あれも精霊なの?』
「そうだよ。イグニティオは火の精霊だからミカヅキと一緒に戦えるといいね」
『一緒に戦うの? 僕、戦うよ』
ミカヅキは嬉しいのか、尻尾をブンブン振っている。めっちゃ可愛い!
「契約するとミカヅキの声も聞こえるんでしょ? 早くお話したいわ」
「イグニティオと同じ感じかな? でも今のルイの会話からするともう少し話している感じっすか?」
「はい、イグニティオよりは喋りますね」
精霊たちは、以前アクティオがしていたようにミカヅキの周りを飛んでいる。ルキティアは頭を撫でて、イグニティオは鼻を合わせて挨拶をしていた。イグニティオ、行動まで犬じゃん! でもミカヅキは仲間が増えたと思うのか嬉しそうだった。同じ火属性同士、仲良くできるといいな。
トン トン
「アルフォンセ様、そろそろいかがでしょうか」
ドア越しに侍女さんの声が届いた。癒しの時間はここまで。これから支度の戦闘が始まる!
◇◆◇
お、おわった~。と言っても私はただ座って、食べて、立っていただけだった。あとは皆さんが全部やってくれた。ありがとうございます。
初めにメイク、そして髪のセット、それから一度ドレスを着てみる。採寸したわけではないので、ちょっと体に合わない部分はその場でお針子さんが修正。素晴らし過ぎるお仕事です。
その間に軽食を取った。途中でお腹が鳴っても恥ずかしいから、ちゃんと食べました。それからドレスの着付け。ぎゅうぎゅうの締め付けを覚悟していたけど、今回は踊ったりしないから着崩れがないので、“きゅっ” くらいで済んだ。
着付けが済んで、最後に唇に紅をさしてもらって終了。鏡の前に立つと、そこには見知らぬ人がいた。周りの皆さんも『ほわ~』と和んでいる。
スゴイです! これが私なのかと思うような仕上がり。ドレスは白を基調に緑の刺繍でアクセント。ふわっとしたスカートに、上はキャミソールのような感じだけど、レースのスタンドカラーとパフスリーブが可愛らしさを演出している。私の髪は肩までしかないので、そのまま下ろしているけど裾をくるんと巻いてある。右サイドに白の花を添えて編み込みもされている。
昨日初めて会ったはずなのに、前から念入りに準備されていたような仕上がりに感服する。それともジークさんの前情報がよかったのか? いやいや、あのジークさんが私の容姿を細かく伝えていたとは思えない。やはりこの侍女さんたちの仕事が完璧なのだ。さすが王宮お抱え侍女さんたち! プロのお手並み、体感させていただきました!
そろそろ始まる時間なので、私はイアナさんに案内されて控室へ。いろいろな方が見守る中を歩くのは恥ずかしい。ちょっとパンダになった気分。
控室のドアの前まで来た時、後ろで黄色い歓声が起きた。振り向くとそこには歩いてくるジークさんが…。こ、これは、こんな人がこの世にいるのかと思うほどのカッコよさ!
いつもの髪型とは違い、銀色の髪を後ろに撫でている。そのうち、ひと房が前に垂れている。多分知らないうちにそうなってしまったのだろう。でもその自然さが一段と色気をそそっている。これは歓声が上がるのも無理はない。
ジークさんは私がいるのを見ると、一瞬歩みを止めた。そしてふわっと頬を緩めてまた歩き出した。
ここでまたキャーという声が。わかるよ~。多分私も言っていたもの、こんなドレスを着ていなければ。この世に “破壊力” という言葉が確実に存在することを思い知らされたね。
「ジークさん、お疲れ様です。ばりカッコいいですっ!」
「ばり…それは誉め言葉と受け取っていいのか? ルイは一段ときれいだ」
「そんな~、社交辞令としてでもありがたく受け取らせてもらいます。まぁ私なんて衣装に着せられてしまってますけど」
「そんなことはない。とても似合っている」
ジークさんの服は、白を基調にして青の糸で刺繍がされていた。詰襟で騎士のような雰囲気だが、刺繍のおかげで気品さが漂っている。いや、ジークさんから溢れ出る気品もあるのだろう。
「さあ、中へ入ろう。ルイ嬢、どうぞ」
「うわっ、ありがとうございます」
片方の手でドアを開けて、もう片方を差し出したジークさんの手に、私の手を重ねる。うー、お姫様になった気分。自分じゃないような気がする。
中にはもうフランさんが来ていた。フランさん、いつも早いよね。フランさんの髪型も…いや、いつもと同じだった。短髪だからしょうがないかな!
「おぉ、ルイ! とってもきれいだぞ。見違えたな!」
「むっ」
頭の上からかすかな声が聞こえ、重ねた手をぎゅっと握られた。ん??
「フランさん、早いですね。そういうフランさんもめちゃカッコいいですよ!」
「いや~、フフ、そうだろ?」
「むっ」
またかすかな声が聞こえ、手をぎゅっと握られた。力、入ってますよね。
「ジークさん、どうかしましたか?」
「いや、多分何でもない」
ジークさんは顔を少し赤らめ、そっぽを向いた。どうしたんだろう? フランさんが予想外にカッコよかったからびっくりしたのかな。でも、前回はフランさんと一緒に契約の儀を行ったはず。フランさんのことも見ていると思うけど。
フランさんは、白地に深みのある赤色の刺繍が刺してある服だ。形はジークさんと同じだけど、色が違うだけで少し印象が変わる。
「ジーク、そろそろ手を離してあげたらどうっすか? もうすぐアルも来ると思うし」
「あ、す、すまん」
「いえ、私も流れでそのままにしてしまってすみません」
緊張している気持ちが、ジークさんの温もりで少し和らいだ気がしたので、そのまま手を繋いだままにしてしまった。フランさんに言われなかったらずっと繋いでいたかもしれない。気を付けなければ…。
そこへドアが開いた。うわ~、本物のお姫様の登場です。アルフォンセ皇女様、優雅で品位があって、私なんて自分でお姫様みたいと思ってしまったのが申し訳ないほどだ。
「皆さん、おそろいですね。まぁルイ! 素敵! とてもよく似合っているわ」
「アル様こそお姫様です。私なんて足元にも及びません。アル様を見れただけで今日はもうこれで終わりでいいです!」
「アル様? まぁいいわ。でもまだ帰らないでね。今日はあなたが主役なんだから。男性陣も完璧ね」
アル様は淡い金色の長い髪をアップにして、ドレスは白地に紫の刺繍。着こなしが完璧です。落ち着いた色合いの紫色は、アル様の目のアメジスト色と同じで、気品あるその雰囲気が皇族なる者に合っている。また、紫色はこの国の国旗にも使われている色だから王家のカラーかもしれない。私と同じ形のドレスだけど、全く違う服に見えるのは私の目の錯覚だけではないはずだ。
4人が控室に集まった。もうすぐ契約の儀式をする。私は緊張とドキドキが止まらない胸を押さえて、その時を待った。
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