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魔王様には、ならないで! 〜死にループした暗殺者の皇女は、魔法学院で王子と精霊に溺愛されました〜  作者: 卯崎瑛珠
三章 未来を変えるには、強引に行きます

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25. 変わる未来


 メリル・ルグランは、ジラルダ皇国に良い縁談があり、学院を途中で退学していった。


「……もしかして、メルが?」


 久しぶりに登校し、いつもの裏庭のベンチでサンドイッチをかじりながら、マナは隣のメルギウスに尋ねる。


「ふふ。ああいういかにもなご令嬢は、実は引く手あまたなんだよね。条件さえ良ければ、ふたつ返事だから」


 メルギウスの意味深な微笑みでマナの背筋に冷気が駆け抜けたが、あえて流すことにする。


「そ、か……セストも、良かったね」

 

 セスト・パルヴィスはというと、騎士訓練をしっかりやり直したいと訴えて、魔法学院卒業後は騎士見習いに戻ることになった。


「やっと、やりたいことができる」


 落ち着いたころにマナを見舞ったセストは、侯爵家の後継としてかなり抑圧されてきたのだ、と頭を下げた。

 メルギウスに真の貴族とはこうあるべきと感化され、レンゼンの強さに感銘を受け、初めて父に逆らったと笑う顔は、すっきりとして精悍だった。


 マナが素直に「かっこいいね!」と褒めると、

「俺はつくづく、見る目がなかったな」

 と真剣な目で言われたマナは――


「ねえメル。セストの見る目がないって、どういう意味だったんだろう?」


 改めて尋ねるが、メルギウスはムッとするだけだ。

 その肩越しにクスクス笑うレンゼンが見える。


「レンゼンさん?」

「殿下は、拗ねてらっしゃる」

「どうして?」

 

 マナがあまりにも純粋な瞳で問うので、レンゼンは困り顔になった。


「あーえー、どうして、でしょうね?」

「レンゼンさんも分からないのね……ところで、怪我はもう大丈夫ですか?」

「ん? ああ、大したことはなかったから、もう治ったぞ」

「あれが、大したことなかったって、すごすぎます! セストの憧れですもんね。かっこいいなー」


 キラキラ目を輝かせるマナに、レンゼンは照れて赤くなった後で青くなった。


「さすが王国最強騎士ですね」

「ごほん、ありがとう」

「マナ? そろそろクラスルームに戻ろうか」


 メルギウスがおもむろにベンチから立ち上がったので、マナは戸惑いつつ従った。


「メル、もしかして怒ってるの?」


 廊下を歩きながらマナが話しかけるが、反応はない。

 ちろりとレンゼンを振り返るが、目を逸らされる。


「なにか、しちゃった……?」


 そんなマナの耳元で、ヘラが囁く。

 

『お子様は男心が分からないのよね〜』

「えっ」


 妖艶に笑うヘラが、声を大きくする。

 

『ねぇそこの不貞腐れ王子様。闇の精霊って、淫夢も得意なんだけどぉ〜、マナに仕込んじゃう?』

「は!?」


 ものすごい形相のメルギウスが、足を止めて振り返った。

 

『お望みならすんごいの、ぜぇんぶ、教えちゃうけどぉ〜?』

「絶対やめろ!」

『なら、少しぐらい我慢しなさいな。こんな純なの、今だけよ〜んふふ』

「うぐ」


 拳をプルプル震わせるメルギウスは、渋々といった様子で「分かったから! 余計なことはするな!」と言い捨て、元の方向へ歩き出す。


 いまだに戸惑うマナの耳元で、ヘラが何事か囁くと、マナは真っ赤になった後で強く頷いた。


「メル!」


 そして名前を呼びながら駆け寄り、メルギウスの左腕に飛びつく。


「メルが、一番だよ」

「っ!」


 みるみる嬉しそうに頬をほころばせる王子を、マナは笑顔で見上げる。


 それから、ぎゅうっと愛しい婚約者の腕を掴みながら、生まれて初めて、心からの思いを口に出した。

 

「わたしの大好きな人。どうか……魔王様には、ならないで。ずっと、側にいて」

「うん。ずっと一緒だよ」


  ★★★


 ――その後も精霊王の契約者と、精霊の愛し子は仲睦まじく、数々の試練や困難がふりかかっても二人で乗り越えていった。


 呪われたかつての世界は再生に成功し、終焉を迎えることはなかったという。


 光り輝く玉座にひとり座って微笑みをたたえている、黒髪に赤目の白ローブの少年のような見た目をした男性を、真っ黒で露出度の高いドレスに身をまとった女性が訪れている。

 

『人の想いは、なによりも強いね、ヘラ』

『オベロン様にとっては、どちらの世界が良かったのでしょうか』


 精霊王は、顎に拳を当てて意味深な笑みを浮かべる。


『別に、どっちでも良い。でも、マナが魔王様にはならないでっていうなら、精霊王のままで良いかな』


 それを聞いたヘラは、最上級のカーテシーをした。


『仰せのままに』


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