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  キャリーヌへ

 久しぶりの手紙、ありがとう。きみはジダンにばかり手紙を書いてて、僕のことは忘れてしまったのかと思ってました。

 この間はきみと久しぶりに話せて、僕も楽しかったです。いや、楽しいのとは少し違うかも。あの屋敷にいたときの感じというか、長い外出から自分の部屋に帰ったときみたいな感じでくつろげました。この例え、変かな?

 身長については、とりあえず何も言わないでおくね。

 創立祭初日に学生向けじゃないパーティーがあるのは噂で聞いていましたが、君が出席するのは完全に寝耳に水でした。僕らが離れて暮らしてるからかもしれないけど、父さんは本当にばらばらの情報しかくれないよね。

 キャリーヌが緊張して楽しめなかったらもったいないし、父さんが「大人」のパーティーでどんな人脈を持っているのか見てみたいので、僕も参加できないか聞いてみます。もちろん父さんじゃなくて、僕の専攻科目の教授にね。

 ちょうどこの間、教授から創立祭後にうちの会社が学園に品物を卸すことになったと聞きました。キャリーヌは知ってた? 創立祭のパーティーも、その関連でうちが出資して開催されるとか。キャリーヌが父さんにエスコートされるんだとしたら、仕事関係の人とばっか喋ることになりそうだね。

 学園の創立祭の間は王都に滞在するんだよね。この間のデートじゃ足りなかったのか、ジダンがずっと悶々としてて鬱陶しいです。早く君たちが落ち着きますように。

  ”半年間だけ”君の弟 フィリップより



 書き終えた手紙を見て、フィリップは誤字脱字や伝わりにくい部分がないか確認した。特に問題ないと判断してから、インクが乾くのを待って便箋を折る。

 久しぶりに何の予定もない休日だったので、ゆっくり読書でもして午後に夕食を買いに街に出ようかと思っていたが、外出してしまおうか。

 フィリップはぐっと伸びをすると、出かける身支度を始めた。


 学園からは少し距離があるが、列車の駅まで足をのばすことにした。

 駅で集荷される列車便を利用するためだ。距離や集荷の時間によっては、普段使っている馬車便より半日から1日早く到着する。料金はほぼ3倍になるが、フィリップは特に気にしていなかった。ジダンと違って普段あまり街に出ないので、懐には比較的余裕があるのだ。それに、食べ物以外の大抵の物は学園内で事足りる。(この意見については、度々ジダンと衝突しているが)

 列車は、キャリーヌの住む町──オレンドールまではまだ開通していないが、その手前の町までは既に動いている。そこからは結局馬車便になるので、さほど時間は変わらないが、試しに使ってみるのも悪くないだろう。


「はい、オレンドールまでね。途中から馬車便になりますけど?」

 集荷窓口の女性は、面倒そうに言った。確認しなくてはいけない項目だから仕方なく、と言うように。


「いいんです、そのままでお願いします」

「あらそう? じゃ、このままお預かりしますね」


 封をした手紙に、勢いよく受領印が押される。

 受領印は列車を象った模様の中に日付が入っている。列車便を試したかった理由の半分くらいは、この判子だった。話したことはなかったが、キャリーヌは間違いなくこの列車便の判子を気に入るだろう。

 受領印を見て満足げな表情を浮かべたフィリップに気付いたのか、窓口の女性は初めて口元に微笑みらしきものを浮かべた。


「お客さんも、この受領印目当てで?」

「え? まあ、それもあります……多いんですか?」

「こんなに?って思うくらいには多いね。この判子一つで。皆余計なところに使うお金があってうらやましいわ」


 口を動かしながら、女性はフィリップの持ち込んだ次の荷物にも受領印を押した。父親から指示があり、実家にも小包を送るのだ。彼女はちらりと送り先の住所を確かめて、もう一度口を開いた。


「でも、残念ながらオレンドールまで直通の列車便はしばらく扱わないよ」

「そうなんですか? もうすぐ列車は開通予定だって聞いてますけど」


 フィリップは眉をあげた。女性はフィリップの渡した代金の釣銭を素早く数えていて、今度はフィリップの顔を見ていなかった。


「列車はそうみたいだけどね。詳しくはまだ知らされてないけど、一般向けの列車便はしばらく取り扱わないんだ。本数が少ないとか、そんな理由かもね」


 女性は数え終わった釣銭を、フィリップの手にしっかり握らせた。


「それじゃ、またのご利用を」


 フィリップは曖昧に頷くと、すぐにその場を離れた。受領印目当てか単純に列車便の早さを頼ってか、集荷の窓口に並んでいる客は多かったのだ。




 ◇ ◇ ◇




 キャリーヌはいつものように午前中の営業を終え、近所の食堂で簡単に食べられるパンを買ってきた。道を曲がって防具店が見えてきたところで、店の前にエルシック家の馬車が止まっているのを見えて首を傾げる。

 すると、次の瞬間には馬車の後ろからハリエットが現れた。彼女はキャリーヌに気付くと、みるみるうちに瞳を潤ませた。


「キャリーヌ様! ああ、良かった。ご無事ですね」

「ハリエット? どうしてここにいるの? 何かあった?」


 涙声のハリエットに慌てて駆け寄ると、ちょうど店からルーカスとアーロンが出てきた。どちらもいつになく険しい顔をしている。店の中を見ると、昼食を買いに店を出る前にはいなかった数人の探索家たちの姿があった。何かを話しているようだが、確実に談笑している雰囲気ではない。


「アーロンさんまで……一体どうしたの?」

「ああ、キャリーヌさん。詳しい話は馬車でします。とりあえず乗って」

「え?」

「……おい。気をつけて行けよ」


 促されるままに馬車に乗ろうとしたキャリーヌの肩に、ルーカスが手を置いた。振り向くと励ますように優しく肩を叩かれ、混乱していた頭がほんの少し落ち着く。


「私、午後の営業に出られないけど……いいのかしら」


 ややとんちんかんなことをつぶやいたキャリーヌに、彼は苦笑した。ルーカスの目を見つめると、口を引き結んだまま頷かれる。防具店は心配するなということなのだろう。


「キャリーヌ様、さあ、早く行きましょう」


 少し落ち着きを取り戻したハリエットが、キャリーヌの背に手を添えて促す。キャリーヌがアーロンの手を借りて馬車に乗り込み、更にハリエットまでが乗り込んで扉を閉めると、馬車はすぐに走り出した。


 目の前に座るアーロンは、初めて見る固く研ぎ澄まされた顔をしていた。こういう顔を見てしまうと、彼の職業が探索家であったことを思い出す。軟派に思えた初対面の振る舞いなどは、あくまで彼が作った一面に過ぎないのだと。

 手の中で何かがつぶれた感触があって、キャリーヌは昼食に買ったパンを持っていたままだったことに気が付いた。紙に覆われていてわからないが、挟んだ具がはみ出してしまったかもしれない。気を取り直して口を開いた。


「それでどういうことなの、こんなにいきなり。お父様に何かあったの?」

「……あったと言えばありましたが、エルシック氏は無事ですよ」


 その遠まわしな言い方に、キャリーヌは遠慮なく顔をしかめた。隣に座るハリエットは不安げな顔のまま口を結んでいる。何が何だかわからないまま馬車に乗り込んだのだから、せめて納得のいく説明をしてほしい。


「はっきり仰ってください。私たちは何があって移動しているんですか? この馬車はどこへ向かっているんです?」

「この馬車は王都へ向かっています。落ち着いて聞いていただけますか」

「落ち着いています。口を挟まないから、説明してくださいな」

「キャリーヌさん、あなたにはしばらくの間王都で生活してもらうことになりました」

「……何ですって?」


 直前に言ったことを忘れ、キャリーヌは思わず聞き返していた。





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