27.魔女を欲っする者(2)
「お会いするのは二度目ですね。シャロン殿下からお話は伺っていますのよ。ぜひお時間を下さいな」
目の前に立つバーベナは、朗らかに笑いながらミモザに願い出る。
バーベナの申し出は一体何なのだろうか?
――バーベナ王女はシャロン君に気があるようでしたから、状況を利用したのでしょう。学園での惚れ薬騒動を、彼女が自国に訴え出たとしか思えません
――シャロン君を手に入れるために、ミモザさんに冤罪が掛けられたとも考えられるんです
ベンジャミンの話が頭をよぎり、ミモザは身構える。
「ふふ。そのように警戒しないでくださいまし。ミモザさん、と呼ばせていただきますわね。ミモザさんが優秀な調薬師で、今は少々大変な目にあっていると聞いておりますのよ」
「そうですか」
「わたくし、フェンネル公国の薬に少々興味がありまして、留学を決めましたの。優秀な調薬師であるミモザさんとお話がしたいんです。二人きりで」
「……それは、薬の話、ということですか?」
「ええ、それ以外に興味はありません。お願いできるかしら?」
バーベナのお願いに、ミモザは戸惑いを隠せなかった。
薬の話をするだけなら、問題ないような気もする。むしろ理由もなく王族の申し出を断るのは、不敬にあたるだろう。
なら、バーベナの思惑がどうであれ、快諾するのが正解だ。
ちらりとシャロンに視線をやれば、彼も特に止める様子が無かった。
城内なら、特に危険なことも起きないという判断だろう。
「はい、私でよろしければお供いたします」
「ふふふ。殿方たちの視線が厳しいので、あちらのベンチでお話ししましょうか。おふたかたは聞こえない距離であれば見える所にいてもよろしくてよ?」
バーベナとミモザは、噴水前にあるベンチまで移動し、二人横並びで座ると互いに顔を見合わせた。
◇◆◇◆
噴水前のベンチに座るバーベナとミモザを眺めながら、シャロンとクラントは二人並んで待機することにした。
「まったく、よりにもよってシャロン殿下と二人でご令嬢を見張るとは、夢の無い展開になってしまいました」
「クラント、お前さっきミモザの手を握っていただろう。どういうつもりだ?」
「あともう少しで、シャロン殿下との婚約解消に二人で漕ぎ着けるところだったんですよ。残念ながら直前でミモザさんの気が変わってしまわれたので見送りましたけど」
シャロンの顔から表情が抜け落ちたあと、盛大に歪んだ。
クラントを射殺さんばかりに睨みつけている。
もっともクラントなどは相手の表情や怒気で動揺するような繊細さは持ち合わせていないので、始終飄々としたままである。
「それで、ミモザさんの冤罪は晴れそうなんですか? 無理なら本当に僕が国外へ連れ出しますよ」
「チッ。疑わしい人間は特定したが、まだ証拠が掴みきれていない。ただ俺の家族は誰もミモザを疑ってはいないから、彼女は城で保護する」
「それ、彼女が一番気に病む手段では? お店のことも気にするでしょうしね」
「仕方ないだろう。王都中に話が回ってしまっているんだ。冤罪が晴れるだけでは足りない。ちゃんとした動機を持つ犯人を確保して上書かないと帳消しにならない」
「なら、さっさと仕立て上げればいい話では? ミモザさんを不当に拘束したゴロツキ共など適任じゃありませんか」
クラントが、無意識に踵をカツカツと鳴らして苛立ちを露にする。
己の婚約者のため、犠牲を払うことになぜ躊躇うのかと視線を投げかけた。
「――怪しいものの候補に、バーベナ王女とフィオーレ国の影があるんだ。迂闊に犯人を仕立てれば、次に相手が仕掛けてくる隙になる」
「そういうことですか。で、バーベナ王女のしっぽは掴めそうなんですか? 大体彼女はどうしてミモザさんに興味を持ったんです?」
「彼女と連れてきた侍女や兵士の行動履歴を調べたが、必要以上に踏み込めないせいで難航している。元々は俺に調薬の話を聞きたがっていたんだが、学園で使った親愛薬を作ったのがミモザだと教えたら、そこから興味を持ったみたいだ。話した限りはただの薬愛好家だろう」
「あの二人、中々楽しそうに会話しているように見えますね」
「ああ、女同士だと気が合うものなのかもな」
先ほどから、バーベナがミモザの手を握ったり、耳元に顔を近づけて話たりとせわしなく動いていた。
若干ミモザが引いているのか、少しずつベンチの端へと移動している。
それを追いかけるようにバーベナが距離を縮めて、勢いよく話しかけているようだ。
「あれ、近すぎじゃありませんか?」
「ああ、少し近い気がするな」
「シャロン殿下は違和感をもたないのですか? あれが男性同士や異性同士ならどう見えます?」
「男同士ではありえん距離だし、異性同士なら今すぐ割って入る距離だな」
「本当ですよ。まったく羨ましい!」
クラントの本音が駄々洩れである。
シャロンは自分があまり器用でないことを承知の上で、目の前のさらに不器用そうな男に同情してしまった。
「クラント、お前、残念な奴だな」
「は? 他の誰に言われても、シャロン殿下にだけは言われたくありませんね!」
クラントの目線はミモザとバーベナの方向に釘付けで、ついに指をくわえて歯軋りしだした。
全ての思考が態度と言葉にでてしまっているようだ。
「そういうとこだぞ。普段の鉄壁の商人面はどこに捨ててきた」
「う、うるさいですよ。ちょっと今はスイッチがオフになっているんです! そのうち戻りますよ!」
ミモザと二人で馬車に乗り、彼女との時間を堪能しすぎたせいで、今のクラントは冷静さを著しく欠いているのだった。
シャロンはミモザとバーベナへ視線を戻すと、二人の口元に注視した。
その口の動きを見ながら、会話の内容を把握しようと集中したのだった。
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