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やり手魔女のよく効く薬 ~店を守るために幼馴染の計画に乗って訳あり婚約したけれど、どうやら彼には別の思惑があるらしい~  作者: 咲倉 未来


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21.よく効く薬に救われた者(1)

「ただいま戻りました」

「おかえりなさい。ベンジャミン先生」


 ミモザを助けに来てくれたのは、ベンジャミンだった。

 釈放金を支払ってミモザの身元を引き受けたあとは、二人で変身薬を飲み姿を変えて人目を(あざむ)き、身を隠したのだ。


 ベンジャミンは、持っていたランプで足元を照らしながら家の奥へと歩いて行く。


 部屋の窓に取り付けられた扉を閉め、隙間に布を詰めたあと、カーテンを閉め外に明かりが漏れないように注意を払った。

 壁に取り付けられた蝋燭に炎を灯せば、部屋全体がほんのりと照らしだされた。


「遅くなって、すみませんでした」


「いいえ。ご迷惑をおかけしているのは、こちらですから」


「ミモザさんのせいではありませんよ。あの時、あなたを呼び出したのは私です。これは全て私の責任です」


 ベンジャミンは机の上に紙袋を置くと、中身を取り出していった。

 サンドウィッチと瓶入りの牛乳、茶葉の缶に果物と、数日分の食料が並べられていく。


「私、お湯を沸かしますね」


「ミモザさんは座っていてください。なにもしなくていいんです。全て私がやりますから。お腹は空いていますか? どれか食べたいものがありますか? なければもう一度買いに出ますから、遠慮なく教えてくださいね」


「……サンドウィッチを頂きます。だから、もう外出はしないでください」


 ベンジャミンの親切に戸惑いながら、好意を受け取り、彼が再び外にでることを引き留めた。


「なら、用意しますから、もう少し待っていてください」


 優しい陽だまりのような笑顔を向けるベンジャミンに、ミモザは黙って頷いた。




 食事を終えて、お茶を淹れたあと、ミモザはベンジャミンに今の状況を教えてほしいと頼んだ。

 ひとりでいる間、ずっとずっと気になって仕方なかった。


「ミモザさん。残念ながら街では禁止薬を使った犯人がミモザさんだという噂が流れてしまいました。本当の容疑者が見つかるまでは、やはり身を隠しておくべきです」


「そう、ですか」


 予想していた中でも最悪の展開だった。


 あんなに目立つ格好で武装した男が店に押し掛けてきたのだ。

 直後に禁止薬の事件が知れ渡ったのなら、誰もが、その二つを関連付けてしまうだろう。


「それから、フィオーレ国より正式にシャロン君への婚姻の話がきたようです。短期間にここまで進展するのは違和感があります。禁止薬の話題を消すために王家が狙って情報を開示したのかもしれません」


「っ! そ、そんな。私、城へ行かなきゃ」


 ミモザが立ち上がろうとしたので、ベンジャミンはその手を掴んで引き戻した。

 諭すように、ゆっくりと。けれどはっきりとミモザに状況の悪さを伝えた。


「落ち着いてください。ミモザさんが今出ていったのなら、シャロン君の婚約者が禁止薬の容疑者だという、いらない噂に発展しかねません。今以上に状況が混乱するでしょう」


「じゃあ、どうすればいいんですか?」


「落ち着いてください。――フィオーレ国からは、バーベナ王女の婚姻を疎かにしていないのなら、シャロン王子の元へ嫁がせるようにと話が出ているという噂です。犯人が見つかっても、ミモザさんが婚約者に戻るのは難しいでしょう」


「は? どういうことですか」


「バーベナ王女はシャロン君に気があるようでしたから、状況を利用したのでしょう。学園での惚れ薬騒動を、彼女が自国に訴え出たとしか思えません」


 バーベナがシャロンと話をしていたときのことを思い出し、ミモザは両手で顔を覆った。


(確かに、バーベナ王女はシャロンに好意を持っていたけれど。だからって、そんな無理やり婚約しようとするなんて!)


「ミモザさん、シャロン君のことは残念ですが諦めたほうがいいでしょう」


「っ! ベンジャミン先生、それはあんまりです!」


 ミモザが思わず顔をあげると、そこには初めて見る厳しい顔のベンジャミンがいた。


「大切なのは、ミモザさんの冤罪が晴れることです。それ以外はどうでもいい」


「先生、今はシャロンの事です。シャロンは婚約を望んでいません!」


「仕方のないことです。彼は王族なのですから意志にそぐわない結婚も、必要であれば受けなければならない身です」


「それは、そうかもしれませんが。でも」


 まったく王子らしくない生活をしていたのだ。

 だのにどうして、急に王族として働かねばならないのか。


 理屈は分かる、分かっている。


 でも、ミモザにとってシャロンは国を担う王族ではなく、幼馴染であり、学友であり、そして調薬研究施設の窓口だった。


「お願いですから言うことを聞いてください。バーベナ王女がシャロン君を手に入れるために、ミモザさんを嵌めたとも考えられるんです」


 ベンジャミンの手に力が込められた。

 掴まれた腕に痛みが走り、ミモザは身を(よじ)る。

 ミモザを逃すまいと、ベンジャミンは余計に力を入れた。


「ミモザさん、あなたが捕まるなんて、それこそあってはならないことです。それだけは、なんとしても避けなければならない。そのためにシャロン君のことは割り切ってください。お願いですから」


「……ベンジャミン先生?」


「お願いですから。あなたが失われるなんて、私は耐えられない」


「……なんで?」


 ミモザは、ベンジャミンの追いつめられた雰囲気に違和感を覚えた。

 心配してくれているのだと思っていたが、どうしてここまで肩入れしてくれるのだろうか。


 それは、今に始まったことではない。


 卒業してからも、なにくれとなく気を遣って仕事を斡旋してくれていた。


 卒業が出来なくなったミモザのことを学園と掛け合って助けてもくれた。


 在学中も、調薬室を提供してくれて、ミモザが望む道具も材料も全て提供してくれたのだ。


 鈍感なミモザは、感謝してそれらを受け取っていただけだったが、少々、いや大分行き過ぎている気がした。


「なんで、先生はそこまで私を助けてくれるんですか?」


 ミモザの言葉に、ベンジャミンの顔がくしゃりと歪む。


「あなたの作る薬に救われた者がいるからですよ」

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