表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やり手魔女のよく効く薬 ~店を守るために幼馴染の計画に乗って訳あり婚約したけれど、どうやら彼には別の思惑があるらしい~  作者: 咲倉 未来


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/33

19.ミモザ、親愛薬を飲む

  城からシャロン宛に手紙が届いた。


「何が書いてあったの? ねえ、教えてよシャロン」

「ちょっと待て、今読んでいるから」


 待てと言われたので、ミモザは横に座って静かに待つことにした。

 ミモザが、手紙の見えないギリギリの位置まで近づいてきたので、シャロンは驚いてそちらを向く。


 互いに見つめ合うが、それだと手紙はいつまでたっても読み終わらない。


「なによ。手紙読まないの?」

「……いや、なんでもない」


 少しして、シャロンは小さくため息をつくと、手紙を折りたたんで机の上に置いた。


「少し、城に行ってくることになった」


「そうなんだ。大変なことがあったの? どのくらい行ってくるの?」


「まあ、少し面倒ごとがな。帰りは今日の夕方か明日になるか分からない」


「私はなにか出来ることはある?」


 やけに距離が近く親切なミモザに、シャロンはどんな風の吹き回しだと(いぶか)しんだ。


「いや、特には」

「そうなんだ」


 しゅんと、少しだけ肩を落としたように見えるのは気のせいだろうか。

 そのあと出掛けるまでのあいだ、ミモザはシャロンの近くをうろうろし続けた。


 ミモザの変化にシャロンは直ぐに気付いたが、己の都合の良い解釈はするまいと、淡い期待は即座に捨てる。


「じゃあ、行ってくるから」

「いってらっしゃい! 早く帰ってきてね」


 まるで家族に向けるような挨拶に、シャロンは面食らい、思わずミモザの頭に手を置いた。


「ああ、早めに済ませるようにする」


 ポンポンとミモザの頭を撫でたあと、大きく手をふる彼女に見送られて、シャロンは城へと出掛けて行った。




 ◇◆◇◆



 がらんとした部屋の中。


 ミモザは、魔法の本を取り出してパラパラとめくってみたり、作りかけのハゲ薬の材料を計ってみたりした。

 けれど、すぐに気が散って手を休めてしまう。


 部屋がやけに広くて寒く感じるのも気になった。

 ひとりには慣れているはずなのに、落ち着かない。


「シャロン、大丈夫かな」


 城には、フィオーレ国のバーベナが滞在しているので、シャロンが一人でも無事に過ごせるのか心配だった。


「私も一緒に行ったほうが、良かったんじゃないのかな」


 そわそわと、今から城に行った方がいいか悩みだす。

 ただ、頼まれていないことをしたらシャロンに怒られる気がしたので、行くのは止めた。


 ならもう、考える必要はないと思ってみたものの、先ほどからずっとシャロンのことがチラつくのだ。


「あ~、もう。早く帰ってきてよ、シャロン」


 そうすれば、一緒に調薬をするから集中できるはずだ。

 ミモザは集中力を必要とする調薬作業を諦めて、店の掃除や在庫の整理をすることにした。


 店先の拭き掃除を終えたあとは、目についたバスケットに手を伸ばす。

 中身を取り出し整理していると、最後の一本となった『親愛薬』がでてきた。


「そういえば、学園で『惚れ薬』を使われた事件はどうなったのかしら? まあ今度先生に会った時に聞けばいいか」


『惚れ薬』が出回っているのなら、解毒の『親愛薬』は在庫を用意しておくほうがいいだろうか。


「学園にまで入り込んでいるってことは、街のどこで事件が起きてもおかしくない気がするわね。これはシャロンが帰ってきたら相談してみよう」


 手元にある一本は、そろそろ消費期限が気になる頃だった。

 問題が無ければ変化など起きない薬なので、ミモザは慣れた調子で蓋を開けると、軽い気持ちで飲み干したのだった。






 少しして、ミモザは店の看板を『CLOSED』に掛け変えて施錠した。

 そのまま二階の自室へ駆け込むと、ベッドに入って小さく丸まってしまった。


「し、失敗したあ~」


 まさか、『親愛薬』の変化が出るとは思っていなかった。

 今のミモザの頭の中は、シャロンで埋め尽くされている。


(シャロンが居ないときで良かった! 早く落ち着け~落ち着け~)


 忘れようとするほど鮮明に浮かんでくるのは何故なのか。

 目を(つむ)っても顔も声もありありと浮かんでくる。

 終いには涙まで出てきてしまった。


 これはあれだ。間違いなく、あれなのだ。

 あれを認めたくないミモザは、必死で打ち消し否定しようとする。


 認めてしまう方が楽だろうに、どうやら抵抗があるらしい。


(だって、きっとシャロンは幼馴染以上のことを考えてないもの。お互いに利害が一致したから婚約しただけで――)


 ――別に俺は解消しなくても構わないけどな


 こういう時、自分にとって都合のいい言葉が直ぐに出てくるのは何故なのか。

 でも、確かにシャロンはそう言ってくれていた。


「……薬の効果が無くなったら、もう一度考えよう。今はとにかく寝よう。おやすみなさい」


 無駄に効きの良い薬のせいで、かなり時間が経たないと効果は薄れてこないだろう。

 ミモザは、シャロンで埋め尽くされた心に振り回されながら、寝てやり過ごそうと躍起になったのだった。




 ◇◆◇◆


 ――ドン、ドン、ドン、ドン!


 乱暴に扉を叩く音で、ミモザは目を覚まし、ついで飛び起きた。


「いっけない。鍵! シャロンが帰ってきても入れないじゃない!」


 ――ドン、ドン、ドン、ドン!


「やだ、すっごく怒っているわ!」


 ミモザは慌てて一階まで駆け下りていくと、扉の前で息を整えた。


(薬の効果は――、よし! 多分大丈夫だわ)


 シャロンを思い浮かべても、寝る前ほどに心は跳ね上がらない。

 きっと、元々はちょっと良いかもくらいの気持ちが、薬の効きが良すぎて振り切れただけなのだ。


 シャロンの見た目は中々男前なので、ちょっと良いかもと思っても不思議ではない。


(ふふ、ただの気の迷いだったみたい。だってシャロン、黙っていればカッコイイもの!)


 何もかもに安心したミモザは、いつも通りを心がけて、でも、シャロンが帰ってきてくれたことが嬉しくて笑顔で扉を開けた。



「おかえりなさい!」



 けれど、立っていたのはシャロンではなかった。



「あの、お客様……ですか?」




 強面の屈強な男が数人、武装した姿で立っている。

 ミモザの質問には答えずに、手元の紙を確認すると冷ややかな視線を落とした。


「惚れ薬を提供した容疑者として、連行させてもらう」

「はい?!」


 両側に控えていた男たちが、すぐにミモザの両腕を掴んで拘束した。


「待ってください! 何かの間違いです」


「間違いなものか。トラヴァー学園に出入りがあり、惚れ薬の解毒薬を作っているのだ。十分に疑わしい」


「っ! 解毒薬を作れるだけで疑われたら、たまったものじゃないわ!」


「解毒を作るには毒薬を作るのは常。お前は作れるはずだ。そうだろう!」


「だから、毒薬や禁止薬の解毒は、世の中に必要で、誰かが作らなきゃいけないの! それを疑う理由にされたら成り立たないって言ってんのよ!」



 そんな理由で調薬師を拘束しだしたら、人を助けるために薬を作る人などいなくなってしまう。

 ミモザは、自分に掛けられた冤罪(えんざい)よりも、そのことを心配し、(いきどお)った。



「ふん! お前のような個人がソレを担う時代は終わったんだ。国を挙げて薬を作っているから必要ない!」



 大衆薬は商会が提供し、それ以外は調薬研究施設が担うようになって久しい。

 街からは個人経営の薬屋が消えていったが、人々はより安定した医療の発展を喜んでいる。


 今どき、ミモザのような個人の薬屋など、殆どの者が必要としていないことは明らかだ。



 ただ、大手商会と調薬研究施設だけが調薬に関わっているわけではない。

 彼らが扱う薬の調合を、誰が提供していると思っているのか。




 ミモザが申請するたびに、新薬のレシピは調薬研究施設に提供されている。




 他ならぬミモザの祖母が、『やり手魔女』が、ひとりでも多くの人を救うことを選び、その考えにフェンネル公国の王妃が賛同した結果が、薬研(それ)なのだ。


 ただ、それらが完遂する前に、ミモザの祖母が急死してしまった。


 レシピは後継者のミモザしか見ることのできない、魔法の本にのみ載っている。

 ミモザですら、未だに作れない薬が山ほどある。


 店を続けて、作れるように研究し、国に提供し続けていただけなのに。


「だ、第三王子にかけあってください。もしくは王妃様に!」


「我々は街の自衛団だ。国を巻き込んでの大事にするつもりはない」


「そんな!」


 こんなのはあんまりだ。

 ミモザの目から大粒の涙が零れ落ちる。誰か助けてと、叫びたかった。

【宣伝】

下スクロールしていただくと作品紹介のバナーがあります。

他作品もぜひご覧ください。


(応援していただけると、すごく嬉しいです!)


。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。.。:+*゜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

*…*…*…*…*…*…*…*…*…*
咲倉 未来 作品紹介
*…*…*…*…*…*…*…*…*…*
↓↓新連載・おすすめ作品を紹介しています!
作品紹介
※[活動報告]掲載の[作品紹介]へ遷移します
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ