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やり手魔女のよく効く薬 ~店を守るために幼馴染の計画に乗って訳あり婚約したけれど、どうやら彼には別の思惑があるらしい~  作者: 咲倉 未来


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11.惚れ薬騒動(1)

 ――カラン、カラン


 店の扉に掛けてあるドアベルが鳴り、客の訪れを知らせる。

 ミモザは調合の手を止めると、置いてあった水桶で手を洗いエプロンで拭きながら店先に顔を出す。


「いらっしゃい。ベンジャミン先生」

「こんにちは、ミモザさん。実はちょっと厄介な話がでてしまいまして。できれば相談に乗ってくださいませんか」


 平日の昼間に突如訪れたベンジャミンに、ミモザは目を丸くする。

 今日は学園で受け持つ授業があるだろうに、それを放ってまで来たのなら余程の困りごとなのだろう。


 ミモザは、在学中から卒業後までなにかと気にかけてくれる恩師の依頼ならと、すぐに快く引き受けた。


「私で協力できることがあれば、なんでも言ってください」

「ありがとうございます。とても心強い」


 ミモザは一度店の外に出ると、看板を『CLOSED』に架け替えた。

 そして、ベンジャミンを奥の部屋へと案内する。


 薬草をすり潰していたシャロンは、ベンジャミンの姿を見ると手を止めて、テーブルの上を片づけはじめた。




 お茶を出しミモザが席に着くと、ベンジャミンは両手を組んで珍しく困り果てた顔で話を切り出した。


「実は学園で困った噂が流れているんです。数週間前から素行のおかしい生徒がいたのですが、どうも『惚れ薬』が使われたというのです」


「禁止薬を持ち込むなんて。誰がそんな危険なことを――」


「分かりません。いや、ジェルバ公爵のご令息であるサイラス君が被害者です。彼と行動を共にしているアントス男爵のご令嬢であるグレースさんが疑わしいと言われています。ただ証拠も何もないことですから」


 ベンジャミンは、どうにか穏便にことを収めようと、ミモザの店を訪れたのだと説明した。


「禁止薬の可能性がでたのなら、学園とはいえ然るべき検査機関に願い出るべきでは?」


「私も他の生徒なら迷わずそうしました。ジェルバ公爵のご令息でしたから少々厄介なんです。彼、フィオーレ国から留学しているバーベナ王女の婚約者候補のひとりでしたよね。グレースさんと噂になる前はバーベナ王女とよく一緒のところを見かけましたから、すでに内定しているのではないかと心配しての判断です。その辺りは、どうなっているのでしょうか、シャロン君」


「っ! ――ある程度絞り込まれた話までは聞いていましたが、先にそういう動きをしていたとなると、少々厄介ですね」


 ジェルバ公爵がその気なら、バーベナ王女の相手にサイラスをねじ込んでくることは可能だ。

 その布石を息子に打たせていたとしたら、どうだろうか。

 先んじてバーベナ王女と仲を深めることで、それを理由に他の婚約者候補を出し抜こうとしたのかもしれない。


(確実にねじ込むなら、当人たちで成立させてしまうのが賢い。一番手堅く進められる方法だな)


 シャロンは、ジェルバ公爵の計算高い人柄を思い浮かべ、十分にあり得ることだと渋い顔をした。


(問題はバーベナ王女の相手が誰になるかじゃない。さも選ばれたかのように振る舞っておいて、その後に不穏な行動をとったことだ。厄介だな)


 今更別の令嬢との恋慕が浮かび上がったのなら、バーベナ王女との婚姻をフェンネル公国が軽んじていると取られかねない。

 その詰めの甘さはジェルバ公爵らしからぬ愚行にも思えたが、学園内となると息子が主だった動きをするので、しくじったのかもしれない。


 学生同士の火遊びから一気に国家間の問題へと飛躍しかねない事態に、シャロンの顔色は変わり、眉間にしわが寄る。

 公に校外の者を巻き込めば、事件性のある問題として騒がれるため、それを避けようしたベンジャミンの判断は正しいといえた。


「まだ不穏な状況にはなっていないんですよね?」

「ええ、ですが、それも時間の問題です」

「ミモザ、惚れ薬の解毒薬を持って今から学園に向かおう」

「わかったわ!」


 在庫の『親愛薬』をあるだけ手提げ籠に入れると、ミモザはシャロンとベンジャミンと共にトラヴァー学園へと向かった。



 ◇◆◇◆


 トラヴァー学園に到着し、件の二人を隔離している部屋に向かう途中、女生徒が声を掛けてきた。


 ワインレッドに緩やかなカールの波打つ髪は、フェンネル公国ではまず見かけない。

 長いまつ毛に縁どられた愛らしい顔に、(たお)やかな(たたず)まい。

 傍らにはメイド服姿の侍女が控えているのを見れば、彼女の身分が上位者であることが、一目で分かる。


「シャロン殿下ではございませんか」

「これはバーベナ殿下、お久しぶりです」


 バーベナはシャロンの前まで来ると、カーテシーをとり、そういえば、と語りかけてくる。


 ベンジャミンもミモザも、そして笑顔を浮かべるシャロンも内心は焦っていて、それどころではない。


 ただ、そんなことはお構いなしに、他愛のない話題――たとえば、フェンネル公国の気候や学生生活、城で咲いている花が美しいから一緒に見たい、だとか――を、嬉しそうに話し続ける。

 ちなみに、すぐ横にいたベンジャミンとミモザは、完全に無視されている。

 そうなると、バーベナ王女が控えめだがはっきりとした好意をシャロンに示していることが、ありありと伝わってくるというものだ。


 早く立ち去ってほしい、もしくはシャロンが話を切り上げてほしいと願ったミモザだが、相手も中々上手く話を繋げるため、会話は終わらない。

 口の達者なシャロンが何度もかわされるのを聞いていると、バーベナ王女の巧みな話術に、うっかり感心してしまった。


 そこへ、招かれざる客が登場する。


「ベンジャミン先生、バーベナ殿下! ジェルバ公爵子息である私を不当に数時間も拘束するなどと。我慢にも限界があるというものです」


 怒りのせいか顔が赤く染まったサイラスと、その後ろに隠れるように付き従うグレースが現れたのだ。


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