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3.ヒロインは最強です。



「おはようございます」



入ってきたまだ若いメイドがカーテンを開ける。


朝の光が寝室に差し込んでくる。主はまだベッドで惰眠をむさぼっている。



「もう、ご主人様ったら、お寝坊さん!」


ぴんと、おでこをつつかれる。

まだまだ眠い。布団にもぞもぞと潜り込む。


「……メグたんのおはようのキスがないと起きれない」


「もう、しょうがないご主人様ですねえ」


うっすらと頬を染めた美少女が恥ずかしそうに額にキスしてくれる。



何のメイドプレイであろうか?




てへへ、実は我が家の毎朝の風景である。



暗部が連れてきたヒロインことマーガレットは、そのまま我が家のメイドになった。


小さいヒロインってマジ天使!


プチッと排除するはずが、かわゆい大天使、排除できなかったのである。








――かわいいは、正義であった。






全世界の転生した悪役令嬢諸君。すまん!

ヒロインを元から絶て!と、大きな事を言ったくせに出来なかったヘタレである。

存分に罵ってくれて構わない。



本当は知ってる。みんな自分の生命みらいのために、誰かの生命みらいを犠牲にすることは、出来なかったんだよね。




連れてきたばかり頃、マーガレットは母親を失ったばかりで不安定だった。

夜、しくしく泣き出したヒロインをなだめ抱きしめ添い寝する。

体は7歳だったけど中身は大人だったので、腕の中でしゃくり上げながら泣くヒロインはマジ可愛かった。


おかげでマーガレットはローズにむちゃ懐いた。




ちょっといじめようとしたら、生まれたてのスライムのようにプルプル震える。

もう、かわゆいったら、可愛いったら、かわいいのである!



ちょっと物陰から脅かしただけで、うるうると涙が滲んだ大きな瞳で見つめられるのだ。

もう、降参である。



もうヒロイン、ハンパないって!





メイド兼、遊び相手として、一緒に勉強し、一緒に遊び、一緒に成長した。


一緒に学んでるのにどんどん上達するヒロインスペックにはちょっと閉口した。




実の父である伯爵家に引き取られないように、暗部に命じてヒロインの履歴を消した。

公式にはヒロインは彼女の母が病気で亡くなったとき、同じく病死した事になっている。

メイドに手を出すような父親の元に行かせない。

(本音は、可愛いヒロインを渡すわけにはいかないのだ)




今朝も、ヒロインを見ながら朝食をとる。


「ご主人様、またピーマン残してますね!」


メグたんがプリプリ怒る。怒る姿もラブリーである。


「ピーマンはビタミンCとカロテンが豊富で、栄養満点なんですよ!」


知ってる。できれば、違う食べ物でビタミンCとカロテンを取りたい。

心を読んだのか、ヒロインがチョッピリ睨んでいる。


「メグたんが、あ~んしてくれたら食べてもいい」


「んもうっ、今日だけですよ」


至福である。 毎日が薔薇色である。

















――16歳、学園へ入学した。ゲームの始まりである。







ゲームと違い、メグたんは生徒ではなく私のメイドとして付き添った。

学園は攻略対象がいるから危険なのだが、私がもうヒロインがいない生活は耐えられなかった。




もうしょうがないわ。ヒロインが誰か好きになったら応援してあげましょう。

わたくし、かわいいメグたんのためなら死ねる。

悪役ルートどーんと来い!である。








学園に入ってやはりヒロインは、次々とイベントに遭遇した。





王子様とはいきなり入学式で正面衝突する。ベタである。

王子はかわいいヒロインに一目で落ちたが、彼女は違った。


「へぇ~、貴方がご主人様を池に突き落として怪我をさせた王子様ですかァ?」


メグたんが地を這うような低い声を出す。メグたんがそんな声を出せるなんて知らなかったよ。

こわっ…


「おかげでご主人様の後頭部には小さいハゲがあるんですからねっ!」

やめてぇ、メグたん、乙女の秘密をばらさないで……

コラっ、王子! 髪をかき分けてハゲを探そうとしない!




教師ルートでは何かとメグたんに絡んでくるイケメン教師を、彼女はセクハラ教師に認定した。


「ご主人様、変態教師がいますからね。気をつけてくださいね。何かあったら私を呼んで下さいね」


そう言うと、私に高度な防御魔法を何重にも掛けてくれた。

いや、たぶん、私が気をつける必要は1ミリもないとオモウヨ。


メグたんがイケメン教師を見る目は氷のように冷たい……。


もちろん。メグたんが掛けた防御魔法が発動することは1度もなかった。






魔法使いルートでは、魔物に襲われ危機一髪の私の前に、転移魔法で颯爽とヒロインが現れた。

『ご主人様のことを考えていたら、なんだかできちゃったの』だそうだ。

ヒロイン、すげー。



襲い来る魔物から私をかばってメグたんが負傷する。


「メグ! ごめんなさい。私をかばって怪我させて」


泣き出す私に、怪我を負ったマーガレットが痛みをこらえてニッコリ微笑んだ。


「いいんですっ! ご主人様がご無事なら!」


いやん、メグたんいい子!!!!


メグたんは直ぐさま魔物を倒すと、高スペックの光魔法でサクッと自分の怪我を治した。


そのあと、攻略者の魔法使いはメグたんに、「生徒を危険な目に遭わせるなんて役立たずで、カスですね」と、笑顔で罵倒されていた。


好きな子にカスと言われる男の気持ちって……。気持ちって(泣)






騎士ルートでは、何故かメグたんと騎士が意気投合し、筋トレや剣の修行に励んでいる。


夕陽に向かって肩を組み高笑いする二人の間には、もはや熱い男の友情しか存在しなかった。


ヒロインの高スペックで筋肉を鍛え剣を極めるメグたんは、いったい何を目指しているのだろうかと、私は最近不安である。






義弟ルートでは、じゃまな義姉として加虐趣味のある侯爵に嫁がされ衰弱して死亡するが、現在時点で義弟はいない。

そもそも義弟ができる理由が、私が王子と婚約することで家を継ぐものが居なくなるので養子をとったせいだった。

王子との婚約が無くなったので義弟もできなかったのである。










メグたんは次々とフラグを折り、メグたんに恋する男達の心を折った。バキバキと叩き折った。完膚なきまでに叩き潰した。









――そして、とうとう卒業式の前日となった。






「貴女がすきです!」




現在、なぜだか私はメグたんに押し倒されている。

うるうると潤んだ瞳で上目づかいで私を見つめる。



あれ? このゲームって百合エンドあったっけ?



「ごめんなさい。メグたんが大好きだけど、恋愛対象は異性なの」

断腸の思いでメグたんの告白を断わった。


「うわぁあああああん」

メグたんは、泣きながら走り去って行く。




あれから、メグたんは家出したまま帰って来ない。




卒業式の断罪イベントもなく、つつがなく卒業式は終わった。




――寂しい。




毎朝も誰に起こされることもなく起きる。


何を食べても、砂を噛むようだった。何を食べてもピーマンの味がする。


メグたんがいない生活は、灰色だ。




もう、百合でもいいかな?



夕暮れに部屋のベランダに一人佇ひとりたたずんでメグたんを想う。

健気でちょっぴりドジな、優しくて、国宝級に鈍感でいつでも一生懸命な世界で一番可愛いわたしのヒロイン。


「……メグたん、帰って来て……」


涙がひとつ、ぽつんと零れる。





その時だ、強い風が舞ったかと思うと神話級の美男子が現れた。


「やっと、呼んでくれた……」


見知らぬ美男子がギュウギュウと私を抱きしめる。




「だれ?」


いぶかしんで美男子の顔を見上げると、そこにはとってもよく知っている紫水晶(アメジスト)の瞳が愛おしげに私を見つめていた。






――ヤツめ、なんと失われた古代魔法を極めて性転換しやがりました。






「だってぇ、ご主人様、恋愛対象は異性って言うんだもん!」



男が、『だもん!』って言うな!!

かわいく首をかしげるな!!




「近い!」


隙あらば抱きしめようとするわたしの可愛いヒロイン(?)を追い払いつつ、『結局は悪役令嬢はヒロインに敵わないってことかしら?』と思い悩む今日この頃である。












 ~ end ~






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― 新着の感想 ―
[良い点] よくあるユリendかな? と きてからの TSですか! そうきたか!! [一言] 暗殺しないでお婿さんgetでよかったね。 王子様sideも見てみたいです。
[一言]  もう、百合でもいいかな?からのヤツめ、なんと失われた~のローズの表情がありありと思い浮かびます。  楽しいお話でした。
[一言] とてもテンポよく、楽しく、ほいほい読めました。 小説の説明文を読んだ時点では、結局はヒーローがヒロインとくっついてしまう内容なのかな?と思って読み始めたのですが、ヒロインとひょんな事から、…
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