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一から始める日本創生  作者: 塚山 泰乃(旧名:なまけもの)
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現実

 遠方から来た客のための宿泊施設の室内で俺含む小隊長以上の者と、姫の立場であるモミが簡単な自己紹介の後、俺とモミが事情を説明した。もちろん、俺が転生者であることは明かさない。

 モミも俺の正体を知らないらしいことは助かると感じた。

 秘密を知る者はなるべく少ない方が良い。


「王の娘。つまりお姫様ということか」

「ちなみに四女しじょね。近い将来、政略結婚することになるけど」


 事情を一通り聞いた後、まず最初にブヤが確認すると、モミが補足ほそくする。


「その相手がカゼだと?」

「正解」


 タナソの問いに彼女が笑顔で答える。

 黙っていれば美人なんだよな。しゃべり出すとぼろが出るのが欠点か。


「文官を目指してるモズがお似合いだと思うんだけどな」

「そうなの? 文官として優秀?」

「百人の部隊を切り盛りしてるから、そうなのでは?」


 セリが正直な感想を述べると、彼女が反応した。コウが推測を言って真実を補強する。


「ふうん。……なら、くそ親父を通してあたしのお姉ちゃんたちを紹介してあげる。長女はもうとついでるから、次女と三女になるけど、良い?」

「待ってくれ、僕にも選ぶ権利があるんだ。そう勝手に決められても困るよ」


 モミがいきなり俺の話題からモズへ飛んだことに彼は困惑した。


「もう結婚してたりするの?」

「いや、まだ独身どくしんさ」

「意外。見た目割と良い男なのに女がいないなんて」

「文官になりたいために勉強にかまけていたら、この年になってしまってね」


 モミの質問攻めにモズはたじたじになりながらも正直に答えた。

 彼女は笑顔で断言する。


「なら、問題ないじゃない。男なら上を狙いなさい」


 上を狙うのは女性も一緒ではないだろうか。

 そう思ったが口に出すのは不味まずいと直感し、黙っていることにする。


「上かあ。そこそこ良い地位におさまれば十分と考えてたんだけど」

「行けるとこまで行ってみなさい。れた男なら女はついていくわよ」


 モズの口調が変化する。あれは機嫌が良くなるときの声だ。

 モズ隊長、彼女におだてられてませんか?

 モズへの説得は十分と判断したのだろう、彼女は俺に向き直り命令する。


「カゼも観念してあたしと許嫁になりなさい」

「さっきから言ってるけど、僕には彼女がいるんだ。無理だよ」

重婚じゅうこんでも構わないわよ?」


 俺は彼女がいることを盾にしたけど、モミの言葉の槍にあっさり突き破られた。

 俺が畏縮いしゅくしていることに気付いたのか、モミがため息をついた。


「あのね、さっきからあたしとの結婚を嫌がってるようだけど、もう遅いの」

「それはどういうことですか?」


 彼女の言葉にコウが不思議そうに尋ねる。


「カゼに将来性があるって、くそ親父ににらまれちゃったの」

「と、言うと?」


 その意味が理解できないようで、タナソがさらに詳しく訊こうとする。

 俺は聞きたくない。聞きたくないが、いずれ耳に入るのでこの場から逃げようとは思わない。


今更いまさら拒否しようものなら、死ぬわよ、物理的に」


 彼女の警告に、俺たちは無言になる。


「例えていうなら、蜘蛛くもの巣に引っ掛かったあわれな羽虫はむしってとこ? とにかく、もう逃げられないからあきらめなさい」


 いつの間にか俺に自由がなくなっていた。

 気が付いたら、棺桶かんおけに片足を突っ込んでいたどころか、全身が中におさまっていて、ふたを閉じられる寸前といったところだろうか。

 体から力が抜け、俺は手と膝を地面についてつんいになる。


「別にくそ親父もあたしも鬼じゃないわ。あんたの彼女と別れるように言ってないでしょ? あたしたちの温情に感謝なさい」


 それは温情と言えるのだろうか。


「話したいことは話したし、もう帰るね。じゃあ、また明日」


 彼女は言うだけ言って、さっさと帰ってしまった。

 皆、無言だった。

 たっぷり一分も過ぎた頃、誰かが四つん這いの俺の肩にぽんと手を乗せた。


「まあ、何だ。お前も大変だな」

「元気出せ。別に大したことないだろう?」


 タナソとコウの他人事のようななぐさめ方に怒りたいところだが、気力が湧いてこない。


「たまたま犬にまれたと思え。そう自分をだますんだ」


 ブヤの何故か重みのある言葉が俺の心にみた。

 その日の夕飯ゆうはんは昨日と違って庶民の食事よりはましな料理で持て成された。

 お酒が出たので、素面しらふでいられるかと飲んだ。不味くても飲んだ。

 結構飲んだのに翌日、けろりとしている俺を見て皆が驚いた。

 もしかして、アルコールを毒と認識して、毒耐性が働いたのかもしれない。

 酔いたいけど酔えないことに、俺はかげで泣いた。

 翌日も、そのまた翌日も、モミは俺の後を付いて回った。時には彼女が俺の手を引っ張って連れ回す。

 彼女は良く笑う。

 時には、俺が無気力なのに気が付いて怒るけど、『折角せっかく一揆が終わってのんびりできるのだから、ごろごろさせて欲しい』と言ったら、『おっさんかあんたは』と呆れられてしまった。

 精神年齢で言えばおっさんどころか老人なんだけど、言う必要が無いので、『たまにはゆっくりしていたい』と言い換える。

 彼女は不思議そうな顔で、『都の散策はゆっくりにならないの?』と訊いてきたが、『断じて違う。何もしないでいる事がゆっくりなのだ』と答えたら、『何それ、つまんないの』と言われてしまった。

 それとは別に、王がヨシマ村にいる家族と長老に竹簡ちっかんで手紙を書いて送り、その後返事が届いた。

 内容は、西の国へ行く前に顔を見せてとか、村の皆に挨拶あいさつをなどと色々あったが、ナシからの手紙には意訳いやくして、『事情は理解したが、一発引っぱたかせろ』と書かれていて俺は戦慄せんりつした。

 急遽きゅうきょ弁明と挨拶をするため、王に許可を取ってヨシマ村まで駆け足で行った。

 皆への挨拶もそこそこに、ナシに言い訳をして謝ったものの、泣かれた彼女に左右のほおを叩かれた。

 一発って言ったじゃん。

 その後は翌朝、ヨシマ村を出るまで俺にべったりとくっついて離れず、一晩一緒に過ごした。そのさい、もしかすると西の国へ行ったっきり戻らないかもしれないことを伝えたら、余計泣かれた。


「私もカゼについてく」

「いやいや、女の子がその年で無茶だ。せめて三、四年は待たないと」


 彼女は涙ぐみながら宣言するが、俺が常識でさとそうとする。


「カゼは行けるのにずるい」

「西の国へ行くのに、日が昇る頃に歩き出して、日が沈む前まで歩くんだぞ? それも毎日。歩けるか?」

「……うう、狡いぃ」

「それに、まだこの島を襲ってきている賊どもを倒さなくちゃいけないんだ。危なくて連れて行けないよ」

「カゼは守ってくれないの?」


 彼女が上目うわめづかいで俺を見る。

 う、その仕草は可愛くて卑怯ひきょうだ。でも心配が上回うわまわったので心を鬼にする。


「守り切れないかもしれないから不安なんだ。あと、僕以外の仲間たちも故郷に恋人や奥さんを置いて行くのが普通だ。もし、僕だけナシを連れて行ったら、皆どう思う?」

「……うらやましいとか、ねたましいって思う」

「そう言うわけ我慢がまんして欲しいんだ。それに、僕について行ったら、ナシのお母さんや家族にもう二度と会えなくなるかもしれないよ?」

「お母さんたちと離れ離れに……、それも嫌」


 当然の反応だ。結婚しても両親が近所にいるなら、何か相談したいとき力になってあげられるが、西の国は遠すぎて不可能だろう。


「だからさ、もし、ナシが一日中歩くことができるようになって、僕たちが賊どもを倒して、西の国が落ち着いたら、竹簡ちっかんを送るから、そのとき王様に頼んで僕の所に連れて来てもらうと良い」

「それなら良いの?」

「ああ」


 俺の返事に彼女がぱっと明るくなる。


「一緒に暮らせる?」


 俺はちょっと言葉にまる。

 一緒、一緒か。脳裏にモミの姿がぎる。


「……多分大丈夫だと思う」

「何で多分? そこは自信を持って言って欲しい」

「ええと」


 何て説明したら良いか。将来、三人で住むことになるんだろうけど。

 俺が考え込んでいると、彼女が正解を言う。


「あ、竹簡にあったお姫様の事?」

「……そうです」

「むう」


 彼女がほおふくらませる。


「私、お姫様なんかに負けないもん」

「……頑張れ、ナシ」


 一生いっしょう懸命けんめい背伸せのびしようとする彼女が微笑ほほえましくて、頭を優しくでた。

 翌朝、村の皆やケガを治療中の兵たちに冷やかされながら、村を出た。

 都に着いてから更に二日くらいった頃、募集していた兵役へいえき志願者しがんしゃが、各地から都に集まって来たという知らせを受けた。

 その頃には武器も鎧も新調され、俺たちは真新まあたらしい装備で、彼らを都の外で出迎えることになったのだった。

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