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一から始める日本創生  作者: 塚山 泰乃(旧名:なまけもの)
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色恋

 市場には様々な品物が置かれていた。農作物や魚の干物、塩、お酒などといった物から、古着や石器でできた包丁、鍬(くわ)の刃、研(と)ぎ師、剣や鎧を売る者までいる。

 都と言うだけあって豊富な品揃(しなぞろ)えだ。

 品物を手に取ってモミは商人に出所(でどころ)と価格を訊いていく。

 もしかして、これは冷やかしなどではなく、市場(しじょう)調査か?

 趣味(しゅみ)と実益(じつえき)を兼(か)ねているのか。

 内心、そんな事を考えながら彼女の言動(げんどう)を観察する。


「ほら、カゼ。見て見て、この可愛い簪(かんざし)」

「まあ、綺麗(きれい)だな」


 素直に感想を述べたところで、気付く。お金なんて持ってない。


「俺、金持ってないぞ?」

「馬鹿、知ってる。こういうのは雰囲気(ふんいき)を楽しむものよ」

「……分かった」

「何だ、二人とも金持ってないのか、冷やかしなら帰ってくれ」

「ほら、言われちゃったじゃない」

「悪かった」


 小声で会話していた内容が聞こえていたのか、商人に睨(にら)まれそそくさと退散(たいさん)する。

 とりあえず、彼女が主導(しゅどう)して市場を回り、俺が彼女について歩き回る。

 そうこうしてるうちに日が傾いてきたので市場を巡(めぐ)るのは終わりにした。


「ああ、楽しかった」

「それは良かった」


 彼女の感想を聞いて安心する。とりあえず嫌われはしなかっただけ良しとしよう。

 ……待て。

 何でそんな行動に出た? 嫌われでもすれば許嫁(いいなずけ)なんて解消するじゃないか。


「何、頭抱えてるの?」

「ああ、いや、何でも。……今日はどこで寝ようか考えてたんだが」


 不味(まず)い、思わず動いていた。

 適当に返事して話題をそらす。


「昨日、寝泊まりしたとこで良いんじゃない?」

「まあ、お客さんが来なければ使って良いって話だったかな」


 二人して歩きながらモズたちと寝泊まりした建物へ歩く。


「ああ、場所は知ってるから、ついて来なくても良いぞ」

「嫌(いや)、ついてく。カゼの仲間がどんな人たちか見たい」


 随分(ずいぶん)と好奇心(こうきしん)旺盛(おうせい)なお姫様だな。


「ええ? あまり皆には僕たちの関係を知られたくないんだけど」

「何、恥ずかしがってんの?」

「恥ずかしいかどうかじゃなくて」


 余計な面倒ごとを回避したいだけなんだ、と言おうとしたところで、見知った人物たちと出くわした。


「おい、カゼ。何やってるんだ?」

「女と一緒だ」

「しかも美人ときたもんだ」

「怪しい」

「こら、皆、失礼だよ」


 セリが声をかけてきた。コウが状況に気が付き、ブヤがモミを一目見た感想を言い、タナソが俺たちを疑い、モズが窘(たしな)める。


「こんばんは、カゼのお仲間さんですか? 私、モミって言います」


 俺は彼女の言葉を聞いて吃驚(びっくり)する。

 何だ、その余所(よそ)行きの言葉。

 五人を代表してモズが前に出る。


「はあ、モミさんですか。僕はモズと言います。カゼ君がどうかしましたか?」

「いえ、市場で知り合ったのですが、彼、困ってる私を助けてくれたので、お礼を言いたくてついて来ました」


 一部は間違っていないが、多少脚色しているな。


「そうでしたか。それはどうもご丁寧(ていねい)に」


 お、意外と静かな展開。これは安心していいかも。


「それでですね、私、彼を気に入ったので婚約を申し出ました」

『ぶっ!?』

『婚約ぅ!?』


 いきなりぶっこんで来た! 唐突(とうとつ)すぎるわ!


「カゼ、それでどうしたんだ!?」

「その話受けたのか!?」


 コウとタナソが食いつきがいい。もしかして、お前らまだ結婚相手も彼女もいなかったのか?

 とりあえず、公(おおやけ)の場で断ってしまおう。


「いや、僕、故郷に彼女いるし」

「だそうです!」

「俺なんかどうですか!?」


 コウとタナソが彼女に迫(せま)る。


「いえ、私は、彼の事が好きになったので……う、ぐすっ」


 あれ、何故泣く?


「酷い。婚約を受けてくれるって言ってくれたのに」


 ぐすぐすとしゃくり上げながら話す彼女を見た二人が俺に顔を向ける。


「……おい、カゼぇ」

「何断ってんだ、お前(め)ぇ」


 うお!? コウとタナソの声がどすの利(き)いた物に変わった!?


「だ、だから僕には既に彼女がいるんですって」

「その彼女と別れろよ」

「いや、理不尽(りふじん)すぎでしょ!?」


 コウのあんまりな発言に即答する。そこでモミが俺に縋(すが)り付いて来た。


「良いんです。私、カゼ君の愛人でも良いから傍(そば)に置いてえ」

「な!?」

「愛人、だと?」


 彼女の言葉にコウとタナソが動揺(どうよう)する。

 ええい、更(さら)なる火種(ひだね)を入れるな、収拾(しゅうしゅう)がつかなくなるだろ。

 そこにセリが割って入る。


「はいはい、モミって言ったっけ? 噓泣きは止めような」

「嘘泣きじゃありません。私は本当に悲しんでるんです」

「でも、顔、笑ってるぞ?」


 彼女の弁明(べんめい)にセリが否定した。

 思わず彼女の顔を見る。全体的には彼女は本当に泣いている。だが、口の端がちょっと吊り上がっている。

 ある意味、器用な顔芸だ。

 彼女は俺からさっと離れると、袖(そで)でごしごしと顔を拭(ふ)いて言う。


「ばれちゃしょうがない。あたしとの婚約を断ろうとした意趣(いしゅ)返しはどうだった?」

「肝(きも)が冷えた。止めてくれ」

「それは今後のあんたの心がけ次第ね」


 危うく部隊内に不和が生まれるとこだった。


「一体、何が、どうなっているんだい? 説明して欲しいんだけど」

「尤(もっと)もですね。……誤魔化(ごまか)さないで話した方が良いですよ?」


 モズの困惑に頷いた俺は彼女に正直に話すよう促(うなが)す。


「ここじゃ何だし、あんたたちの寝泊まりしてる所に案内してくれる? そこで話すから」


 その言葉に俺たちは顔を見合わせる。


「まあ、特に断る理由も無いし、一緒に行こうか」

「これ以上ややこしくしたくないので、それでお願いします」


 モズの意見に俺は同意した。


「きちんと説明しろよ、カゼ」

「はい」


 タナソに睨(にら)まれ頷くことしかできなかった。

 宿泊先に向かう途中、俺はセリに小声で尋ねた。


「セリ、どうして彼女が嘘泣きしてると分かったの?」

「うちのかみさんがああいうことしてくるから、一発で分かった」

「ああ、それで……」

「ああいうところも可愛いもんだぞ?」

「そうなの?」


 セリの事を人生の先輩として凄いと感じた瞬間であった。

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