脚色
今回の話、書いていて無理があるかなと思いながら投稿します。
「ところで、書物が欲しいと言う話を以前言っていたが、具体的に何の書物を欲しているんだ」
「ううん」
言って良いのかな。俺の前世に強く影響しているから逆に怪しまれると思うんだけど。
「どう説明したら良いのかな」
モズたちは寝てるし、女性たちは既に退室してる。ここにいて起きているのは俺と王だけだ。
良し、思い切って脚色してしまおう。
「他の人には内緒にして欲しいんですけど」
「内容によるな」
吹聴しないで欲しいんですけど。
「あるとき、夢の中で神を名乗るお爺さんに会ったんですよ」
「ほう?」
「それで、そのお爺さんはこの国を含めた周囲の国々の未来を憂えてました。未来と言っても何千年も先の話だそうですが」
「気の遠くなるような話だな。だが、それが俺たちに何の関係がある? その時の王に任せれば良いだろう」
「僕もそう言ったんですけど、お爺さんが言うには僕たちにも関係するそうです。……具体的にはこの島々の未来を左右するものだと」
「大きく出たな。それと書物がどう関係すると?」
「書物は人と違って燃えたりしない限り残ります。残された書物を後の人が知り、それを元にして過去に起きた出来事、あれをやったら失敗した、これをしたら上手くいったというのを知って政を行うと国の運営が問題なく進むそうです」
「ふむ」
「当時の人が生きた出来事をまとめた書物を『歴史書』と言うそうなんですが、後の世になってこの島にも紙が伝えられ、色々な国々の歴史が一か所にまとめられるそうです。ところがある日、この島で誰が王様になるかで争いになったとき、負けて死を選んだ奴が歴史書をまとめてある建物に火を付けて焼け死んだとか」
「それでは、それ以前の事が分からなくなってしまうではないか」
「歴史書を読んでいた人たちがもう一度書き直したそうなんですが、穴があちこちあって、あやふやになってしまったとか」
「それで?」
「そのことが何千年も後になって、海の向こうの国々からいちゃもんをつけられるようになったそうです。『この島に住む民族は、元々俺たち祖先がやって来て住み始めたんだから従え』って言うんだそうですよ」
「そんな荒唐無稽な話、誰も信じるわけないだろう」
王が呆れた口調で言う。俺もそう思いたかった。
「それが、そうでもないんです」
「何?」
「何と言えばいいのか。……お爺さんが言うには、歴史書を読んでいる方ならともかく、村の長老から体験談を聞けるのは直近百年くらいで、それ以前となると何も分からないわけです。さらに言えば、歴史そのものに興味がない人にとってみたら、そんな下らないこと考えるよりも手足を動かして畑仕事しろって言う人が普通です。それでですね、大半の人が『大昔のご先祖様? 知らないな』という考えになってしまって、そこに悪意を持った人に『お前たちの先祖は昔悪いことをした』、と吹き込まれたらどうなると思います?」
「まあ、俺の先祖がそんな事をするはずがない、と怒るな」
「そうです、それが普通なんです。でも、中には『この人はこの国の過去に詳しいから信じよう』と思い込んでしまう人も出てくるわけです。そんな人たちが一人、また一人と増えていき、ある日気が付けば、『この国は過去に他所の国に悪いことをしたんだから、俺たちは子々孫々まで謝り続けないといけない』と考える人が多数を占めるようになるわけです」
「何だそれは。そんな事は歴史書を読んでいれば分かることだろう」
王が憤慨した。その気持ちは俺も分かる。
「その書物が誰でも読むことができるくらい、数を作って出回らせればできるでしょうね。でも、人は楽をする生き物ですから、調べもせずに誰か詳しい人に聞けばそれで満足という方が多いそうですよ。で、その詳しい人が間違った知識を持っていたり、嘘を広めようとしていたりすると一気に誤解が広まります」
「まあ、そうなるな」
「一度信じてしまった勘違いは正すのが難しいそうです。お爺さんの話によると『日々の生活が良くならないのは、その国の王が悪政をしいているからだ。ならば倒してしまおう』と思い込んだ民衆により、王を含めた一族が殺されてしまった例が幾つもあるそうです」
「それは、……あり得るだろうな。俺にとっても他人事ではないということか」
王が腕組みをしながら頷く。
「ですので、歴史書の編纂をして、それを民に分かりやすく教え、ご先祖様に、ひいては自分たちが住んでいる国に愛着を持たせるのも国の仕事だ。そうお爺さんは言っていました」
「なるほどな」
「お爺さんから聞かされた話はこのくらいですかね? 他にも何か言われたような気がするんですけど」
あまりべらべら喋ってしまうのもどうかと思い、ここで切り上げることにした。
「いや、一度に聞かされても覚えきれん。また何か思い出したら言え」
「はい、分かりました」
「しかし、その神を名乗る爺さんは物知りだな。何千年も先の未来を見たというのは伊達ではないのかもしれん」
「そうですね、長生きなんですね、神様って」
俺、実際の神様を見てるんだよね。下手すると億年単位で生きてるかもしれないという。
「しかし、海の向こうから我らに対して従うよう言ってくるのか。腹が立つな。一体どこの国だ、そんな事を言ってくるのは?」
「ええと、この島の西の半島にある国の民族と大陸の大きな国にある複数の民族だと聞かされましたが」
「ううむ、大陸国家については俺も詳しくは知らんが、半島の国々は我らと親しいぞ? そんな事が起きるのか?」
「大陸の国家は、この世の中心は自分たちなのだから周りの国々は従うべきと信じているそうです。半島に今住んでいる民族はそう遠くない将来、北から南下してきた民族に根絶やしにされるとか聞かされました」
「何と、根絶やしか」
「かなり残虐な民族と聞かされましたが、私もこの目で見たことが無いので分かりません」
「その爺さんはどうすべきとか何か言ってなかったか?」
「んー、この島を統一するか、国々と連合を組んで、半島に攻め入り、流れ者の民族に盗られるより先に盗ってしまえと言ってまして」
「ふむ」
「で、その半島から先は土地が無限に広がっているそうなんですが、この島に住んでいる人たちだけで征服するのは数が足りないから不可能なので、半島の付け根を長い長い水堀を掘って、土壁を築いて分断してしまえば良い、と言われました」
「壮大な話だな。仮に実現するとして何年かかるんだ、それは?」
「さあ? 何千年も先のこの島の危機を回避するために、千年以上も時間をかけないといけないんじゃないかと」
「その頃には誰も生きていないぞ。そんな事業は不可能だろう」
あ、不味い。ここで諦められたら俺の計画が無駄になる。
ええい、仕方ない。信用を得るためだ。多少の危険を冒してでもやるしかない。
俺は声を落として王に話しかける。
「王よ、実は誰にも言わないで欲しい話があるのですが」
「何だ、どうした?」
王がこちらに合わせて小声で訊いてくる。
「そのお爺さん、神様から気紛れに力を授かりまして」
「ふむ、それは一体?」
「不老不死です」




