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一から始める日本創生  作者: 塚山 泰乃(旧名:なまけもの)
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酒盛

「次に、再び西の国へ行ってもらう予定だが、何か要望はあるか? 今回の反乱勢力を鎮圧した褒美(ほうび)だ、俺にできることなら叶(かな)えよう」

「その前にお尋ねしたいことがあるのですが」


 妖術師(ようじゅつし)の話題を終え、次の議題に移る。

 ブヤの発言に王が頷(うなず)く。


「何だ?」

「我々がこの国を離れても大丈夫なのでしょうか? 周りの国に攻め込まれるという可能性もあります」

「ああ、それなら今度こそ心配いらない。我が国で起きたものよりは規模が小さいが、隣国(りんごく)も国内で起きた反乱に手いっぱいで何もできんからな」


 さすが王だ。周りの様子をきちんと調べている。

 やはり農作物の不作はこの国だけじゃなかったか。西の国へ向かう途中の村々ではこういうことはあまり見られなかったが、下手をすると、東日本全土で起きている可能性すらある。俺が物心(ものごころ)ついた頃から農作物の育ちが悪いが、この時代、世界規模で寒冷化が起きていると見て間違いないか?

 今のうちに訊いておこう。


「王よ、不躾(ぶしつけ)な質問です。できたらの話ですが、西の国へ行った帰り、寒さに強い作物の種を持ち帰っても良いでしょうか?」

「寒さか。……まあ、思い返せば、ここ二、三十年の間、夏が涼(すず)しかったからな。そうか、作物に影響(えいきょう)を及(およ)ぼしているのか……」


 俺が生まれる前から天候(てんこう)が不順(ふじゅん)だったのか。

 そういえば、小さな頃、村の長老から村同士の小競(こぜ)り合いがあったって聞かされたっけ。

 王は考えをまとめると、竹簡(ちっかん)に筆で何やらさらさらと書きつけ、俺に放(ほう)ってきたので慌(あわ)てて受け取る。


「それを外の門番に見せろ。金と交換してくれる所に案内するだろう。その金で種を買って来い」

「分かりました、ありがとうございます」


 すかさずお辞儀(じぎ)した。

 これはありがたい。物々交換だと荷物が嵩張(かさば)るからな。この王様、話が分かる人だ。

 嬉(うれ)しさで舞い上がってしまいそうだ。


「それと、その作物の育て方を知ってる奴から教えてもらうか、連れてこい。枯(か)らしたら元も子もないからな」

「はっ」


 そこまでは考えていなかったので頭を深々と下げた。

 ブヤが懸念(けねん)の声を上げる。


「王よ、お願いがございます。我らが使う武器を新調(しんちょう)したいのです。一揆との戦いで槍を中心に刃毀(はこぼ)れが酷(ひど)く、これ以上は持ちそうにありません。現に戦っている最中に折れてしまった物もあります」

「分かった。部隊を再編(さいへん)するまでの間に用意させよう」

「ありがとうございます」


 他にも幾(いく)つかのやり取りが交(か)わされた後、王が言った。


「さて、他に要望は無いな? では、ついてこい。ささやかな宴を用意してある。……ああ、都の外で待たせている者たちにも食い物と酒を持って行かせてあるから気にしなくていい」

「ありがとうございます。つきましては、ケガでヨシマ村に留まっている者たちにも、後で酒を持って行ってやりたいのですが、よろしいでしょうか?」

「構わん。用意させよう」

「重(かさ)ね重(がさ)ねありがとうございます」


 執務を行う建物を出ると、先ほどよりも大きな建物に案内された。


「王よ、ここは?」

「遠方から訪れた客を持て成す場所だ。今夜はここを使う」


 建物の中に入ると既に幾つか火が熾(おこ)されていて、それぞれに土器が火の上に吊るされ、女性たちが調理していた。

 王は彼女たちに声をかける。


「どうだ、食事の用意はできたか?」

「王よ、丁度(ちょうど)良いところに。もうそろそろ出来上がります」

「そうか。モズたちは輪(わ)になって座れ」

「はい」

「まずは酒だ。誰ぞ持って参(まい)れ」


 王の指示に女性三人が部屋の隅に置いてある甕(かめ)に歩いていき、拳大(こぶしだい)の丸い器(うつわ)に酒を汲(く)むと、俺たちに手渡していく。

 おお、俺も飲んで良いのか? まだ子供だから酒は駄目だとお預けをくらってたけど、いよいよ俺も飲めるのか。実に楽しみだ。

 王が器を掲(かか)げて音頭(おんど)を取る。


「皆、酒は行き渡ったか? それでは堅苦しいことは抜きで行こう。乾杯(かんぱい)!」

『乾杯!』


 そう言って皆が器を傾けた。俺も飲む。

 …………何、これ?

 不味(まず)い。

 いや、不味いなんてもんじゃないぞ。とんでもなく不味い。前世の現代日本で飲んだ酒より酷い。

 しかし、ここで吐き出したら無礼に当たるだろう。俺は顔をしかめながらも飲み切った。


「……うー」

「カゼ、どうした?」

「不味そうな顔してるな」


 コウが不思議そうな顔で訊き、タナソがありのままの感想を言う。

 顔に出てたかー。さすがに表情まで我慢できないぞ。


「お酒ってこんな味なの?」

「ははは、子供の舌にはまだ合わないか」

「こんなに旨(うま)いのに」


 素直に文句を言ったら、ブヤに笑われ、セリに残念そうな顔で言われた。


「いや、皆の舌がおかしいんじゃないの?」

「お前の舌が変なだけだぞ。この酒はこの都で最も美しい女が作り出した口噛(くちか)み酒だからな」

「はあ、口噛み……」


 王の自慢(じまん)に頷(うなず)きかけて、思考が止まる。

 口噛み酒って、あれだよな。女性が米を噛んですり潰して吐き出した奴を発酵(はっこう)させた物を酒にしたという。

 確かにアルコール特有(とくゆう)の苦味が比較的(ひかくてき)強く感じるんだが、ここまで不味いと酒を楽しめない。


「もうお酒はいいや。後は水でお願いできる?」

「はい」


 側に控(ひか)えていた女性に頼んで器を渡す。


「勿体(もったい)ねえなあ、その分俺が飲んで良いか?」

「どうぞどうぞ」


 セリが飲みたがったので譲(ゆず)ることにした。

 海で採れた魚を焼いた物を肴(さかな)にして、料理に舌鼓(したづつみ)をうち楽しむ。

 宴も酣(たけなわ)になった頃、程(ほど)よく酔っぱらった皆が船を漕(こ)ぎ始めたので、お開きになった。


「王様、僕たち、どこで寝たら良いんですか?」

「この建物を使って良いぞ。他所(よそ)の国から客が来たら出て行ってもらうが、今夜は大丈夫だろう」

「ありがとうございます。……皆、ここで寝てて良いって」


 俺の言葉にモズたちはその場で横になり、じきにいびきが聞こえてきた。

 眠り始めた彼らを眺めながら、王に尋ねる。


「王様、結構お酒飲んだのに、強いですね」

「色んな奴を接待してるせいで飲むからな。慣れている。……それでどうだ、西の国へ行く旅は?」

「楽しいです。色んな土地、様々な人と会って面白いです。……残念ながら、今のところ紙を作れる人を見つけられていません」


 結局、カダの町で保護した奴隷には紙作りの職人はいなかった。

 ちょっと落ち込む俺の肩を王が軽く手を乗せる。


「まあ、気長に探せ」

「……はい。ありがとうございます」


 王の気遣いがちょっと嬉(うれ)しかった。

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