顛末
その後の顛末の話をしよう。
ヨシマ入り口正面にいた反乱勢が逃走したことを両側面に回り込んでいた反乱勢に伝え、降伏するよう告げたところ、大半が処罰を恐れて逃走した。
まあ、参加していた者たちが若すぎたり年寄りすぎたりだったので、ヤタニを攻め落とした者たちではないだろうから見逃すことにした。
ヨシマ村の北隣の村側から攻めていた奴らも、俺たちに蹴散らされた被害で態勢を立て直すことができずに瓦解して逃走したようだ。
これで、都の北側の反乱勢力を王の軍が鎮圧すれば、この国の騒動は終息したことになる。
ヨシマの入り口付近を駆け回った男は遺体の損傷が激しく、結局誰なのかは分からなかったが、捕らえられた者からの不思議な力があると言う供述から、こいつがオシだろうと結論付けた。
モズは早速都に伝令を送り、今後の対応を求めることにした。
それよりも、ヨシマ村を中心とした被害である。
ヨシマは村の家屋の半分近くが焼かれ、オシによる突撃で吹き飛ばされた死者が二十人くらい出たことで、復興に少し時間がかかりそうだ。
ヨシマの隣の北と東の村も多少の被害を受けたものの、復興にかかる時間はそれほどでもないらしい。
問題は、沼を挟んだ対岸の村々だ。ほぼすべての食料を略奪され、家屋を燃やされてしまった上、住民も犠牲者が続出し、復興は不可能と判断されたと聞いた。今後は健在なヨシマ村などに身を寄せて暮らすかどうかを話し合うとか。
隣のナナサト村は一揆を素通ししたことについてヨシマ村から問い詰められたが、素通ししたはずのナナサトも一揆の通過の際、どさくさに少なからず略奪をされたとかで、自業自得として話は終わった。
さて、俺たちの部隊の被害についてだが。
死者はヤタニ村に残った兵も合わせて二十三人、ケガから回復しても手足が後遺症で部隊に復帰ができないと診断された重傷者が八人、軽傷者が多数出た。
重傷者が死者よりも少ないのは、オシによる突撃の威力が半端なく、まともに喰らっただけであの世行きだったからだ。
これで、部隊から三十一人が抜けることになる。前世の現代日本の軍事知識に当てはめるなら全滅判定になるだろうか。
欠員を補充するため、新たに部隊員を集めることになった訳だが、これも王に届け出を行い、村々に伝えることになった。
死者の埋葬は大きく二つに分けられ、一揆として攻めてきた連中の遺体は環濠にまとめて埋められた。もう一つの村人たちと俺たちの部隊から出た死者は、村はずれの農作物の育ちが悪いとされた所を、墓地として指定された場所で行われた。
土葬である。
「おおい、もっと深く掘ってくれ!」
「分かったよ!」
毎年子供たちの死者が中心になるため、墓地は割合広めである。ただし、今回の騒動で出た死者は皆成人したものばかりで体も大きく、埋葬できる場所が限られてしまった。その結果、体をまっすぐにしたままの状態で掘られた穴に並べられ、積み重ねるようにして入れられることになった。
さて、そうなると問題がある。
毎年使う墓地に遺体を埋めようとするため、以前に埋葬した遺体が腐りかけの状態でこんにちはするわけで。
「うおっ!?」
「どうした?」
「ひいい、目、目が合ったぁぁあ!」
「ああ、当たりを引いたか」
「運が悪かったな」
という若者の悲鳴と、年配の経験者たちのたんたんとした感想が時折飛び交いながら、穴を掘り遺体を埋めていった。
伝令を出してから二日で帰って来た兵の知らせによると、つい先日、都の北側の反乱勢を長い交戦を経て鎮圧したこと。また、俺たち部隊員を補充するための間、論功行賞をしたり、ちょっとした宴を開くので都に来いという指示があった。
とりあえず、重軽傷者の兵の治療をヨシマ村の人々に任せ、俺たちは都へ向かった。
都の入り口で部隊員たちには待ってもらい、小隊長以上の者が王が執務する建物へ案内された。
「よく来たな、俺がこのミマツの国の王、ナギだ。ああ、俺は堅苦しいのは嫌いだ。適当に座れ」
「あ、はい。ではお言葉に甘えて」
王は竹簡に書き込むのを止めると、それを脇にどける。
王がそうしているように、モズが胡坐をかいて座り、俺たちも彼に倣った。
「さて、俺の下に報告書を送ったモズと言う者は誰だ?」
「私です」
「そうか、物事の経緯などの説明が分かりやすくて助かった。礼を言う。……ところで、報告書にあった『文官になりたい』というのは本当か? こっちとしては助かるんだが」
「ええ、それを目指していましたから」
「……目指していた?」
モズを見る王の目が細められる。
「はい。これから私たちは西の国へ行くのでしょう? 私が抜けた場合、報告書などを書けない彼らが心配で。それに、ここで引き抜かれるよりもさらに手柄を立ててから引き抜かれた方が、より高い地位に就けると思いました」
その答えを受けて王はにやりと笑う。
「ふっ、良く言う。……良いだろう、引き続き部隊の運営を任せる」
「ありがとうございます」
モズが腰を折って頭を下げた。
「さて、戻って来て早々ささやかな宴を開いて諸君らを労いたいところであるが、その前に幾つか訊きたいことがある。……今回の反乱で起きた奇妙な事だ。曰く、火の気配の無い森からいきなり大火事になった。曰く、目にも留まらぬ速さで駆け、あらゆる物を寄せ付けぬ男。一体何が起きているのか分かる者はいるか? 俺は怪しげな術を使う妖術師の類と見ているが、その者たちはどう考える?」
覚悟はしていたが、とうとう知られてしまった。しかも妖術師という悪い存在に解釈されているし。
この時代、妖術師というのは読んで字のごとく、世間を惑わして恐怖に陥れる悪人とされている。
後者は既に死んでいるからともかく、前者はまんま俺である。正体がばれたら縛り首にでもなりかねない。
「それについてですが、私なりに分析してみました」
「ほう、言ってみろ」
「人としてあり得ない速さで走り、全てをなぎ倒す男は我らが討ちました。奴は間違いなく妖術師と見て間違いないでしょう」
「ふむ」
「しかし、森を燃やした者は明らかに我らに敵対する者たちを焼き尽くしました。これは我らに味方する良い妖術師であるように見えました」
モズの良い妖術師を擁護する発言を聴いた王は何も言わない。無言でモズを見つめている。
まあ、仕方なく、本当に仕方なくだが、味方を死なせたくないために大勢の前で力を使ったからな。
「ただ、もしかすると妖術師ではなく、神が我らに付いているのかもしれません」
あまりにも突拍子もない事を言ったモズに周囲の視線が集まる。王も意外だったのか目を丸くしている。
「神、か」
「正直に申しますと、あの火災が起こる前まで、我らは劣勢でした。あれが起きなければ、最悪、こうして王の前に座すことはなかったでしょう。しかし、神のいたずらか何かで我らは生き残りました」
王は言葉を発しない。
俺は前世の西暦千九百年代後半の日本では怖い存在を『地震、雷、火事、親父』などと呼んでいた時期を思い出した。まあ、それだけ自然災害が人間にとって、どうしようもない脅威であったことを物語っている。
それは縄文時代の日本に住む人々も同様で、いつしか自然のあらゆる物や現象に神が宿っていると考えるようになり、後の時代で八百万の神と呼ばれるようになったのだったか。
「王よ、失礼を承知の上で言わせて下さい。火を操る神は我らにとって益をもたらす存在です。決して悪いものではないと考えられます」
「俺からもお願いします!」
モズが説明していると、突然セリが頭を下げながら言う。
「俺はヨシマで悪い妖術師って言うのに殺されかけたんですが、あいつが死ぬ前、体がいきなり燃えたんです。神は俺を守ってくれました。だから、悪く言わないで下さい!」
セリが王に対して、丁寧語を使って訴えたので驚いた。
命を救ってくれた恩神?なのだからの反応だろう。
俺も同じ立場に立たされれば、神に感謝するかもしれない。
「そうか。お前たちを救った、か」
王は顎に手を当てて何やら考え始めた。
「……まあ、そう言うのならそうなのかもしれないな。分かった、火を操る者の事については不問にしよう」
「ありがとうございます!」
王の言葉を聴いたセリは伏せていた顔を上げると、お礼を言いながら勢いよく頭を下げた。
でも、立場が改善されたからと言って、正体は明かさないけどね。いつ疫病神呼ばわりされるか分かったものじゃないから。




