顔合わせ
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カダの町から離れて最初の夜、野営の準備をして食事を各自で終えた後、集合するように言われた。
幾つかの焚き火を囲んで円陣を組むと、二人が進み出て中央に立った。共に二十代の若者だ。
「先ずは集まってくれてありがとう。俺はモズと言う者だ。オカワの村の出だ」
「ヤタニ出身のブヤだ」
オカワ村はヨシマ村から西へ半日ほどにある川まで歩き、その川に沿って半日北上した所にある。ちなみにその川から西へさらに半日歩いた所が都だ。
もうひとつのヤタニ村はヨシマ村から丸一日南へ行き、オカワ村とヨシマ村の側を流れているそれぞれの川が合流する地点を渡って歩いた所にある。
二人は簡単な自己紹介の後、本題に入る。
「これから俺たちはミマツの国に帰ることになったわけだけど、ナガル王子からはこの部隊の隊長に誰がなるか聞かされていないんだ。誰か知ってる者はいないか?」
あ、出発前の議論に夢中になってて思い至らなかった。
周囲を見回すと誰も聞かされていなかったらしく、戸惑う気配が漂う。
「その様子だと誰も知らないんだね。この部隊をまとめる長が必要なんだけど、誰か立候補したり、推薦したい人はいないか?」
モズの問いかけにたっぷり十秒ほど沈黙の後、誰かが声を上げる。
「カゼさんなんかどうですか 彼を推薦します」
「あいつか」
「どうなん?」
「強いって聞いてるけど?」
「直接目にしたわけじゃないからなあ」
「俺が目にしたのは弓矢で敵をバシバシ当ててたことくらいかな」
「十分凄くね?」
あちこちでひそひそと会話する声が漏れてくる。
カダの町では主にカダ兵と共に行動していたので、俺が直に戦ってる姿を見た者は少ないだろう。
「……と言われているが、カゼ、君はどうなんだい?」
「指名してくれるのは嬉しいけど、経験を積んでいない子供だよ?」
モズに尋ねられ、俺は正直な感想を口にし、続けて意見を言うことにした。
「年長者に任せることはできないかな?」
「それが一番無難だけど、ただ長く生きていれば経験を積んでいるってわけでもないんだよ」
そこなんだよなあ。
俺の場合、前世を含めても誰かの上に立って、会社を回したことなんて一度もなかったし、今生でも、まともな戦いだったカダの町での出来事に、俺は部隊の一部を任されたけど、皆を置いて俺だけ駆け回ってた覚えしかない。
「カダの町で三十人の小隊を預かりましたけど、きちんと指揮できたという感じはしませんでした」
「いや、その経験を一回でも体験したのなら、今後のためになるはずだ」
「そんなもんですかねえ」
「そんなもんさ。……というわけで、カゼ、君には一隊三十人を率いてもらいたい」
ううん、誰かの下で戦っている方が気楽なのだが、仕方ないか。
「はあ。で、残りは?」
「今から決める」
「ちょっと待った!」
今の話を聞いていた者たちの中から一人立ち上がり、俺を指差した。
「俺は認めない。カゼって奴の強さを見てないからな!」
「あー、つまり?」
「俺と勝負しろ!」
うわ、また面倒臭そうなのが出てきた。
「名前は何て言うんだ?」
「セリだ、ナナサト村のセリ!」
へえ、ナナサト村ね。うちの村の隣じゃないか。……仲悪いけど。
ナナサト村はヨシマ村の西側にある川を挟んで存在している。
というか、こいつ、どこかで見たことがあるな。
「……ひょっとして僕に握手してきた人?」
「! そうだよ!」
セリは俺の問いに一瞬、意外そうな顔をしたが元の睨みつける表情に戻る。
そうだそうだ、思い出した。セリは旅の途中、事あるごとに俺を不躾に睨んできた奴だ。何か用かと思い見返すと顔を背ける変な奴だ。
「何か、面白そうだな」
「おい、試しに戦ってみろや」
外野がやいのやいのと騒ぎ立てる。
俺はモズが手招きしてきたので、立ち上がって彼に近寄った。
「どうするんです、あれ?」
「あれって言うな、セリだ!」
聞こえたらしい。耳が良いのか。
「申し訳ないけど、相手をしてやってくれないかな」
困った俺はモズに訊くと、セリの突っ込みを無視した彼に頼み込まれた。
「皆、ナガル王子という指導者が離脱したことで不安がってる。ここで頼りになるくらいの強さを見せつければ、少なくとも皆は自身を取り戻してくれると思う」
「そう言うのなら」
俺は頷いて周囲に向けて発言する。
「セリさんの挑戦、受けて立つ」
「いよっしゃ!」
「待ってました!」
皆が口々にはやし立てる。
見てる分には気楽なんだろうけど、当事者にとっては怠いことこの上ない。
「で、何を使って勝負するの?」
「え、えっと、相撲!」
何と縄文時代には既に相撲があった。
前世の日本で生きていた頃、合氣道の先生に教わったのだが、鉄がまとまった量で採れない日本では、徒手格闘が発達したと言う。相撲もその一つで、現代に伝わる突っ張りや投げ、関節を極める他、突きや蹴りなどもあった。
「分かった」
「え、カゼ君、良いのかい?」
セリの提案をあっさりと呑んだ俺に、モズが目を白黒させる。
「何で?」
「だって君、セリ君と比べてまだ体が小さいじゃないか。それだけで不利になるよ?」
「それくらい平気、平気。村の訓練ではそんなの当たり前だったから」
「……それならいいんだけど」
モズと会話している間に、ブヤと名乗った青年が木の枝で地面に輪を描いていた。即席の土俵である。
「こんなもんか。……二人とも、輪の中に入れ」
ブヤの言葉に従って俺とセリは中に入り、互いに向き合う。どこからともなく俺たちに声援が飛び始めた。
「ぶっ倒す」
「ははは、お手柔らかに」
俺は苦笑しながら言った。
何かセリのやる気満々なんですけど、どうして? 俺、何かしたかなあ?
そこにブヤの開始の掛け声が響き渡る。
「それでは、はっけよい、のこった!」




