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一から始める日本創生  作者: 塚山 泰乃(旧名:なまけもの)
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 故郷での反乱。

 この知らせはミマツ部隊に衝撃を与えた。

 普通なら特定の場所で騒乱(そうらん)が起きて、町や村が事を収められなければ、国から兵が派遣(はけん)され鎮圧(ちんあつ)に当たる。

 普通なら。

 今回の場合、複数個所でほぼ同時期に発生しており、鎮圧が難しいとされ、至急本国に戻るよう命令が下(くだ)ったと伝えられた。

 ただし、全員ではない。

 西の国の救援要請を反故(ほご)にするわけにもいかず、半数は残して二手に別れるということだそうだ。

 カダの町の中では迷惑をかけるということで、外に出て会議を開くことにしたが議論は紛糾(ふんきゅう)した。


「直(ただ)ちに故郷(くに)に帰るべきだ!」

「帰ってどうする?」

「もちろん、反乱に加わって食料を分捕(ぶんど)るんだ!」

「却下(きゃっか)」

「加わってどうすんだ。止(と)めろよ」

「餓えて死ねと!?」

「というか、誰から食料を奪うんだ?」

「反乱を起こした所はどこも同じ理由だ。起こしていない村でもそれに近い状態のはず。待っているのは共倒れだぞ」


 複数の兵たちの訴えにナガル王子や年(とし)かさの兵たちが受け答えする。

 この時代がいつだか分からないが、確か縄文時代後期だか末期は地球全体の寒冷化が進んで、東北地方でも米が採れなくなっていく時代だったか。恐らく寒冷化に対応してない品種だからだろう。

 稗(ひえ)や粟(あわ)などだけでは対処できないくらいにまで、追い詰められたが故の行動だった。


「それでも! それでも、俺の村は足りなかった! だからこうして、口減(くちべ)らしのために半ば追い出される形で、ここに来たんだ!」

「それは、お気の毒としか……」

「あんたたちに何が分かる!? 俺は戻る。西の国の運命よか、故郷の未来だ! おとうやおっ母(かあ)、小さな兄弟たちがいるんだよ……」

「君たちの気持ちは痛いほど分かる。私にも両親や妻、まだ小さな赤ん坊がいる」


 ナガル、お前、妻子(さいし)がいたのか。

 どうも十代後半の少年たちが既婚(きこん)だということに、西暦二千年前後を生きた俺には違和感を感じる。

 慣れないとな。これが普通だ。


「なら、何で……!?」

「怖(こわ)いからだ。確かに他所(よそ)の村から腹を満(み)たす分を奪えば、幸せになれるかもしれない。だが、そんなものは一時的なもので、待っているのは方々から恨(うら)みを買っての破滅(はめつ)だ」


 ナガルの言葉に訴えていた者たちが俯(うつむ)く。

 彼らもそのことは理解しているのだろう。ただ、将来ではなく、明日を生きられるかどうかに重きを置いただけの話で。


「将来(しょうらい)を悲観(ひかん)するのはまだ早い。餓えた彼らを生き延びさせる方法があるかもしれない」

「それは何だ? 教えてくれ!」

「それを今からここにいる皆で考えるのだ。誰か、餓えた者たちの腹を膨(ふく)れさせる方法を知っている者はいないか?」

「そんなこと言われたって、なあ……」

「他所の国から食料を買うことはできないのか?」

「残念だが、どこの国でも似たような状況なのでな」

「無理かあ」


 皆が頭を抱えて悩む中、一人の兵がおずおずと手を挙げた。


「あ、あのう、俺、沿岸で育った者なんですけど……」

「どうした?」

「海で獲(と)れる貝や魚を分けてあげたら、いいんじゃないですかね」

「そうか、その手があったか!」

「良いな、それ」

「畑と違って、幾らでも獲れるから、腹いっぱいになれるぞ!」


 いや、その言葉はどうかと思う。貝や魚だって限られた資源なんだから、獲り過(す)ぎれば元の数に戻るまで時間がかかるどころか、根こそぎ奪いつくしかねない。

 けれど、今は緊急時だからしょうがないか。


「良い案だと思うが、内陸にまで貝や魚を持っていけるか? 生き物なんだろ、腐(くさ)ったりしないか?」

「……腐りますね」

「ええ、じゃあ腹を壊しちまうじゃねえか」

「良い案だと思ったんだがなあ」


 皆がため息をつく中、俺はふと思いついたことを提案してみることにした。


「それなら皆、海の近くまで引っ越せば良いんじゃない?」

「まあ、貝や魚が腐らないような場所に、住処(すみか)を移(うつ)せば問題ないか?」

「海辺(うみべ)の土地、空いてる場所ある?」

「ええと、住みやすそうな土地は既(すで)に私たちがいます。ですが、森を切り拓(ひら)いていけば住めそうな土地はまだまだあるので、大丈夫かと」

「いや、時間かかりすぎだろう、それ」

「大切なのは、今、なんだよなあ」

「住まいを移すのは採用なんだけど、な」

「船を新たに作る。漁(りょう)の仕方を教(おそ)わる。漁具(ぎょぐ)を作る。……手伝いますけど、一朝(いっちょう)一夕(いっせき)にできることではありませんよね」


 駄目か。

 ナガルが自身の手を叩いて皆から注目を集める。


「他に良い案は無いか? 無いなら今の案を国王に意見として具申(ぐしん)しよう。……ともかく、半数は本国に戻らねばならん。今ここで戻りたい者たちを募(つの)ろうと思う。戻りたい者たちは右へ移動しろ」


 そう言われ、兵たちは互いに顔を見合わせる。


「俺、家族が心配だから戻るわ」

「俺も」

「俺もだ」

「俺は残る。家族はいないし、故郷の連中とは仲が悪かったからな。正直、顔を合わせたくない。というか、助けたくない」

「俺も残ろうかな」


 戻る者、残る者と続々と別れていく。


「ナガル王子はどうするんですか?」


 俺の問いかけにナガルは肩をすくめた。


「これから西の国へ向かうんだ。指揮する者がいなくてどうする」

「私も通訳としての仕事がありますので、ついていきます」


 ヨヘイも王子に同調し、続けて問い返される。


「カゼはどっちを選びますか?」

「正直、迷ってる」


 素直に答えた。


「王子たちについていきたい。でも、家族や村の皆が心配だ。戻ってみたら村がなくなっていた、というのは嫌だ」


 海の向こうの国から連れてこられた奴隷たちの証言が、脳裏(のうり)を掠(かす)める。


「そうだな。……反乱の規模について詳しいことは分かってないが、国が対応に困っているというのは異常だ。……カゼ、お前は一旦国に帰れ。親父に今のを意見具申するんだ」

「……良いんですか?」

「お前はまだ若い。……正直言うとな、お前、活躍しすぎなんだよ。俺の見せ場が全くと言っていいほどなかった」

「ええ?」

「敵の大将(たいしょう)と参謀(さんぼう)を一騎打(いっきう)ちで倒した。まあ、俺たちの部隊でお前だけ重傷(じゅうしょう)と思うくらいのケガをしたがな。……何故か七日で包帯もいらなくなるくらい回復するとは想像していなかったが」

「他(ほか)の人よりも体が丈夫(じょうぶ)なんでしょう」


 ナガルの指摘(してき)とヨヘイの判断に俺は苦笑(にがわら)いする。


「では、お言葉に甘えて戻ることにします」

「おう、一揆が治(おさ)まったら追いかけてこい。待ってるぞ」


 二人と別れ、二手に別れた部隊を見回す。残る者たちの中にサヘエの姿を見つけた。


「サヘエは帰らないの?」

「俺、もう年だからな。一旦帰って治めて、またここに戻ってくるまでの体力が無いのさ」

「そうなんだ」

「年長者の俺としては、村から出てきた若者たちの面倒を見なきゃいけないしな。……坊主は?」

「ナガル王子の命令で戻ることになった」

「まあ、その方が良いな。まだ若いんだし、家族に顔を見せてやっても。……しかし、傷、残ったなあ」


 言われて自身の顔に手を触れる。


「水鏡(みずかがみ)で見ましたけど、結構な傷跡ですね」

「坊主のお母さん、泣かなきゃいいけどな」

「絶対に泣きます。心配性ですし」

「皆さん、そろそろ……」


 二人で笑っていると、ミマツの国からはるばると一人だけで伝令にやって来た兵が呼びかけた。


「じゃあ、また」

「おう、またな」


 俺たちは互いの無事を祈ると、彼らとカダの町に背を向けて歩き出した。

 カダの町の入り口では住民が鈴(すず)なりとなって手を振(ふ)っていた。俺たちが見えなくなるまで、いつまでも、いつまでも。

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