17.桜山の熊?3
動物の革で出来たベージュのテントが崖際に建てられている仮拠点に辿り着いた。
パーティ全員がいる状態でないとクエストリタイアの手続きができないので、近くにある薬草や林檎などの回復アイテムを集めながらしばらく待っていると、 クロカゲが仮拠点に飛び込んできた。
「本当にちゃんと戻ってきたわね……」
ジュズが感心しているのか呆れているのか、わからないため息をつく。
「でも、すごいダメージ受けてるけど、そんなに苦戦したの? あんたなら強欲熊くらい」
クロカゲの体力ゲージは半分ほどに減っていて、ダメージに応じて服がボロボロになっていた。
頬に黒い煤が付いてるし、体力ゲージも通常は緑色なのにオレンジ色で点滅している。これは火傷状態を示している。
「途中で嗅ぎつけたらしいさっきの竜が追いついてきて、乱戦のところを発光玉と煙幕玉使って逃げてきた」
「相変わらず、めちゃくちゃね。あんた」
熊だけならまだしも、竜も乱入してきて逃げられたのか。
とすると、火傷を負っているのは竜の攻撃か。
「一回、最初にターゲットされて炎のブレス喰らったけど、次に竜が熊をターゲットして攻撃してたからなんとか逃げられた」
モンスターが複数鉢合わせになった時は、設定されている優先度に応じてプレイヤーではなくモンスターを狙う場合がある。強欲熊なんかはその場にブタがいればそれを優先的に狙う。人肉よりも豚肉がいいのだろう、当たり前か。
今回の竜はたまたま熊の優先度が高かったのか。
「ブレス一回でそのダメージ量は、攻撃力高過ぎない?」
「今の装備は炎耐性が低めだが、それを考慮しても高過ぎるな」
シロガネに返しつつ、クロカゲは腰の黒い巾着から青みがかった草、『ひんやり草』を取り出し体に付けて火傷状態を回復する。
街に戻っても体力や状態異常はすぐに回復するわけではない。体力は時間と共に徐々に回復していくが、状態異常は自然治癒しない。
「ひとまず、リタイアしてサクラに戻りましょ。今日はそれでお開き。ハルとタマには悪いけど」
「いやいや。いきなり竜を見れてびっくりしたけど、楽しかったわぁ」
「そうね、ハチャメチャで不完全燃焼だったけど。竜は滅多にお目にかかれないんでしょ? なら見れただけでも良しとすべしでしょ。それより、リンたちの方こそどうするのよ。桜の枝、手に入らなかったじゃない」
あっ、とシロガネは声を漏らした。クロカゲも苦い表情をしている。
あくまでもルーマとジュズの肩慣らしのために桜山のクエストを受けたのであって、第一目的ではなったとはいえ、『墓参り』に使う桜の枝は桜からドロップしなかった。
「まあ、それは追々考える。あの桜色の竜のことも気になる。竜が出現したという情報はDBの全プレイヤーに報告が来る。その時に何かしら攻略に関する情報も出る。それを待って、枝と竜の対策を考えよう」
「クロカゲ。まさかとは思うけど、あの竜を倒すつもりでいるの?」
「当たり前だ。桜色の竜──今回の桜の枝に、何か関係するかもしれないだろ。奴を倒して桜の枝が出るか、試す価値はあるだろ」
せっかく竜と鉢合わせて生き残れたというのに、あの攻撃力をその身に体感してまだあれと戦おうというのか。
確かにシロガネもその気がないわけではないが、今の自分たちのレベルと装備では難しいとも思っていた。それはクロカゲだってわかっているはずだ。
「とにかく今はサクラに戻ろう。何を決めるにしろ、明日でもいい。あの攻撃力と耐久力の竜だ。すぐに倒されはしないだろ」
こうして、シロガネたち四人の初めてのパーティクエストと、竜との戦いはクエストリタイアという形で終わった。