第9話 会見
CIAのアラブ方面担当のれロ組織対策部長のマイケル・カーサは憂鬱な気分に陥っていた。わざわざイスラエルからやってくる、モサドの諜報員に会いたくないからだ。ユダヤ人は、こちらの立場など一切考えずに好き勝手に作戦を展開させる。自分の目的を達成する事しか考えず、手の内を晒すことはしない。テロ組織の情報の提供はありがたいが、アメリカ国内でドンパチやるのは勘弁してほしいのが本音だ。
マイケルは「911」のビル破壊テロ攻撃で両親を殺されていた。アラブ人には憎悪の念しかなかった。あの無差別殺戮で、3000人ものアメリカ人が殺された。ただ普通の生活を生きていた、アラブやイスラムの事件と何の関わりもない人たちだ。彼らに何の罪があったのか?アラブ人やイスラム教のテロリストどもは「アッラー」の名を叫びながら、殺人を繰り返す狂信者集団としか思えなかったのだ。
太平洋戦争時の日本軍の「カミカゼ」特攻でマイケルの祖先が戦死しているが、あれは戦場での話だ。日本人は国土を守るため、自分の家族の為に命を懸けて戦ったのだ。だから日本人には何の恨みもない。アラブ人には嫌悪と蔑みの思いしかなかった。アメリカが馬鹿みたいに石油を使いさえしなければ、何一つ関わらずに済むのにとマイケルは思った。
モサドの諜報員は、何の目的でアメリカまで来たのか?情報交換はこちらにも有益だが、ユダヤ人は必ず何かを企んでいる。発言一つにも何かの伏線があると考えなくてはならない。アラブ人とは違って非常に面倒くさい存在なのだ。アラブ人の思考は単純である。金を見せれば笑顔を見せ、少しでも侮辱すれば激昂して収まらない。それゆえに作戦の内容は予想しやすかった。
ブザーが鳴り、ユダヤ人の来訪を秘書が告げた。今度はどんな厄介ごとを持ってきたのか?マイケルはやれやれとした表情で腰を上げた。
ディビットとマイケルは短い挨拶を交わし、時間が惜しいという雰囲気を醸し出しながら意見を交わし合った。話をしながらディビットはアメリカ人の思考を読んでいた。彼から見てアメリカ人は思考は明瞭だが、のんびりし過ぎているという印象を受けた。緊張感が感じられないのだ。「所詮は地球の裏側で起きてる事だろう?」と考えている感じすら見えていた。
この日の二人の二時間くらいの話し合いで、「しばらくはアメリカ本国への脅威は感じられない」という意見で一致した。世界を徘徊しているアラブ人の情報の照会も行われたが、アメリカを訪れた事もないので情報は皆無だった。もしアラブ人がアメリカを訪れたなら「要注意人物」としてチェックするという話をしていたが、どこまで真剣にやるかは疑問である。
ディビットはアラブ人が来るまで、アメリカに留まっていようと心を決めた。大使館に行けば仕事は腐るほど溜まっている。怪しいアラブ人など、アメリカには何万人も不法滞在しているのだ。それらの調査任務もこなさなければならない。「女王」の指示が下るまでは動かずにいる事に決めた。久しぶりにアメリカのハンバーガーを食いまくり、ジャンクフードまみれになるのも悪くはない。




