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悪役令嬢はループ99回で塩対応だった王太子に溺愛される…えっ、なんで?  作者: イトカワジンカイ


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7/7

7.そうだ、婚約解消しよう

「ルンルンルン~♪」


シェリルは学校の廊下を鼻歌交じりに歩いていた。


今朝も家で好感度を確認したところ、3人とも好感度0のままだった。


今のところ順調であると言えるだろう。


(前世でスクリプトを手伝った時、確か3人の好感度が0であればノーマルエンドだったはず……)


この間そのことを思い出したシェリルは、徹底的に攻略キャラとの遭遇を避けている。


100%避けることは難しいものの、挨拶――それも会釈程度で会話らしい会話をすることもない。


(この調子で1年間過ごせれば!)


シェリルはそう思いつつ食堂に向かった。


すると、一緒に食事をとる約束をしていたマリアベルが慌てた様子でこちらに駆け寄ってきた。


「シェリル!」


マリアベルはクラスメイトで最近できたシェリルの友人である。


校内で迷っていたマリアベルをシェリルが案内したことがきっかけで仲良くなったのだ。


若干つり上がった猫目で少しきつい印象を与えるシェリルに対し、マリアベルは丸みを帯びた目と落ち着いたワインレッド色の瞳が柔らかい印象を与える。


決して目立つような存在感があるわけではないが、可愛らしいながらも上品な雰囲気を纏っていて、シェリルも一緒にいて居心地の良さを感じていた。


そんなおしとやかなマリアベルが、このように廊下を走るのは珍しい。


「あ、マリアベル。ごめん待った? 席取りをお願いしてごめんなさい」


「ううん、それはいいの。ただ……ちょっと、今日は食堂は行かない方がいいと思うの」


「? どうして?」


今日のデザートは苺のムースとチョコレートのプレートで、シェリルもマリアベルもそれを楽しみにしていたのだ。


なのにどうして今日は食堂に行ってはいけないのだろうか?

シェリルが不思議に思って首を傾げて尋ねると、マリアベルは視線を泳がせて、言葉を濁した。


「そ、それは……実は……」


だが、じっと見つめるシェリルに観念したように、マリアベルが言いにくそうに口を開きかけた時だった。


キャッキャという楽しそうな声が、それをかき消した。


「ベルスアーク様、今日は楽しかったです! その……また、お昼をご一緒できたら嬉しいです」


「あぁ、機会があれば」


「やった! ありがとうございます!」


声の方を見ると、ちょうど食事を終えたベルスアークが食堂から出てくるところだった。


そしてそのベルスアークにはまるで寄り添うようにディエラが並んでいる。


その様子を見たシェリルは硬直し、低い声で一言漏らしてしまった。


「ゲッ……」


思わず淑女らしからぬ声が出てしまう。


(どうしてこのタイミングで遭っちゃうかな! あと5秒遅ければ鉢合わせもしなかったのに!)


するとベルスアークもシェリルの存在に気づいたようだ。


一気に表情が無くなり、こちらに冷たい視線を向けてきた。


「えっと……ご、ご機嫌よう殿下」


予想外の遭遇になんとか引きつった笑みを浮かべたシェリルだったが、正直ここから早く逃げたい思いでいっぱいだった。


そんなシェリルを見たディエラはハッと何かに気づいた様子になると、慌てた声を上げた。


「もしかしてベルスアーク様はシェリル様とお食事の予定でしたか!? 気づかず申し訳ありません……」


「いや、シェリルとは学校で食事をするような仲ではないのだから、気にする必要はない。むしろこんな女とは食事をしたくないな」


ベルスアークはまるでシェリルの存在など眼中にないかのようにディエラを見つめ、口の端を少し上げて控えめに微笑みながらそう言った。


仮にも婚約者を目の前にして、よくもまぁ堂々とそんなことが言えたものである。


普通の婚約者ならばショックで涙目になるような発言だろう。


だが、ベルスアークには好意の「こ」の字もないシェリルとしては目の前で繰り広げられるこの光景に、どう反応していいのか分からなかった。


それよりもシェリルの心を占めていたのは焦りだった。


(早く、ここから離れなくちゃ! ってかこれ以上関わったら、好感度がマイナスになってかもしれないわ……! そうよ、そうだわ! あの時の宣言でuint型じゃなくてint型で書いてたじゃない!)


シェリルは前世で作ったプログラムの内容を思い出して青くなった。


uint型というのは0以上の数値しか設定できない。

つまり好感度であれば0以下になることはない。


一方int型を設定している場合は、マイナスも設定できる。

つまり、好感度がマイナスになる可能性があるということだ。


(もしマイナスになったらやっぱりデッドエンドになる……わよね?)


そんなことを考えているとは思いもしていないベルスアークは、睨むような目でシェリルに向き直った。


「何か文句でもあるか?」


「えっ!? い、いえ、全然文句なんてありません!」


ここは穏便にやり過ごすに限る。


シェリルは気を取り直し、笑顔を張り付けながらベルスアークを見た。


「では、私は食事をとりたいと思いますので、失礼しますね」


「はっ? 待て――」


それだけを言うとシェリルは逃げるようにダッシュでその場を後にした。


後ろからベルスアークの戸惑いの声が聞こえた気がしたが、気のせいだということにしよう。


シェリルは食堂に入ると足を止め、深く息を吐いた。


(はぁ……自然に立ち去れたわよね?)


あとで人目のつかない場所で、メニュー画面で好感度を確認した方がいいだろう。


シェリルがそう考えていると、シェリルを追いかけてマリアベルがやって来た。


「シェリル!」


「あ、マリアベル。先に来ちゃってごめんなさい」


「ううん、いいの。それより……大丈夫?」


「大丈夫、とは?」


心配そうに恐る恐る尋ねるマリアベルの言葉の意味が分からず、シェリルは首を傾げた。


するとマリアベルは言いにくそうに口を開いた。


「その……ベルスアーク様とディエラ様のことよ」


「?」


やはり言っている意味が分からず、シェリルは怪訝な顔をしてしまう。

すると、マリアベルは焦れったそうに続けた。


「だから、その……ベルスアーク様とディエラ様が一緒にいるところを見て平気なのかしらと思ったの。単なる噂だと思っていたけど、まさか本当に2人で過ごしているとは思わなくて。私がもっと気を回していればあんな現場を見なくて済んだのに。ごめんなさい」


「えっ! マリアベルが謝ることじゃないわ。殿下が誰とご飯を食べようと何しようと、気にしてないから全然平気よ。っていうか、噂ってあの2人が付き合っているとかそういう話?」


「まぁ……実はそうなの。最近よく2人で一緒にいるし、親密な関係らしいって噂されているの」


「そっか」


その言葉にシェリルは考えた。


この間ディエラとベルスアークの出会いイベントがあった。

そして今やその2人が噂になるくらい一緒に過ごしている。


加えて先ほどの親密ぶり。


ということは、ヒロインのディエラはベルスアークルートを選択したということだろう。


(ここで下手に関わって、殿下の好感度をマイナスにしたくないわね)


これまでの経験上、悪役令嬢であるシェリルはディエラを害したという話になり、何度かデッドエンドになっている。

ベルスアークルートになった以上、2人に関わって好感度が変化し、デッドエンドを迎えるというのは避けたい。


ならば全く関わらないのが最善だろう。


(そうだわ! この機会に婚約解消を持ちかけましょう! そうすれば殿下はヒロインのディエラと結婚できるし、私は殿下と関わらないで済むし)


考え込んで無言でいるシェリルに対し、マリアベルはベルスアークがシェリル以外の女性と懇意にしていることにショックを受けていると勘違いしたのか、慌てた声を上げて、シェリルを励まそうとした。


「で、でもあなたはベルスアーク様の婚約者なのだもの、気にすることないわ! きっと一時的なことだと思うし。一番はシェリルのはずよ」


「え? あぁ、それは別にいいの。むしろ好機だわ!」


「好機?」


「ふふふ! なんでもないわ。さ、それより早くランチを摂りましょう!」


「え、えぇ」


シェリルの言葉にきょとんとしているマリアベルの腕を引き、シェリルは満面の笑みを浮かべて歩き出した。


(ナイスアイデアすぎるわ! なんでもっと早く婚約解消っていう方法を思いつかなかったのかしら。よし、善は急げ! 家に帰ったらさっそくお父様に相談しましょ)


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