1.1回目のシェリルの人生
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スローペース更新になりますが、どうぞよろしくお願いいたします!
「シェリル・バートン、貴様との婚約を破棄し、ディエラ・キゴール嬢の暗殺未遂で逮捕する」
シェリルの目の前でそう言い放ったのは婚約者であり、この国の王太子であるベルスアーク・リノスグラーヴェだ。
碧と青が混じり合った不思議な色の瞳は、いつもシェリルを冷たく睨みつけるように見ていたが、今は憎しみと怒りが込められている。
シェリルは顔を歪め、震える手を押さえながら必死に自分の無実を訴えた。
「わ、私はそんなことしていません!」
「はっ、白々しい。お前がディエラの飲み物に毒を入れたのを目撃した者がいる。それに毒を入手した店もすでに特定されている。何より……お前の部屋から毒の瓶が見つかった。これ以上の証拠はないだろう!」
「そんな、何かの間違いです!」
「衛兵! この者を地下牢へ連行しろ!」
ベルスアークの命令によって衛兵がシェリルを拘束する。
それを何とか振りほどこうともがきながら、シェリルはなおもベルスアークに向かって叫んだ。
「お願いです! 私を信じてください! 殿下!」
だがシェリルの訴えを無視するようにベルスアークは顔をそむけると、傍らに立っていた薄桃色の髪の少女――ディエラの華奢な肩を抱き寄せ、柔らかな声で語りかける。
「もう君を害そうとする者はいない。安心してくれ」
「ベルスアーク様! ありがとうございます」
「これで邪魔者はいなくなった。私と、結婚してくれるね」
「はい!」
そう言って固く抱き合う2人の姿を視界の隅に捉えながら、シェリルは悔しさに顔を歪めた。
そして衛兵に引き立てられるまま、地下牢へと連行されていった。
※
ガシャン
激しい金属音を響かせて鉄格子が閉まる。
それを呆然とした面持ちでシェリルは見つめ、衛兵の姿が完全に消えると盛大にため息をついた。
「はぁ……今回もダメだったかぁ」
がっくりと項垂れたシェリルはそう呟いた後、気を取り直すように顔を上げた。
そして両手を胸の前でパンと叩く。
すると目の前に青く透明なパネルが浮かび上がる。
それは青白く発光して、暗い牢の中をぼんやりと照らした。
パネルには「フローチャート」「好感度」という文字がやはり透明な水色の文字で描かれている。
(今回は上手くいくと思ったのに。どこの選択肢を間違えたのかしら)
シェリルはそう思いながら「フローチャート」という文字に触れた。
と言ってもそれは実体を持つ文字ではなく、空中に浮かんでいるだけで触れた感覚はない。
ただ、「ピッ」という電子音が鳴っただけである。
(そろそろこのループから抜け出したいものね)
そう。
シェリルがディエラを害そうとした罪で断罪されるのは今回で98回目になる。
シェリルは同じ結末を98回繰り返しているのだ。
ディエラの殺害を企てたということで断罪された日、シェリルは突然前世の記憶を思い出し、そして気がつけば断罪前に時が戻っていた。
だが、その後再び断罪され、そしてまた時間が巻き戻る。
それを人は「巻き戻り」と呼ぶのかもしれない。
(なんでこんなことになっているのかしら……?)
シェリルは心の中でため息をついた後、すべての始まりの日――1回目の巻き戻りを思い返した。
※
それは、城で催された王太子ベルスアークの卒業パーティーで起こった。
壇上に登場したベルスアークは厳しい顔をしており、その不穏な空気に会場がざわめいた。
そして、会場が騒めいたもう一つの理由は、驚くべきことにベルスアークが伴っていた女性が婚約者のシェリルではなく、ディエラ・キゴール子爵令嬢だったからだ。
ディエラは不安そうな顔をしてベルスアークに寄り添い、彼に身を寄せた。
するとベルスアークはディエラの不安を和らげるように優しく微笑んだ。
そうして壇上に上がったベルスアークは、ディエラに向けた笑顔を一転させ、鋭い口調でシェリルの名を呼んだ。
「シェリル・バートン、前に出ろ」
その冷たい声と射殺すような視線に、シェリルの体に緊張が走った。
恐る恐る前に進み出ると、周囲の参加者たちは潮が引くようにシェリルに道を空けた。
(これから何が起こるの? 怖い……)
恐怖で震えるシェリルをベルスアークは壇上から冷たい目で見下ろした。
「何故ここに呼ばれたのか、分かっているな。今ここで許しを請うなら、処罰を軽くしてやる」
「も、申し訳ありません。何を仰っているのか分かりません」
「そうやって白を切るつもりか。お前の悪行は全て知っている」
「悪行?」
考えても心当たりはない。
シェリルは思わず怪訝な顔でベルスアークに重ねて尋ねた。
「本当に心当たりがないのです。何のことでしょうか?」
「お前はディエラに毒を盛って殺害しようとしたことだ!」
「毒?」
「いくら私がディエラを愛しているからと言って、嫉妬に駆られて人を殺そうなど! やはりお前は恐ろしい女だな。この場で貴様との婚約は破棄する。そしてお前を殺人罪で処罰する」
シェリルはベルスアークの言葉の意味が分からず、思考が停止した。
確かにベルスアークはディエラに恋をしており、学園にいる時も常に彼女を傍に置いていた。
婚約者としてそれは決して気分の良いものではなかった。
だが2人が愛し合っているのであれば、身を引いても良いと思っていた。
しかし、ディエラの態度はベルスアークだけを愛しているようには見えなかった。
ディエラはベルスアークがいない時、他の男性とも近しい態度を取り、時には婚約者のいる男子生徒にまで思わせぶりな態度を見せた。
そのせいで、本気でディエラに思いを寄せる生徒もいた。
また貴族としてのマナーに欠けており、目上の人間に対しても砕けた口調で話すのだ。
他にも様々なマナー違反があり、こうした数々の振る舞いに対し、シェリルがディエラに苦言を呈したところ、逆にシェリルがベルスアークに叱責された。
「ディエラに対する嫉妬か? 醜いな。お前こそディエラを虐めているじゃないか。ディエラを貶めるような噂を流し、ゴミを頭からかぶらせ、教科書を破って嫌がらせをしていることを私が知らないとでも思ったか」
と。
その後、ベルスアークはシェリルを遠ざけ、無視するようになった。
そうして今、シェリルはあらぬ罪で断罪されている。
「わ、私はそんなことしていません!」
「はっ、白々しい。お前がディエラの飲み物に毒を入れたのを目撃した者がいる。それに毒を入手した店もすでに特定されている。なにより……お前の部屋から毒の瓶が見つかった。これ以上の証拠はないだろう!」
「そんな、何かの間違いです!」
「衛兵! この者を地下牢へ連行しろ!」
シェリルの体を衛兵が捕まえようとする。
それに全力で抵抗し、無実を訴えようとベルスアークのもとへ駆け寄った。
「殿下はこの女に騙されているのです!」
「うるさい! 私に触るな!」
苛立った声を上げたベルスアークが、剣を抜いたかと思うと、シェリルの体に鋭い痛みが走った。
目の前に自分の血が噴き出しているのが見えた。
「っ!」
悲鳴を上げようとしたが、口からごぼりと血が溢れて声にならなかった。
シェリルは自分の体が床へと倒れるのを感じた。
(あぁ……私は死ぬのね)
大理石の床に広がる真紅の血を見つめながらシェリルはそう思った。
そして、視界は闇に包まれた。




