直樹と直樹
お久しぶりです。
遅くなりました。
大きく目を見開く。
文字はしっかりと読めているのに、書かれていることを脳が「見間違いだ」、「なにかのミスだ」と言って理解しようとしてくれない。
そのため、直樹は震える手で自分の選択した番号と抽選された番号を確認する。
1回目の確認。番号は一致していた。
涼しくなってきた頃なのにジトジトと汗が流れてくる。
1度ブラウザを閉じ、再び開いた後の2回目の確認でも、番号は一致していた。
鼓動が早くなり、視界がチカチカとしてくる。
スマートフォンの電源を落とし、再起動した後の3回目の確認。1回目、2回目と同じように一致していた。
「ああ俺は7億円当選したのか。」と、3回目にしてついに直樹の脳がそう認めてくれた。
途端に、体の奥底から喜びが湧き上がってくる。
「当たってる...。当たってるよ!7億円!」
直樹がこれほど声を張り上げたのはいつぶりだろうか。
しかし、隣人に聞かれてはトラブルになると悟ったのか、直ぐに左手で口を押さえる。
いつもなら小さな音でもすぐに壁を叩いてくる気の短い隣人がさっきの声に反応しないことから外出中らしい。
直樹はいそいそと銀行のアプリを開き、自分の預金残高を確かめる。
〈預金残高 109,618円〉
直樹が切り詰めて約6年間かけてコツコツと貯め続けた預金だ。
この努力がチリのように霞むほどの7000倍の大金が入っているのをこの目で確認する予定であった。
しかし、口座には7億円が振り込まれていない。
サァっと足先から体温が抜け落ちていき、背中に冷や汗が伝う。
慌てて、宝くじのアプリを再び開き当選金振込についてのページを確認し、とある一文を見つけ安堵する。
『当選金は自動振込で行われますが、1週間程度の時間がかかります。』
1週間。
直樹の口座へ7億円が入るまで1週間の時間がかかる。
たったの1週間である。
あとたったの1週間これまでの生活を送れば、その先の人生は億万長者として過ごせるのだ。
だが、これまでのように過ごせるはずがないのである。
今の直樹は7億円当選したことへの興奮、
突然人生が変わったことに対する混乱と希望、
当選金が自分の口座にはない不安、
税金や当選が周囲にバレることの疑問や恐怖など、
様々な感情が入り乱れいつもなら泥のように眠るほどの夜勤明けの疲れや眠気など感じられないほどであった。
約7年間、当選した時に何をするかをあれほど考えたのに、そんなものは所詮持たざる者の空論に過ぎなかったと今、ひしひしと感じされられていた。
幸い、土日は学生が時給も安いため深夜シフトを優先されるので今日は直樹は休みだ。
ひとまず、忙しない心を落ち着かせるため散歩に出ることにし、軽く身なりを整えて外へ1歩踏み出す。
が、2歩目の足が止まった。
何故か分からないが、家を出て目の前の道路に、犬を連れて散歩をしている人を捉えた瞬間酷く戦慄し、隠れるように家へ引き返し、頭から布団を被る。
直樹は自分の行動に困惑する。
なぜなら犬を連れている人は、普段から散歩している姿をたまに見かけ、無愛想に会釈するだけの直樹にも笑顔で挨拶をしてくれる物腰の柔らかい老婆だったからだ。
直樹は気づいていないが、戦慄した理由は直樹の当選したことを知られていて、当選金を『狙われている』と感じたからだ。
当然、実際はそんなはずなどない。
誰にも直樹が当選したことは知られていないし、当選金を狙われてもいない。
そんなことは直樹自身も理解しているからこそ自分の行動に困惑を隠せない。
なんと、直樹の身体も脳も勝手に全ての人間が自分を『狙っている』と反応してしまったのだ。
布団を被り、いつもとは様子の違う自分へ必死に「大丈夫だ」、「何も怖いことはない」と言い聞かせ宥める。
その片隅でなぜ今、自分は震えているのだろうか?
一体何に怯えているのだろうか?
と、自分自身のことが分からなくなっていた。
だから直樹は、ただただ縮こまり何に怯えているのかを分からない自分を宥めながら、少しでも早く時間が進んでくれることを願う事しか出来なかった。
今回、本当はボツにしたいくらい上手く書けなくて、でもこれをボツにしちゃうともうこのお話書きたく無くなると思い、何とか人様に見せられるものになってるか...?と自分が許せるギリギリに修正して投稿しております。
大目に見てください。




