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辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第一章 灰霧の辺境

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第一話 

灰色の霧がゆっくりと街を飲み込んでいた


崩れた石畳

割れた窓

誰も住まなくなった家


空は曇り、風は冷たい


噂は聞いていたけど...ここまでとは


辺境ルーメン

かつては交易地として栄えた街だったらしいが

今では旅人すら寄り付かない


理由はいくつもある。

魔物、疫病、異種族同士の争い

そして...貧しさ


「......思ったより壊れてる」


霧の中を歩いていた少女が小さく呟いた。


銀灰色の髪

深い碧の瞳

背中には大きな薬箱


少女の名前はシオン

16歳


王都の薬師見習いだった...

だが、今はもうその肩書もない


シオンは立ち止まり古びた井戸をのぞき込む。

縄は切れており、水桶もない。

だが...

「水自体は綺麗」


シオンは小さく息を吐き、辺りを見回すと

崩れかけた扉に手をかけようと一歩踏み出した…


その瞬間、背後で風がゆれる気配がした

「止まりな」

低い声

振り返ると崩れた壁の上に一人の少女が立っていた


灰色の髪

鋭い金色の目

頭には狼の耳


「じゅうじん...」


ボロボロのマントを羽織、錆びた短剣をこちらへ向けている。


「ここで何している」


シオンは少し考えてから答えた


「街を見てる」

「は?」

獣人の少女はあきれた様子であったが、警戒はゆるめない


「住めるか確認してる」

狼獣人の少女...ナギは眉をひそめた


「......あんた、頭おかしいの?」

「よく言われる」

真顔で返され、ナギは一瞬言葉を失った。


霧の向こうから遠吠えが響く。

魔物の声だ。

ナギは舌打ちした。


「とにかく帰りな。この街は終わっている」

「そう?」

「そうだよ」


シオンはあらためて辺りを見回した。


崩れた建物

人気のない通り

乾いた空気


けれど...

「畑は作れそう」

「.........は?」

「あと、薬草も育つ。湿度がちょうどいい」


ナギは頭を抱えた。

さっきから会話が嚙み合わない。

普通、こんな街を見たら怖がる。


なのに、この少女は...

ナギは小さくため息をつくと

「...あんた何者?」

「薬師」

しっかりとした短い返答

「元、だけど」

ぎりぎり聞こえる声...そう言った瞬間だった。


ぐらり、と

ナギの身体が揺れた。


シオンの視線が動く

右脚

マントの隙間から見えた包帯が、赤黒く染まっていた。


「その傷、化膿している」

ナギの目が鋭くなる。

「見るな」

「熱もある」

「だから、見るなって!!」


シオンはナギに近づいた。

ナギが短剣を向ける。


「近づけば刺す」

「消毒しないと悪化する」

「話聞け!!!」

シオンは足を止めた。

数秒、じっとナギをみる。

それから静かに言った。


「そのままだと3日以内に歩けなくなる」


ナギの表情が凍った。

図星だった。

痛みはもう限界に近い。


だが、薬師など信用できない。

獣人をまともに診る人間なんて、ほとんどいなかった。

金がなければ後回し。

そういうものだ。


ナギは低く唸る。

「...いくらだよ」

「何が?」

「治療費」


シオンは首をかしげた。

「別にいらない」

「………は?」

「困ってるなら助けるでしょ」


あまりにも自然に言われて、ナギは言葉を失った


霧の風が、2人の間を吹き抜ける


シオンは薬箱を下ろし、中を探った。


乾燥薬草

包帯

小瓶


王都を追い出されるとき、それでも持ってきたものだ。


「座って」

シオンはしっかりとした声でナギに言った

「信用できるか」

「でも、痛いでしょ」

「っ…」

返せない


シオンは続ける

「化膿が進んでる。多分昨日から熱もある」

「…なんでわかる?」

「顔赤いから」

ナギは反射的にほほを押さえた。


その様子をみて、シオンは少しだけ目を細める。

笑った…ようにも見えた。


「大丈夫、なるべく痛くしない」

その声だけは、不思議と優しかった。





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