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043_幾何学模様が刻まれた短剣


「緊張がほぐれたみたいね」


「それは……お姉ちゃんが変なことを言ったから……」


 自分の感情がシオンにコントロールされているようで、少し悔しくなったフィオラは小さな頬を膨らませる。


「でもね、まさか本当にフィオラが私と肩を並べる日が来るとは思わなかった」


「驚いた?」


「知らせを聞いたときは椅子から転げ落ちるかと思ったわよ」


 嬉しそうに話すシオンは心から喜んでいる様子だった。


 そのとき、ゴーン、ゴーンと鐘の音が鳴りフィオラはハッとする。


「もう行かないと」


 入場するタイミングを厳格に決められているわけではないが、些か会話が弾んでしまった。


「ちょっと待って、最後に渡したいものがあるの」


 シオンはローブの内ポケットから短剣を取り出すと、フィオラに手渡した。


「気に入ってもらえといいんだけど、どうかしら」


 フィオラは黙って受け取ると、鞘から短剣を抜く。


 鏡が光を反射するように、よく研がれた刀身はフィオラの顔を映す。


 一見して高価な代物であることがわかるほど短剣は精巧に作られていた。


 特に、剣身の中央にあたる血溝に彫られた花の彫刻の美しさは目を見張るものがある。


 フィオラが短剣を様々な角度から眺めていると、柄頭に取り付けられた琥珀がキラリと輝いた。


「綺麗……」


 心が動かされるほど素晴らしいものと出会ったとき、自然と口数は減るのかもしれない。


 刀身に薄っすらと刻まれた幾何学模様をじっと見つめるフィオラに、シオンは胸をなで下ろす。


「杞憂だったみたいね」


「こんなに良いものを貰って喜ばない人はいないわ」


 興奮気味に言い返すフィオラだったが、次第に不安な表情を見せ始めた。


「けど、本当に貰っていいの? 高かったはずよ?」


「子供がそんなこと気にしないの」


「茶化さないで。……中身は大人なんだから」


「うふふ、ごめんなさい。でも、本当に気にしないで欲しいのよ。これは私がフィオラに送りたいと思ったから手に入れただけ」


 フィオラの正直な気持ちとしては、こんな高価な――もしかしたら値が付けられないかもしれない贈り物に気が引けていた。


 しかし、シオンはこの短剣を手渡すために、遠方からわざわざ駆けつけてくれたのだ。


 ここで受けとらないのは、彼女の気持ちを踏みにじることと同義であった。


「…………」


 小さな両手で柄をしっかり握ると、刀身に映った自分と目が合った。


 フィオラはふと思う。


 シオンはフィオラにどんな反応を期待していたのか。


 少なくとも、今のような不安気な表情を望んではいないだろう。


 ――贈り物を貰うのに、こんな顔をしたらいけないよね。


 刀身の前でにっこり笑ったフィオラは、その笑顔をフィオラへ向ける。


「……わかった。何があっても、必ず大切にするわ」


「ええ、そうして」


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