042_世界と原色機関
「えっと……その……フィオラのことが気になって……居ても立っても居られなくて帰ってきちゃった」
てへっと笑って誤魔化すシオン。
大人な女性が見せる子供らしい笑顔は老若男女を魅了する力があった。
しかし、そんなものに惑わされないフィオラは大真面目に話を続ける。
「え? 大丈夫なの? 急にお姉ちゃんがいなくなったら困る人だっているはずよ」
容赦なく追及するフィオラにシオンは目を泳がせる。
「確かにその通りなんだけど……」
「お姉ちゃんにしかできないことがあるから、わざわざ別の大陸に出向いたんでしょ」
「…………」
「最悪の場合、損害賠償を請求されることもあるかもよ?」
「……返す言葉が見つからないわ」
事の重大さを理解してきたのか、シオンの瞳から光が失われていく。
「お姉ちゃん、帰ってきたらまずかった?」
「かなーり、まずいと思う」
「どうしたらいいかしら?」
「すぐに帰るしかないと思うけど」
「そうよね……」
勢いで帰ってきてしまったシオンと、それを咎めるフィオラ。
どちらが姉でどちらが妹かわからない。
そんな、しどろもどろしたシオンの反応にフィオラは口元がほころぶ。
「ふふ……でも、今日は来てくれてありがとう。実は私も心細かったの」
これからフィオラが会うのは世界中の要人であり各地を統治する支配者だ。
きっと、人類を導く彼らにとってフィオラはただの手駒に過ぎないだろう。
そんな連中の中に一人放り出させれるわけだが、いくら中身が大人なフィオラであっても不安を強く感じていた。
そして、フィオラの心境に気付いていたからこそ、シオンは無理をしてでも会いに来たのかもしれない。
「礼は必要ないわ。フィオラは私の妹なんだから」
「そうだけど、親しき中にも礼儀ありって言葉があるのよ」
「いい言葉ね。初めて聞くけど、大体の意味は伝わったわ」
「だから、お礼を言わせて。ありがとう」
「えぇ」
こうして会話を続けているだけでフィオラの心は軽くなっていた。
「あと……それから……」
鮮やか緑色の髪をいじりながらフィオラはもぞもぞしだす。
まだまだ喋りたいことは沢山あったが、フィオラがこの場に留まれる時間は限られていた。
数ある話題の中から選別作業をしていると、焦燥感から軽いパニック状態となる。
さらに、ただ微笑んでフィオラの言葉を待っているシオンと目が合い、頭の中は真っ白になった。
しばらくの間、言葉を詰まらせているとシオンから助け舟が出される。
「そうだわ、私からも一つアドバイスさせてもらっていい?」
ピンとたてられた人差し指にフィオラは注目した。
過去に同じ立場を経験してきた先輩のアドバイスだ。
これ以上頼りになるものはない。
無言でこくりと何度も頷くフィオラを見つめたシオンは血色の良い唇を開いた。
「自分を過小評価しないこと。今日は堂々としていなさい」
その言葉通り、シオンは自信満々に話を続ける。
「今日の主役はフィオラなんだから、他の有象無象に気を遣う必要はないわよ」
「でも、集まっているのは偉い人達じゃないの?」
「みんな偉いわよ。だけど、その偉い人たちが畏れている存在が機関であり、あなたなの」
シオンの人差し指がフィオラを指す。
「わたし……?」
「機関のうち誰か一人でもその気になれば、国家の一つや二つ、簡単に潰せるわ。だから、今のうちに媚びを売って、いざという時に助けてもらおうと考えているのよ」
自分が気を遣われるべき立場だということにフィオラは驚愕する。
が、それと同時に納得もした。
――機関の人間を止められるのは、同じ機関の人間しかいないってことよね。
場合によっては機関内の衝突も有り得るということだが、シオンの存在がフィオラにとっては非常に頼もしく感じる。
「あ、そうそう、もしもガチャガチャ言ってくる輩がいたら私に言っていいわよ。相手が誰だろうと、ぶっ飛ばすから」
笑顔で冗談交じりにシオンは言っているが、恐らく本気なのだろうとフィオラは察する。
そして、本気でそんなことを考えているシオンのことがおかしく思えた。
「ふふふ、なにそれ。そんなことしたらお姉ちゃんが世界中から命を狙われるわよ」
思わず吹き出してしまったフィオラにシオンは優しく微笑む。




