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041_過去の記憶


 整った顔立ちの幼い少女は、似つかわしくない厳しい表情を湛えて回廊を歩む。


 床には如何にも高級そうな赤い絨毯が敷かれ、壁には様々な地域の風景画が等間隔で飾られている。


 それら絵画の値打ちを少女は知らないが、額縁に彫られた手の込んだ装飾模様から安物であるはずもない。


 窓の外は入念に手入れされた庭が広がっており、暖かい日差しが少女の足元を照らす。


 一見すると、王宮と比較しても遜色のない建物。


 しかし、少女にとってはそれが居心地悪く感じる原因となっていた。


「はぁ。憂鬱だわ。式典を否定するつもりはないけど、慣れてないのよね……こういうの」


 この日は、原色機関に新たに加わる少女のため、世界各国から要人たちが集っていた。


 大陸間の移動も容易ではないため、1週間以上も国王が不在となる国さえある。


 それほど、今回の式典が世界全体にとって重要ということだ。


「適当に挨拶して『はい、終わり』ってなればいいんだけど」


 要人達が1つの会場に集まる。


 それぞれの国の思惑が交差する場となり、少女には想像もつかないような高度な情報戦が繰り広げられるはずだ。


 簡単に幕が閉じられるなんてことは有り得ない。


 愚痴と一緒に溜息を漏らし、せめて厄介ごとにだけは巻き込まれないことを祈る。


「というか、この絨毯もわざとらしく思えてしまうのは私だけかしら。こんなことにお金を使うくらいなら孤児院に寄付して欲しいんだけど」


 一歩進む度に絨毯の値打ちが下がっていくようで、気楽に歩くことすらできない。


 仮に今歩いている絨毯を持って帰ったら何人の子供たちを養えるか、なんてことを考えていると大きな扉の前に到着する。


「ふぅー。いよいよね」


 胸に手を当てて深呼吸する少女。


 窓ガラスに反射して映る自分の姿を見て、服装の最終確認を行う。


 少女が身に纏っている黒のローブは肌触りの良い毛皮で作られており、要所要所に金糸で刺繍が施されていた。


 サイズこそ小さな身体に合わせて作られているが、最近12歳の誕生日を迎えたばかりの少女には不釣り合いな代物だ。


 唯一の少女らしい装飾品は、左胸に付けられた花をモチーフとしたブローチくらいか。


 それもブローチがガラスで作られていたらの話だが。


 ――いっそのこと、この場から逃げ出してローブと絨毯を売ってしまおうかしら。


 表情一つ変えずに下心に耳を傾ける。


 そのとき、遠くから少女の名を呼ぶ声が聞こえてきた。


「フィオラ!」


 突然自分の名が呼ばれて振り向くと、そこいたのはシオンの姿だった。


 艶のある滑らかな黒髪を乱しながら小走りで近づいてくる。


「おねえ……ちゃん?」


「はぁ……はぁ……よかった。間に合ったみたいね」


 膝に手を付き呼吸を整えるシオンは、肩を大きく上下させている。


「どうしてこんなところにいるの? どうしても手が離せない任務があるから今日は欠席だって聞いていたけど……」


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