016_推薦状はなかったことに
内心では落ち込んでいたブレッグだったが、すぐにこれでよかったのだと思いなおす。
一度諦めたことを未練たらしく追い求めない方がよいのだと。
それに、才能の欠片もない自分が彼女の弟子になるなんて、思い上がりも甚だしい。
「もしかして、本当に私の弟子になりたかったりした?」
――ばれた。
フィオラはブレッグの些細な表情の変化に気付いている様子だった。
冗談を見抜けなかったブレッグとは異なり、フィオラは人の心を読み取る力にも長けているようだ。
沈黙してしまったブレッグに対してフィオラは言葉を投げかける。
「気を悪くしたなら謝らせて。そんなつもりはなかったの」
フィオラの顔から笑顔は消え、申し訳なさそうに目を伏せる。
「いや、いいんだ。本当に何とも思っていないから」
「でも……」
ばつが悪そうな顔をしているフィオラは簡単には食い下がろうとはしない。
「俺は今の生活に満足しているし――」
「ねぇ、ブレッグが良ければだけど、私に推薦状を書かせてもらえない?」
「……推薦状?」
今まで送ってきた人生の中で全くと言ってよいほど縁のない単語に、ブレッグは思わず聞き返す。
パーティーから追い出されたことはあれど、誰かから推薦されたことなんて一度もない。
「私、友達は少ないけど、知り合いならたくさんいるの。その中には魔法の先生をしている人だっているのよ」
平らな胸を張って自慢気に語る。
「ブレッグの師匠にするなら誰がいいかしら。実践重視で力をつけたいなら領域守護者なんかがいいわよね。それとも、基礎からしっかり学びなおすなら……」
勝手に話が進んでいることに危機感を覚えたブレッグはフィオラを制止する。
「あのー。ちょっと考える時間をもらってもいい?」
思考を巡らせていたフィオラは驚いた表情でまっすぐ見つめる。
「え、ええ。もちろんいいけど……嫌だった?」
「嫌じゃないし、推薦状を書いてくれるって言ってくれてすごく嬉しかったんだけど……」
自身の複雑な心境を表すのに適切な言葉が思い浮かばず口籠る。
推薦状を書いてもらうということは、フィオラの弟子にはなれないことを意味していた。
そして、ブレッグはフィオラだからこそ、彼女の弟子という存在に憧れを抱いていたのだ。
フィオラが紹介してくれる人物なら素晴らしい師匠であると確信しているが、それでも何か心に引っかかるものがあった。
「……そうよね。話を急に進めすぎていたわね。もし師匠を探したくなったら、出来るだけ早く私に手紙を送って」
フィオラはそう言いながらポケットから取り出した小さい紙をブレッグに渡す。
その紙には住所らしき地名が記載してあった。
ここに手紙を送ればフィオラと連絡が取れるということだろう。
「ありがとう。感謝するよ」
「ふふ、大したことしてないわ。というより、まだ何もしてないといった方が正しいかしら」
魔法に関する有識者とのコネクションを作ってくれると口約束しただけでも、十分何かしてもらっているように思える。
そのため、ブレッグは思い浮かんだ言葉を口にする代わりに、心の中でフィオラにそっと感謝する。
自然と微笑みが零れたブレッグに対し、フィオラも微笑み返す。
出会った頃にあった変な緊張感はいつの間にか解れてきていた。
初対面の相手には聞きにくいことも、初対面ではなくなった今なら聞ける。
「ところで、こんな山奥に来た理由って聞いてもいい? フィオラみたいな凄腕の魔法使いが来てもやることないと思うんだけど」




