014_初めてのいただきます
ブレッグが運んできた皿を見て、フィオラの琥珀色の大きな瞳はより一層輝きを増す。
皿の上にはソースのかかったステーキと、付け合わせの香草が盛り付けられていた。
「――美味しそう」
2人分の皿をテーブルに並べたとき、ブレッグの目に見慣れない物が写る。
それは、フィオラに向き合うように置かれたアンティーク調の椅子だ。
「あれ? この椅子は?」
「ふふ。ブレッグが料理を作っている間に用意したのよ。ちょっとした恩返しってところかしら」
「いつの間に……」
ブレッグは魔物肉の調理に集中しているあまり、フィオラがプレゼントを用意していたことに気付いていなかった。
ちなみに、この小屋に客人が訪れたことなど一度もなく、招き入れるつもりもなかったため椅子は1つしか用意していない。
そして、その椅子はフィオラに座ってもらっているため、ブレッグはそこら辺に転がっている丸太でも持ってこようと考えていた。
「さ、座ってみて」
ブレッグは洒落た細工が施された背もたれを掴んで椅子を引き、ゆっくり腰を下ろす。
椅子の作りは非常にシンプルだが、それ故に頑丈であり座っていて安心感があった。
さらには肘掛けまでついており、長年使っていた――今はフィオラが座っている椅子よりも座り心地が良い。
よく見ると継ぎ目が見当たらないことから、フィオラの魔法によって作られたのなのだろうとブレッグは推測する。
「どう?」
たった一つの贈り物で物思いに耽るブレッグに対し、フィオラは首を傾げて不思議そうにしている。
「あ、座っていて居心地が良いよ。素敵な椅子をありがとう」
素直な感想を伝えると、フィオラの口元から笑みがこぼれる。
「そう。気に入ってくれてよかったわ。あまり時間がなかったから簡素なデザインになってしまったけど」
時間があったらどんな素晴らしい椅子が出来るのか気になるが、それは一度頭の片隅に置いておく。
「これから大切に使わせてもらうよ。さてと、冷めないうちに食べようか」
「ええ、早く食べましょう。実はもうお腹が空いて限界なの」
空腹であることが恥ずかしいのか作り笑いで誤魔化そうとしている。
フィオラの空腹感はブレッグも薄々気付いており、これ以上お預けするのは残酷とさえいえた。
用意したナイフとフォークをブレッグが握ったとき、フィオラは両手を合わせて一言。
「いただきます」
まるで祈りを捧げているかのような所作に、それを初めて見たブレッグは目を見張る。
――宗教? いや、もしかしたら貴族たちの作法という可能性もあるか。
ブレッグは比較的に無知な部類の人間である。
幼少期は村という小さなコミュニケーションで過ごし、青年期は街へ出たが1人でいる時間を好んでいた。
そのため、自頭が悪いわけではないが、貴族や宗教といった興味の薄いものに対する知識は皆無であった。
次はどんな動作をするのか内心気になっていると、フィオラはナイフとフォークを器用に使い一口大にカットした肉を口に運んだ。
何事もなくて少しあっけなく感じると同時に、緊張感が押し寄せる。
「口に合うかな? 初めて作る料理なんだけど」
唇の端っこにソースをつけたフィオラは小さな口を動かしてよく味わう。
初めは不思議なものを食べているかのように戸惑った表情をしていたが、だんだん笑顔が溢れ出す。




