運命の恋人のお話
2020.05.13
なんとびっくり!
ほたる恵様が、この話を気に入ってくださって、イラストを描いてくださりました(´;ω;`)
めちゃくちゃ可愛いミラボーちゃんとウルスラです。
著作権は、ほたる恵様に帰属します。
無断転載・使用・トレス・保存等『見る』以外の行為を一切禁じます。
もう、感謝しかない(´;ω;`)
2021.06.26
人間ミラボーちゃんの絵を描いたので、挿入しました。
向日葵のように明るい髪を高い位置で一つに縛り、よく通る声で花を売る女性がおりました。
その世界では比較的大きな街の片隅に、彼女の住居及び店舗があります。庭に咲き乱れる花を切り、時には鉢ごと台車に積んで毎日売り歩きました。
特に美人というわけではありませんでしたが、彼女の声はとても柔らかく、聴くと心が明るくなります。また、彼女は始終笑顔でハキハキしており、見ていると元気が出ると評判の女性です。
彼女の庭は広大で温室もありますが、家はこぢんまりとしており若干窮屈でした。
それでも彼女は、毎日が幸せでした。花に囲まれて生活出来ることが、何より楽しかったのです。
年老いた両親と共に暮らしていますが、花屋の経営は彼女が行っておりました。
ある日のこと。
花屋の店先に一人の男が立っていました。
彼は猫背で、伸び放題の前髪に隠れて表情は見えません。ただ、時折髪が揺れると吹き出物だらけの皮膚が見えます。瞳は伏せ目がちで、黄色に光っておりました。
お世辞でも清潔とは言えない男は、じっと庭の花を見つめています。
通りすがりの街の人々は気味が悪いと怯え、男を避けていきました。花を売り終え岐路に着いていた女性を見るなり、人々は大慌てで告げました。
「貴女の家の前に不審者がいるよ! 気をつけて」
忠告された女性は怯みましたが、意を決し家へ帰りました。そして、首を傾げて家の前に立っている男を観察します。
確かに身なりは汚いです、けれど悪人には思えませんでした。
「あの、何か御用でしょうか?」
彼女は躊躇することなく、普段の調子で話しかけました。
男はその声に飛び上がると数歩後退し、モジモジと身体を動かします。
彼女が近寄ると、男はボソボソと呟きました。蚊の鳴くようなか細い声の為、聞き取るのに苦労をしました。
「き、綺麗なお庭だなぁと、おも、思いまして」
「あら、お花が好きなのかしら? まぁっ……庭弄りをしていた手をしているのね!」
男を注意深く見ていた彼女は、彼の傷だらけの手に気づきました。そして、そっと手に取り微笑みます。
自分のゴツゴツとした手が柔らかく包み込まれ、男は一気に顔を赤くしました。
「私の手と一緒だわ! 貴方も花屋を?」
「は、はい、以前の街で……。ですが、職を失くしてここへ来ました。す、すみません。素敵な庭でしたの、つい眺めてしまい」
慌てて手を振り払うと、男は深く頭を下げ立ち去ろうとします。
彼女は焦って呼び止めました。
何故か分かりませんが、彼を一人で行かせてはいけない気がしたのです。
「待って! ねぇ、うちで働かない? 人手不足なの。給料は安いけど、庭の小屋でよければ貸すから住み込みでどうかしら?」
「え、えぇ!?」
彼女は曇りない笑顔を見せると、男に駆け寄りました。
自分でも何故そんなことを言ったのか解らず、驚いています。見ず知らずの人間でしたが、どうしても彼が悪い人には思えなかったのです。
それどころか、この男を酷く知っている気がしました。
「私は、ウルスラ。貴方のお名前は?」
ウルスラに手を掴まれ慌てふためいた男ですが、身体を大きく震わせ静かに名乗りました。
「ミラボーと、申します」
聞いた途端、ウルスラは息を飲み瞠目しました。
小さい頃一緒にいた不思議な蛙と同じ名前だったからです。そういえば、瞳の色や動きが鈍そうなところも似ていました。
その蛙は、村に山賊がやって来た時に皆を守って死んでしまいました。
彼女にとってその蛙は友達であり恩人であり、神の遣いでした。
ですが、蛙と同じ名前だと言われて喜ぶ人などおりませんので、ウルスラは敢えて言いませんでした。
両親はやって来た不気味な男に、露骨に眉を顰めました。
けれども、ウルスラは叱咤します。
「人を見た目で判断してはいけないって教えてくれたのは、お父さんとお母さんでしょう!?」
「で、でもなぁ、ウルスラ……」
居心地の悪いミラボーでしたが、結局ウルスラが両親を説き伏せ、埃だらけの庭の小屋で寝泊りすることになりました。
硬い床の上にウルスラが持ってきてくれた毛布にくるまって寝るだけでしたが、ミラボーは感激しました。身なりが不気味でなかなか雇ってもらえず、途方にくれていた為です。
こうして、花屋での生活が始まりました。
ミラボーは男でしたがウルスラより虚弱で、肥料を運ぶのも一苦労です。
また、外見が不気味な為に、通りかかった人々はミラボーを指差して嘲笑しました。
その度にウルスラは激怒し、怒鳴りたい苛立ちを懸命に堪え、唇を噛み締めます。
けれど、ウルスラは知っていました。
確かにミラボーは上手く仕事を進めることが出来ませんが、花たちへ愛を惜しみなく注いでいました。優しく水をやり、丁寧に肥料を与え、毎日話しかけていました。切り花にする時は「痛くしてごめんね」と常に謝罪をしていました。
不器用なだけで真面目な人だと、ウルスラはミラボーを見守っていました。
暫くして、慌ただしかった毎日が嘘のように穏やかになりました。
時間があったので、思い切ってミラボーを改造することにしたウルスラは、悲鳴を上げて逃げ回る彼を強引に椅子に座らせ、伸びきった茶色い髪を切ります。
人の髪を切るのは初めてでしたので上手く出来ず、かなり短くなっていました。
すると、今にも泣き出しそうな幼いミラボーの顔が出てきます。
「あら、意外と若いのね……って失礼よね。一体幾つなの?」
「ぼ、僕は今年で十八歳です」
「若い! 私は三十六歳よ。やだぁ、二倍も長生きしているのね」
「そ、そうですか。美しい方なのでもっとお若いかと」
「あら、煽てても何も出ないわよ?」
ウルスラは腹の底からせり上がるようなくすぐったさを感じながら、ミラボーの髪を整えていきます。
「うん、顔立ちは悪くないわ。ミラボー、ほら、目を見て話すの。ここね、ここ。人の鼻の頭を見て話す癖をつけましょう。あと、言葉ははっきりと! 口を大きく開けて!」
「む、無理です。僕はウルスラさんのように美しくないので、人と目を合わせるなんて、そんな、そんな、心臓が止まりそうなことっ」
美しい、と言われて頬を染めたウルスラは、照れ隠しでミラボーの背を強く叩きながら、会話の練習を始めました。
その日から、視界が開けたミラボーは懸命にウルスラに言われた事を頭の片隅において生活しました。
腹から声を出すようにしたので、すぐにお腹が空き、ご飯をよく食べるようになりました。
「お、おかわりください!」
元気よく茶碗を突き出すミラボーに、ようやく両親も打ち解けて、笑顔でご飯をよそってくれました。
髪が顔にかからなくなったので、顔の吹き出物は徐々に少なくなりました。また、庭で湧く清水に薬草を漬け込み、その水を顔に塗布していたことも効果が出たようです。
たくさんご飯を食べるようになったので身長が伸び、身体を懸命に動かして筋肉もついてきました。
何より、まだ俯き気味でしたが、頑張って人の目を見るようになったので好感度が上がりました。
ウルスラと共に花を売りに行くと、声を出して売り込みます。若くて純朴な男が花を売っているという噂は、次第に広がっていきました。
その頃には、身体は若干細長いものの筋肉がほどよくついており、ミラボーは一般的な好青年になっておりました。
その為、少女や中年女性から熱い視線を向けられるようになりました。
異性に囲まれ困惑気味のミラボーを、ウルスラは複雑な気持ちで見ておりました。
大事な弟が盗られてしまったような、やるかたない気分です。
「やあウルスラ! 今度の休みに出かけないかい、二人で」
「駄目よ、花屋は忙しいの」
「若いのが入っただろ? 任せて遊びに行こうよ」
ウルスラは結婚適齢期を過ぎていましたがよく働くし、笑顔も可愛らしく気立ても良いので、異性から毎回声がかかりました。
その度に、ミラボーは控え目にそちらを見ておりました。
こちらも、大事な何かが奪われてしまいそうで意気消沈しておりました。
ある日、新しく入荷した肥料を運んでいたウルスラは、あまりの重さに大きく溜息を吐きました。
「重いものは男の僕が運びますよ、無理しないで。ウルスラさんは女性なのだから」
そう言って、ミラボーが運んでくれるようになりました。
最初、ウルスラは拒んでおりましたが、最近は素直に甘えるようにしました。
何時の間にやら逞しい青年になったミラボーを、眩しく見上げるウルスラ。
短髪が似合う、評判の青年です。真面目で笑みを絶やさない、人気者になりました。
「ミラボーは良い子ね」
「また子供扱いしましたね」
「子供……じゃないか、もう立派な大人よね」
笑うウルスラに、ミラボーも笑います。
しかし、どちらも胸に住み着いた同じ想いを言い出すことはありませんでした。
言葉にするには歳が離れすぎていたのです。
笑いが途切れると、気まずい雰囲気になりました。
恋愛初心者の二人はどうしてよいのか解らず、沈黙したまま庭の花を見つめています。
「……花は、綺麗ですね。花を愛する人も、とても綺麗です」
「そうね、花には人を癒す不思議な力があるよね。私、子供の頃、心が洗われるような美しい花畑に行ったの。そこで不思議な蛙さんを拾って、一緒に暮らしていたのよ。信じてもらえないかもしれないけれど……その蛙は珍しい種類で、頭に宝石がついていたの」
しんみりと呟いたウルスラに、ミラボーは静かに相槌をうちました。
宝石がついている蛙など聞いたことがありませんが、嘘を吐く人ではないと知っているので受け入れます。
「実はね、気を悪くしないで。……貴方と同じ名前だったの。蛙のこと、“ミラボーちゃん”って呼んでいたの」
その瞬間でした。
ミラボーの脳裏に、はっきりと記憶が蘇ったのです。
『見て! この蛙さん、ここに綺麗な宝石が埋まっているの。きっと、この花畑の守り神よ!』
『ミラボーちゃん。見て、またお庭に新しいお花を植えたの。美味しいかな、美味しいかな!』
『ミラボーちゃん、死んじゃったの……?』
仰天し、大きく瞳を開くと立ち上がります。手にしていた鍬が、手から滑り落ちました。
ミラボーは幾度も瞬きをして庭を見つめます。
思い出したのです、以前は蛙で、山奥の花畑に住んでいたことを。
そして、可愛らしい少女が見つけてくれて、彼女の庭に引っ越ししたことを。
あの日、彼女の庭で咲き誇っていた花々と同じ花が、ここでも咲いていました。
そして、山奥の花畑にあったような花々も、ここで咲き乱れています。
だからミラボーは、この庭先で無意識のうちに足を止めたのです。
懐かしくて、心が震えて、あの少女に逢いたくて、泣きそうになって。
「ミラボーです……。僕がその、蛙のミラボーです!」
叫んだミラボーは、反射的にウルスラを抱き締めました。
小さく悲鳴を上げたウルスラでしたが、悪い気はしませんでした。
「あの時、泣いてくれてありがとう! お墓を作って、花で囲ってくれたよね。見ていたよ、そして、後悔した。護ったはずなのに、君がずっと泣いていたから。でもね、本当に嬉しかった。あんなにも醜い僕を拾ってくれて、凄く感謝した。今度こそ、貴女の笑顔を護りたい。どうか、護らせてくれませんか。大好きな貴女の笑顔を護り抜くよ。僕はきっと、ウルスラという花を護るためにココへ来たのだと」
一気に捲し立てるミラボーですが、ウルスラには何が何やらわかりません。
けれども、ミラボーの胸の鼓動を聞くウルスラは、心地良くて思わず頷いていました。
……目の前の青年が、あの蛙?
混乱していますが、同時に素直に受け入れた自分もいました。
何故ならば、確かに何処かで逢ったような気がしていたからです。
力強く抱き締められ、ウルスラは戸惑いがちに、それでもそっとミラボーの身体に腕をまわしました。
「貴女を、愛しています。蛙だった頃から、ずっと」
ミラボーは迷うことなく、快活に告げました。
その瞬間でした。
パン、と何かが爆ぜたような音がして、二人は唖然と庭を見つめます。
二人を祝福するように、何処からともなく薄い桃色の花弁が降ってきました。
そして、庭中の花が一斉に開花し、光の粒子を放出します。
甘い香りが、二人を包み込みました。
眩い光に気づいた近所の人達が、何事かと一斉にウルスラの家に集まって来ました。
花の中で佇み、頬を染めて寄り添い和やかに微笑む二人は、見ている者が幸せになれる雰囲気を醸し出しています。
穏やかな気持ちになった皆は、知らず拍手を贈っていました。
「今、解ったよ。君の仕業だね……有り難う」
ミラボーは唇を小さく動かし、とある少女の名を告げました。
それは、魔王に身を堕とした自分を屠った少女であり、ウルスラを護って死んでしまった時に会話した少女の名前。
すると、応えるように庭に咲いていたマリーゴールドの花が、一瞬だけ大きく揺れました。
醜い蛙は、欲した物をついに見つけました。
それは、甘くて温かい、寄り添って護り抜く、たった一人の恋人です。
ここは、惑星クレオ。
そのドゥルモという街に、小さな花屋がありました。
花々は誇らしく咲き誇り、常に人々の目を癒してくれます。
経営しているのは向日葵のように明るい女性と、その彼女の傍で常に微笑み続けている青年。
二人の愛情で育つ花は、今日も見事に開花しております。
お読みくださり有り難う御座いました。
これにて蛙のミラボーちゃんのお話は、完結でございます。
尚、ミラボーちゃんは私の代表作である“DESTINY”に登場する魔王ですが、現在なろうで読む事は出来ません。※ムーンライトで連載中です。
作者、登場する四人の魔王の中で、この蛙が二番目に好きだったりします。
お付き合いくださり、誠にありがとうございました(深礼)。
「あなたにも、素敵な出逢いがありますように……」