番外編:元勇者の贖罪と、繋がれる絆
何か過去残した感じがありまして、勇者カイルのその後を追加しました。
隣国との戦争が終結し、かつての「勇者」カイルは、その戦功によって辺境に近い小さな領地を与えられた。
ゲームのシナリオという見えない鎖から解き放たれた彼は、憑き物が落ちたような顔をしていたが、心には消えない「澱」が残っていた。
ある日、カイルは馬を走らせ、アルファードの屋敷を訪ねた。
豪華な門をくぐり、かつて自分が「豚」と見下した男の前に膝をつく。
「……アルファード・ベルンシュタイン。いや、辺境伯閣下」
「やめてくれよ。柄じゃないんだ、閣下なんて」
アルファードは相変わらず、お餅のようなお腹を揺らしながら、のんびりとハーブティーを啜っていた。
カイルは拳を握りしめ、絞り出すように声を出す。
「……セリカ様に、謝罪をしたい。あの日、僕が……ストーリーの強制力だったと言い訳するつもりはない。僕が彼女に働いた非道は、万死に値する」
アルファードの瞳が、一瞬だけ鋭く細められた。
だが、彼は首を横に振る。
「駄目だ。セリカに会わせることはできない。……あの日、僕が彼女に飲ませた薬は、記憶も、体も、すべてを『なかったこと』にするためのものだ。今さらお前が謝って、彼女にあの悪夢を思い出させる必要はない」
「……っ。だが、それでは僕の気が済まない! 閣下、僕を許すというのか? 憎くないのか? 殺したいとは思わないのか!?」
詰め寄るカイル。
アルファードはふぅ、と長い溜息をつき、空になったカップを置いた。
「そうだな。前のループ……いや、前は殺してやりたいと思っていたさ。でもな、今の僕には守るものが多すぎるんだ。お前もそうだろう? クラリスに毎日尻を叩かれて、領地を支えて……お前ばかりに構っていられるほど、僕は暇じゃないんだよ」
「本当に……本当にそれでいいのか?」
「しつこいぞ。死んで詫びたいなら勝手に死ね。……ただ、お前の帰りを待っている人のことも考えろよ。死ぬより辛いのは、遺された方なんだからな」
カイルは、その言葉に崩れ落ちるように頭を下げた。
アルファードの「許し」は、慈愛ではなく、圧倒的な「拒絶」に近い無関心だった。けれど、それがカイルにとっては唯一の救いとなった。
数十年後、受け継がれる誓い
カイルはその後、生涯をかけて辺境伯領の盾となることを誓った。
彼は子供たち、そして孫たちに、口癖のように言い聞かせた。
「もし、辺境伯領に異変があれば、何をおいても真っ先に駆けつけろ。あの一族を守ることこそが、我が家の唯一の存在意義だ」
その誓いは、カイルの孫であるレオニダスに受け継がれる。
再び隣国が侵攻を開始し、辺境が戦火に包まれた際、わずか13歳の少年レオニダスは、祖父から譲り受けた一振りの剣を手に、誰よりも早く戦場へ現れた。
「……離れろ! その方に指一本触れさせない!」
敵兵に囲まれ、絶体絶命だった辺境伯の姫(アルファードとセリカの孫娘)を救ったのは、かつての勇者の面影を持つ、けれど真っ直ぐな瞳をした少年だった。
「君は……?」
「レオニダス。君を守りに来た。……ずっと昔から、そう決まっていたんだ」
その後、レオニダスは姫を妻として迎え、カイルの領地は辺境伯領と正式に合併された。
かつて世界を壊しかけた「勇者」の血筋は、今や「悪役令息」が守り抜いた平穏な国境を、永久に守護する最強の盾となったのである。
アルファードが願った「小さな幸せ」は、世代を超え、かつての敵さえも家族に取り込むほどに、大きく、温かく広がっていった。
11回の絶望を超えたお餅の英雄と、救われた勇者の物語。これにて、本当に幕引きです
これにて本当に終わりです。応援ありがとうございました。もしよければ感想などもお聞かせくだい。




