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3.8.17


 男3人の旅と比べて、ペースは落ちる。

 しかし、初日の旅は順調だった。


 コユルギは、クラゲの質問攻めにされているが、大部分は無視していた。

 ときどき、チラチラと助けを求めるようにオレを見る。


 大丈夫だ。

 クラゲは悪いやつじゃない。


 気にかかるのは、シチリの方だった。

 足取りが重い。

 疲れているというようにもみえない。


 足に纏わりつくのは、置き去りにした遺構の未来。

 そして、行く先で待ち受けている過去。

 重いのは荷物ではないのかもしれない。



 喋っているのはクラゲだけで、他の4人は、黙々と歩みを続けた。


 やがて夕方になり、小川の近くで野営の準備にとりかかる。


 オレとアルクは、焚火の準備を始め、クラゲは近くの林へ向かった。

 シチリとコユルギは、背負っていた革袋を降ろし、食事の下準備を始めたようだ。


 シチリは家から、調味料を持ち出していた。

 岩塩に、こま切れにされた乾燥ハーブ。それと何かは分からないがスパイスのようなもの。


 焚火の準備が終わると、食事の準備もシチリとコユルギが担当した。

 途中で、ベリーを抱えたクラゲが戻る。


 そして、最も驚いたのは、シチリが革袋からボウルを取り出したことだ。

 それも、5つ。

 ボウルによそった今夜の食事は、ちぎって溶かした大麦パンとそら豆のシチュー。


 そして驚きの2つ目がスプーンだ。

 アルクは、自前のスプーンを持ち歩いている。

 しかし、オレとクラゲは持っていないので、野営で使うスプーンは常に手斧だ。

 しかも鍋に直接だ。

 温くなってきたら素手だ。


 でも今夜は、野営なのにボウルのシチューをスプーンで食べた。


 シチリが煮込んだシチューは美味かった。

 やさしいハーブの香り。

 様々な調味料で整えられた味付け。

 そら豆の歯ごたえと、とろみのある大麦パンの食感。


「いやぁ素晴らしい夜ですね。なんだが、心まで安らぎます」

「おぉぅ、こりゃ絶品だぜ。おれ達だけじゃこりゃ不可能だ」


 オレの知る現代日本とは、似ても似つかない食文化。

 それでも、このシチューの味を支えるのは、作った人の心、食べる人に向けた配慮。

 おふくろの味だったのだ。


 そういえば、食べていないな……オレも……


 妙な感情が湧き上がって来た。

 慌ててソレは掻き消した。

 

 食べ終えてシチリに視線を向ける。

 隣りでシチューを運ぶコユルギの口を、皺だらけの手で拭っていた。

 積み上げて来たシチリの年月が、手の皺の1本1本に刻まれている。


 鍋がカラになり、全員が食べ終わると、コユルギが立ち上がってボウルとスプーンを集める。

 それをぜんぶ鍋に入れて、シチリと2人で川へと歩いていく。


「おっ! おれも、手伝うぜ」

 クラゲが、その後を追う。


 焚火の前に残ったのは、オレとアルクの2人。


「家庭的な人がいると、野営もずいぶん変わりますね」

「ああ……そうだな」


「安全に送り届けたい……ですね……」

「何日くらいかかりそうだ」


「そうですねぇ……

 まぁ、少しペースは抑えますが……

 ボーテスには明後日到着として、

 そこから4日というところですね」


 あと6日。


 そのあとオレ達は、見張りの順番を決める。

 シチリとコユルギは、見張り免除だ。


 最初の夜は、オレが1番、アルクが2番、クラゲが3番。


 デバイスを出して時間を確認した。

『 ELAPSED 01:38 』


 枝と地面を使って、ざっくりと計算してみる。

 現実世界の時間だと、2~3時間以内でカタセ村に到着できる見込みだった。


 ログアウト無しで、一気にカタセ村まで行けるか。 

 そんなことを考えながら、旅の最初の夜が更けていった。




 翌朝。


 目が覚める。

 アルクはまだ、眠っていた。


 驚いたことに、クラゲが……

 働いていた。


 手早く焚火に鍋を準備してから、リスの下処理をしている。

 前日の夕方に仕掛けたらしい罠にかかっていたと言う。

 そして、コユルギへウインクのアピール。


 シチリも、コユルギも早くに起きて、朝食の支度を始めていた。


 準備ができたところで、アルクを起こし、食事を始めた。


 夕べ、ひと晩干したベリーを煮込み、それに浸した甘酸っぱい乾燥パンの朝食だった。

 それだけじゃない。

 昼のおやつ用にと、5つの乾燥パンも軽く浸して、布に包んでいる。


 なにか、オレのカラダから、ぬるいものが湧いてくる。

 なんだろう……これはなんだ。

 かつて感じていた、包み込んでくるような、ぬるいなにかだ。


 ダメだ……良くない。

 浸ってはダメなやつだ。

 だから、振り払う。


 そして立ち上がる。


「行くぞ」


 まだ食べ終わらない、アルクやクラゲに言葉を続ける。



「片づけたら、出発だ」




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