表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/166

3.8.03


 旅は、順調だった。


 クラゲは、人当たりの良い男で、深く詮索するようなこともしない。

 アルクともすぐに打ち解けたようだ。


 ただ、アルクが既婚者だと聞いて、良い嫁さんを見つけるにはどうしたらいいかと、旅すがら指南を受けていた。

 26歳で、独身というのは、この世界の社会では深刻なのだろうか。


 オレ達は、小休止を挟むことなく夕方まで歩き続けた。

 暗くなる前に、小川を見つけ、近くで野営をした。


 その日の晩飯は豪勢で、クラゲが持ち込んだ野菜をたっぷり煮込んだシチューだ。

 ただし、調味料もダシも無いので、味は薄い。

 それでも、腹は充分に膨れた。


 野営の見張りは3交代。

 オレ、クラゲ、アルクの順だとアルクが提案した。

 クラゲが2番手なのは、昼間だけで信頼を得た証だろう。


 オレが1番手なのは、3番手のアルクを見張りたいならどうぞという配慮だろう。

 アルクはオレを信頼している。オレはアルクを信用していない。

 見透かされている。

 その通りだ。


 だが、盗まれそうな物を持っているのは、アルクだけだ。

 それを見張れというのは、アルクを守るのと同意だ。

 利用する者、される者。

 ふざけんな。

 だから、朝まで、ぐっすり寝た。

 オレがアルクの思惑を利用した。今夜はオレの勝ちだ。



 翌日も、旅が続いた。

 太陽が、右から左へと移動する下で、オレ達は平原を歩き続けた。

 道は無い。平原だ。

 アルクの言う「あの山脈の切れ目を目指します」という言葉だけが、頼りだった。


 時折、森を迂回し、浅瀬の川を渡り、また夕方になる。

 夕食は、野菜の残りと、ベーコン。それと干し豆や乾パンをふやかしたスープだった。

 味も少しはまともで、量も充分だ。


 昨夜2番手だったクラゲが眠そうなので、今夜はオレが2番手を引き受けた。



 異変が起きたのは、見張りの時間だった。

 襲ってきたのは、野盗でもオオカミでもなく、ハラの違和感だ。

 胃が重い。そして昨日よりも寒気がする。

 見張りをアルクと交代し、横になったが、眠れない。


 胃の重さと、吐き気。

 なんだ……これは。


「どうしたんですか、ソウジ?」

「いや、ハラが……」

「食あたりですか?」


 エールを呑もうと、革水筒を取り出し、キャップを開ける。


「まってください……その革水筒、もしかして、だいぶカビてますね。洗ってますか?」


「洗うのか……これ……」


「ええ……まぁ、普通は、旅がおわったら、洗います。すぐカビが生えますから。

 もう、呑まないほうがいいかも知れませんよ、それ?」


 これが原因なのか……?

 オレは、中のエールを捨てた。

 革水筒の底の方から出てきたのは、黒ずんだカビの塊だった。

 酸っぱい泥のような腐臭。

 もう一度横になったが、陽が昇るまで、眠れることは無かった。


 朝になり出発する。

 予定では、今日の昼に、ボーテス村だ。

 遅れるわけにはいかなかったが、ペースが落ちた。


 昼近くになって、見かねたアルクが、少し休みましょうと提案した。


 オレ達は、森沿いの木陰に腰を降ろした。

 クラゲが呑むか?と、キャップを開けた革水筒を差し出したが、断った。


 何も口にしたくない。

 気分は、最悪だ。

 冷や汗が流れ、寒気を感じる。

 意識が少し朦朧とする。

 休んで良くなるどころか、時間が経つごとに悪化していく気がする。




 しばらく座って風に当たっていた。


 風に乗って悲鳴のような甲高い声。

 クラゲが腰を落として、声の方を眺めている。

 アルクも同様に視線を送り、剣の柄に手を掛けた。


 半キロほど先の平地で、複数の男達が、斧や剣で戦っていた。


 10人はいるだろうか。全員野盗のような格好をしている。

 その中で、ひとりだけ、異彩を放つ存在があった。


 喧噪の中央で。

 牛につながれた台車の上。


 髪の長い、若い女性の姿だった。


 歳は、十代後半だろうか。

 遠くて分かりにくいが、身なりは良さそうだ。


「あれは、なんでしょうか?」

「あの女をめぐって、野盗どもが乱闘でもしてんのか」


 クラゲとアルクの2人が、状況を観察している。


「4人と6人……ですね。

 4人が、中央の女性を守っているようですね」


「助けに行くか?」

「助けたところで、私たちに何かメリットでも?」

「おれの未来の嫁かもしれねぇ」

「私とクラゲさんの2人で加勢すれば人数は互角になりますが……」

「いや、おれは戦えねぇし、行かねぇ」


 クラゲと、アルクがオレを見る。


「……オレは今日はムリだ。次の機会にしてくれ」


「まぁ、殺される前に死にそうですね」


「あ、逃げたぞ」


 見ると、女性が台車から降りて、駆け出していた。

 こちらの森に向かって走って来る。


「やべぇ、こっちに来るぞどうする?」

「巻き込まれたくありません。隠れましょう」


 クラゲが真っ先に木陰に身を隠す。

 アルクは、オレを太い木の裏まで引きずった。


 女性が少し離れた森に入る。


 4人組の方は、全滅したようだ。

 生き残ったのは3人。

 その3人が、女性を追い掛けて森へ駆けている。


「逃げ切れますかねぇ」

「おれの未来の嫁。無事だといいなぁ」


「それより、あの牛車……なのですが……」

「おう、気が合うなアルク。おれも今、同じこと考えた」


 最初に、クラゲが牛車に駆け出していく。

 アルクは、オレを肩に担ぎ、後に続いた。


 牛車の周囲に倒れているのは7人。

 まだ、息がある者もいるようだが……

 クラゲがコイン袋を手早く回収している。


 アルクは、牛車にオレを載せた。

 少しだが、果物。リンゴが入った籠が載っている。


「さぁ、出発しましょう。

 ここからなら、夕方には、ボーテス村に到着できます」


 意識が朦朧とする……

 いま起きていたことが、なんなのか良く分かっていない。


 どうでもいい……

 とにかくオレは歩かずに、ボーテス村まで行ける。



 その事実だけが、今のオレの意識を支えていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ