3.8.02
翌朝。
おやしろのベッドで目覚める。
机の引き出しから、銀貨を4枚取り出して、コイン袋に入れた。
引き出しの銀貨は、残り3枚。
金貨は2枚とも置いていくことにする。
次に地図。
無くしたら困るかもしれないが、旅には必要だろう。
工房に降りて、マントを1枚、ハンガーラックから掴む。
「友人のために、1枚譲ってくれ」
離れるのが嫌なのか、パリパリに固まったマントは、なかなか離れなかった。
おやしろを出て、まずは、シラスの床屋へ向かう。
血染めのサインポールは、もう刺さっていなかった。
裏口に回って、戸をノックすると、すぐにシラスが顔を出した。
「ソウジか。3日ぶりかな」
「ガスコスの様子はどうだ?」
「まともに歩けるようになるまで、あと10日ってとこだな。まぁ、入れよ」
台所を通り抜け、ガスコスが寝かされている寝室へ。
寝ているガスコスが、首だけこちらに回す。
「よぉ、ソウジ。どうした。酒でも持ってきてくれたのか」
部屋は、ワイン臭い。
ガスコスの傷口の消毒が、まだ続いているのだろう。
「鍋は回収して、ガロムに届けてきた。
はやく帰ってこいって、言ってたぞ」
「そうかぁ、かあちゃんには悪ぃが、
もう少しここでぐうたらするわ。
シラスの嫁さんが、メシも着替えも、みんなやってくれるからなぁ。ガッハハハ」
「オレはまた、旅に出る。
しばらく来られなくなる。
だから、これ、おまえにやるよ」
おやしろから持ってきたマントを、寝ているガスコスに被せた。
「なんでぇ、ずいぶん立派なマントじゃねぇか」
「おまえのマントを黒こげにした、詫びだ」
「おぅ、おおぅ、おおおぅ。こりゃいいマントだ。もらうぜ」
「じゃあな」
「おぅ、きぃつけてな。
おれぁ、先に帰っちまうかもしれねぇが、ウガーラ村にも、また遊びにこい」
ガスコスに別れを告げて、部屋を出る。
それから、シラスに声を掛けた。
小袋から、銀貨を2枚出して、シラスに渡した。
最近知ったが、銀貨は1枚の価値は、鉄コイン100枚。
2枚なら農民の3〜4ヶ月分の給料に等しい価値だ。
「当面の入院代だ。足りるか」
「おぅ、充分だ。ツリは無いぞ」
そのあと、少し世間話をしてから、シラスの床屋を出る。
酒場へ向かう途中で、クラゲとすれ違った。
「よう、ソウジ。数日顔もみせねぇで、どこ行ってたんだ」
「少し出かけていただけだが、また今日から、旅に出る」
「旅? どこ行くんだ」
「スピカの街だ」
「そんな遠くまでか。独りでか?」
「いや、アルクという旅人と2人だ」
少し間があった。
クラゲが、なにか考えている。
「なぁ、ソウジ……おれもついてっていいか?」
「まぁ……オレは別に構わないが。長旅だぞ」
「いやぁ、
オレもそろそろ嫁さん探してぇんだが……
この村にぁ、歳が離れすぎのヒミコちゃんくらいしかいなくてなぁ……
街なら、いい嫁さん見つかるかもしれねぇ」
「仕事はいいのか」
「おれぁ孤独な雑用係だ。
居なくたってだれも困んねぇよ。
出発はいつだ?」
「今日の昼前だ」
「よし、ちょっと準備してくるわ。
酒場へ行けばいいか?」
「ああ、先にアルクに説明しておくよ」
クラゲは、家の方へと駆けていった。
急だが、同行者が増えそうだ。
オレは酒場へと向かう。
アルクは、外の水桶で顔を洗っているところだった。
後ろから近づき、声を掛ける
「同行者が増えるが、構わないか?」
「おや、ソウジ。おはようございます。
構いませんが、
例の件は、内緒でお願いしますよ」
顔を拭きながら、今朝も無表情のアルクだ。
「心配するな、
余計なことを喋るつもりはない。
オレよりも、旅慣れていそうな男だ。
役に立つだろう」
「わかりました。2人よりも3人の方が、いろいろ都合も良いでしょう。歓迎しますよ」
それから、オレ達は、旅の準備を始めた。
アルクは「食糧を調達してきますので」と言って、雑貨屋へ行った。
オレは酒場でまたズタ袋を借りる。
ついでに、マスターに頼みこんで、鉄鍋も借りた。
「これは、でっかいツケだ。
かならず生きて帰って来て鍋を返せ。
おまえの命より大事だ」
ズタ袋に、地図と鉄鍋を入れる。
最後に、鉄コインを1枚渡して、革水筒のエールを補充してもらう。
先に酒場に来たのは、こげ茶色のマントを羽織ったクラゲだった。
腰には手斧を差し、肩に荷物を背負っている。
「家に置いといてもダメになるからな。食料だ。あとで喰おうぜ」
クラゲの荷物は、キャベツや玉ねぎなどの野菜と、乾燥したベーコンだった。
しばらくすると、アルクも酒場に戻って来る。
「2~3日分の食糧を買い込みました。ソウジの分は、わたしの奢りです」
塩漬け肉や、カチカチの乾パン、それと干し豆だろうか。
見ただけでも、固そうなのが分かる。
アルクに、クラゲを紹介する。
クラゲが、木こりで森に詳しいと知って、アルクもクラゲを歓迎した。
それから、地図を広げ、アルクに問う。
「目的地はどこだ?」
「ほほぉ、これは良くできた地図ですねぇ……」
アルクがしばらく地図を眺める。
そして、カタセ村の少し北側を指さした。
「ここですね。これがスピカの街。この少し北のこれが、王都ヴィルゴです」
スピカまでの地図上の距離は、ウガーラ村の距離と比較すると、およそ6倍だった。
「ただし、6日間連続で旅をするのは、さすがにムリです。
途中にあるボーテス村に、補給に立ち寄ります。ここです」
アルクが、指を差した場所は、ほぼ中間。
「ボーテス村に着くのは、いつだ?」
「今から出発すれば、3日目の昼頃には到着できるでしょう」
「そうか、出発しよう」
「おう。行こう」
「参りましょう」
「あ、まってまって」
最後に声を掛けてきたのは、看板娘のヒミコだ。
「はい、朝ごはん。ツケだって。気を付けてね」
ヒミコが両手で抱えていたのは、3個の黒パンだった。
少しカビたチーズが挟んである。
「ありがとな、またな」
オレ達は、出発した。
アルクは、王都へ金型を届けに。
クラゲは、嫁探しに。
オレは、シチリという女性を探しに。
日はまだ、朝を少し過ぎたくらいの高さだ。
予定よりも早く、オレ達は、カタセ村を離れた。
あとがき#7
~クラゲ~
よう、おれだ。クラゲだ。
へんな名前つけやがってよぉ。
なんか、ホントはチョイ役だったらしくてな
適当につけたみてぇなんだよ。
まぁそれはあれだ。おれの実力だ。
おれの魅力っていうの?
しょうがねぇよな。
名前あんのに、一度も呼ばれてねぇやつもいるしな
(酒場のマスターとか、マスターの嫁さんとか)
それより、そこのあんた。
ちょっと後ろから台車おしてくれ。
仕事おわったら、呑みに行こうぜ?
ああ、そうそう。
あとがきの地図は、活動報告にあるらしいぜ。
おれにぁ、なんのことかわからねーけどな。




