3.7.05
明日はもう、お見舞いに行かなくてよくなった。
楽で助かる。
たぶん、オレの身の安全のためじゃない。
手が回っている。
組織の影が露見すると、計画が破綻するからだ。
2枚の写真でも、充分に効果があったと判断した。
そういうことだろう。
そして、もう、オレの知ったことじゃない。
コンビニに寄って、A4厚紙封筒とボールペンを買う。
住所は、いつもの届け先。
昨日1度見せただけの、免許証。
それとボールペンも放り込んだ。
品名は「文房具」だ。
封を閉じてポストへ。
スマホを出して、未希にメッセージ。
『仕事が終わった、今から行く』
『うん、まゆさんと、2人でマンガ読んでる』
時計は、13時50分。
メッセージが入る。
まゆからだ。
『デバイスわすれないで』
……しまった。
ログインデバイスはアパートだ。
『すまん、アパートだ。デバイスを拾ってから行く』
そもそも、あれを、仕事場に持ち込むわけにはいかない。
電車に乗る。
何度か、まゆからクレームのメッセージ。
1時間かけて、最寄りの駅へ。
駅のロッカーに預けていた、紙袋を回収し、トイレで着替える。
朝、買ったばかりのスーツと革靴を紙袋へ。
トイレを出て、近所の大型のアパレルショップへ向かう。
紙袋を、その店の衣類回収ボックスに放り込む。
最後に革手袋を外してそれも。
店を出てアパートへと歩く。
アパートの周囲は、いつもと同じく殺風景だ。
誰かが張り込んでいるような影も無い。
部屋に入り、冷蔵庫からログインデバイスを掴みポケットへ。
なんだか、忙しい1日だ。
ようやく、未希達が待つネカフェへと向かう。
ネカフェのカラオケブースに入ると、2人は静かにマンガを読んでいた。
「……おせーぞ」
最初に、まゆが言う。
「デバイスは持ってきた」
ポケットに揺られて、反応したのか、2台とも、すでに画面に文字が表示されていた。
未希のデバイスは、エラーのままだ。
「で、作戦はあるか?」
「まず、今の状況を教えて」
まゆに促され、ログアウト前の状況を教えた。
トールスに殺されかけたこと。
アルクという男と共に、スピカの街を目指すこと。
おやしろや渡し人という名称、コインの流通。
どうやら、それらは……
オレが行くメモリア特有の物で、未希のメモリアとは異なっているようだった。
結局、特に作戦らしい作戦も無かった。
オレの置かれている状況は、あまりにも特異らしい。
それでも、ひとつだけ。
「魔法の発動を試して」
と言われた。
できるわけないだろうが……
しかも、NPCは魔法が使えないらしく、聞いてもわからないだろうと言われた。
エラーのデバイスは、まゆが、調べ物をしたいというので、置いていくことになった。
左手に1台だけ持ち、ログインする。
「じゃあ、行ってくるよ」
オレは、ログインしようとしたが……
カラオケブースは、ソファーやテーブルが邪魔で、ログインできるスペースが確保できなかった。
しかたなく、テーブルの上に乗る。
文字が緑色に変わった。
まゆと、未希が見上げる中で、オレは『 Join Me 』をタップした。
「おにいちゃん」
「なんだ?」
虹の膜が迫って来る。
「お金がたりなくなるから、1時間以内にもどっ……」
それが、ログイン前に聞いた、未希の言葉だった。




